第二十九話 みんみんみん!
みーんみんみんみんっ!!
みーんみんみんみんっ!!
「うぅー……」
朝。
ユウトは、おふとんの中でもぞもぞ動いた。
みんみんみんみんっ!!
「うるさぁい」
窓の外から、セミさんが大合唱だ。
先日の雨から一転。夏だった。
◇
じりじり。
朝なのに、もう暑い。
窓から入ってくる風まで、なんだかあったかかった。
「ユウトー!あそび行くぞー!!」
外から、ガンツの声が聞こえる。
「あれっ、ガンツ君だ」
ユウトは、もう少しふとんにいたかったが、ばっと飛び起きた。
窓の外には、ガンツとミックとポルンがいた。三人とも、もう汗だくだ。
「今日は虫とりだぞー!!」
「分かったー、今行くよー!!」
「わふっ!」
わんわんもしっぽをぶんぶん振る。
◇
外へ出る。
「うわぁ、あつい」
太陽が、かんかん照りだった。
草も。道も。石ころまで熱い。
みーん、みーん、みーん、みーんっ!!
「今日すっげぇ鳴いてるな!こりゃ大量だぞー」
ガンツが、空を見上げる。
木の上では、セミたちが全力で鳴いていた。
「耳がじーんってするぅ」
ポルンが、耳を抑えながら言う。
「こんなのへっちゃらだろー!」
ミックが笑いながらいった。
「ミックの耳がおかしいんだって」
そんな話をしながら、みんなで森の入口へ向かう。
◇
森の入口は、少しだけ涼しかった。
「ふぅ」
ユウトは、木陰へ入って息をつく。
風が、葉っぱを揺らしている。
さわさわ。
土の匂い。草の匂い。夏の匂いだった。
みーんみんみんみんっ!
「いた!!」
ガンツが、木を指さす。
そこには、大きなセミが止まっていた。
「でっか!!」
「おれがいく!!」
ガンツは、そーっと近づく。
そーっ。そーっ。
その時。
みぃぃぃぃぃんっ!!
「うわぁっ!?」
セミが急に飛び立った。
ばばばばばっ!!
「ぎゃーーっ!!」
ガンツは、ひっくり返った。
「ぎゃははははっ!!」
みんなは、大笑いする。
ユウトも連れて笑う。
「びびってるー!!」
「びびってねぇし!!」
でも、顔はちょっと泣きそうだった。
◇
しばらくすると。
「みてみてー!」
ポルンが、小さな虫を持ってきた。
「なんだそれ?」
「きれーなやつ!」
緑色に光る、小さな虫だった。
「わぁ」
ユウトは、目を丸くする。
太陽の光で、きらきら光っている。
「逃がしてやれよー」
ミックが言った。
「うん!」
ぽんっ。
虫は、ふわっと飛んでいった。
◇
ワシワシワシワシ。
ジィジィジィ。ジィジィジィ。
オトフーン。オトフーン。オトフーン。
「!」
みんなが、ぴたっと止まる。
今、確かにおふとんって聞こえた。
おふとーん。おふとーん。
ほら、やっぱり。また聞こえた。
遠くの森から、不思議な鳴き声が聞こえてきた。
「おふとーんって聞こえない?」
ユウトが言う。
「あれは、オトフーンだって」
「オレには、オボトゥーンって聞こえるぞ?」
みんな少しずつ聞こえかたが違うみたいだ。
ガンツが、げんなりした顔をした。
どうでもよさそうだ。
「おとふんって何なの?」
ユウトが聞く。
「しらね!」
「しらない!」
「見たことない!」
三人とも、えらそうに言った。
「しらないんだ」
ユウトは、ぽかんとする。
◇
じりじり。
お昼になると、もっと暑くなった。
「あつぅ」
ガンツが、木陰へ転がる。
「休憩しよーぜ。オレお菓子持ってきたよ」
ポルンも、ぺたーっと地面へ寝転んで、ポケットをごそごそしてる。
「わふぅ」
わんわんまで、べろーんとしている。
ユウトも、木へ背中を預けた。
葉っぱの隙間から、光がゆらゆら落ちてくる。
みーんみんみんみん。
遠くで、おとふーん。
風が、さわさわ吹く。
なんだか、眠くなってくる音だった。
よし、こっちも
「……おふとん!」
◇
「……はっ!?」
ユウトが目を開ける。
いつの間にか、少し寝ていたらしい。
みんなも同じふとんの上で寝ていた。
「おきた?」
ポルンも、目をこすっていた。
ガンツは、口を開けて寝ている。
「ぶへぇ……」
「変な顔ー!」
ユウトたちは、くすくす笑った。
◇
夕方。
空が、オレンジ色になっていた。
昼の暑さが、少しだけやわらいでいる。
「そろそろ帰るかー」
ミックが言う。
「おなかすいたー」
「今日いっぱい遊んだな!」
みんな汗だくで、服も泥だらけだった。
でも。
なんだか、とても楽しかった。
みんみんみん。
セミの声が、少し遠くなる。
代わりに。
からららら。
夜の虫たちの声が聞こえ始めていた。
◇
「ただいまー」
ユウトは、へろへろになって帰ってきた。
「いっぱい遊んできたのねぇ」
お母さんが笑う。
「うんっ!」
ごはんを食べて。お風呂へ入って。
ぽふん。
おふとんへ入った瞬間。
「ふぁぁ」
あくびが出て目が、とろーんとした。
窓の外では、まだ少しだけセミが鳴いている。
みんみんみん。
夏の声だった。
「またあした」
ユウトは、すぐに眠ってしまった。




