第二十七話 雨竜はゆく
ごおおおおっ。
雨は更に強くなり、窓の外は真っ白で、もう森も道もよく見えなかった。
「すごい音……」
ユウトは、おふとんへくるまりながら耳をぴこぴこ動かす。
ごおおおおっ。どどどどど
まるで、空が割れるみたいな音が鳴り響く。
「わふぅ……」
わんわんも、少しだけ落ち着かないみたいで、ユウトの近くへぴたっとくっついている。
「だいじょーぶだよ」
なでなで。
その時だった。
――ゴォォォォォン……。
「!?」
低い音。
雷とは違う。もっと遠くて。もっと大きい。
まるで空の向こうで、巨大な何かが鳴いたみたいだった。
「お父さん、今のなに!?」
「あぁ」
お父さんが、ばっと窓の外を見る。
「来たぞ!!竜だ」
「!!」
ユウトの目が、ぱぁっと開く。
◇
「見えるかなぁ……」
ユウトは、窓にぺたんっと張りつく。
でも。
ごおおおおっ。
雨がすごすぎて、何も見えない。
「どこ!?どこにいるの!?」
「そう慌てるなって」
お父さんは笑う。
「雨竜はな、山みたいに大きいんだ」
「おぉ……」
「だから、近づくと空気が変わる」
その時。
ごおおおおぉぉぉ。
また、音がした。
今度は、家の床まで少し揺れた気がする。
「わっ!?」
ユウトは、びくっとする。
「すごい……」
どォォォォォォォっ!!
雨が、更に一気に強くなった。
外は真っ白になる。
風も強い。ごうごう吹いている。
「来るぞ」
お父さんが、小さく言った。
◇
そして。
――ゴォォォォォォォォン!!
「わぁぁっ!?」
空の向こうで、巨大な影が動いた。
一瞬だけ。雷みたいな青白い光が、空を照らす。
その光の中。
「……!!」
見えた。
長い。とても長い。
空を泳ぐみたいな、大きな影。
雨雲より大きい。
「あれが、りゅう」
ユウトは、ぽかんと口を開けた。
翼は見えない。
でも、長い身体が雲の向こうをゆっくり動いている。
そのたびに。
ざあああああっ!!
雨が強くなる。
「ほんとにりゅうがきたよ」
「ははっ、すげぇだろ」
お父さんも窓の外を見上げる。
「おっきい」
ユウトは、どきどきしていた。
怖い。でも。
なんだか、とても綺麗だった。
「よし、そろそろお父さんも行ってくるな」
お父さんは、壁へ立てかけていた雨具を取ると、そのまま雨の中へ駆け出していった。
お母さんはボクをみて心配ないよ。と笑顔だった。
◇
その頃。
村の広場では
「そろそろりゅうが村を越えるぞー!」
「魔法を放つぞー!準備をしろー!」
大人たちが、雨の中を走っていた。
ざああああっ。
みんな、びしょ濡れだ。
でも、誰も止まらない。
東から西から南から北からと村じゅうの男たちが広場に集まる。
広場の真ん中には、特別な魔法が入った箱がおかれている。が、何やら大きさがおかしい。
大きな柱と言ってもいいくらい大きくなっている。いや、まだどんどん大きくなっている。
男たちみんなでその箱だった大きな柱を立て、周りに倒れないように支えている。
もう何かの遺跡かと思うほど大きくなっていた。箱の表面にはぐるぐるした模様が何かに呼応するように淡く光だす。
模様はユウトが森で見つけた石と、少し似ていた。
◇
「お父さんやみんなは何してるのかな?」
お母さんに聞いてみる。
「みんなは広場で、村全体を守る準備をしてるのよ」
「まもる?」
「そう、世界が変わる前にね」
お母さんは、にこっと笑った。
「ユウトも見たいの?」
「みる!!」
「わふっ!」
わんわんも元気に鳴いた。
◇
外へ出る。
「わぁぁっ!」
すごい雨だった。
ばしゃばしゃ。ざああああっ。
顔にも、腕にも、すぐ雨が当たる。
「すごいすごい!」
「転ぶないように、ほらこっちに来て」
「うん!」
ボクはお母さんに抱き寄せられ、抱っこされながら広場を見る。
そこには、いっぱい人がいた。
「おぉー」
みんな、柱を中心に円を描くように集まっている。
「なにしてるの?」
「魔法の準備よ。絶対に近づいちゃダメよ」
「うん!ここからまほう見る!」
ユウトの目が、きらきらする。
◇
その時。
広場の中央、猫のような顔をした男が大きな声を出した。
「準備はおわったぁぁぁ!」
ざああああっ!!
雨の中。村の周りに立てられた柱が、ぼんやり光り始める。
「わぁ」
ユウトは、息を呑んだ。
青白い光。
雨の中で、ゆらゆら揺れている。
「始まるわよ」
お母さんが言った。
次の瞬間。
柱が、ゆっくりと神々しく優しい光を出し、中から巨大な魔法の紙が姿を表した。
びゅおっ。
雨風の中でも、その紙だけは真っ直ぐ伸びる。
描かれている不思議な模様が青白く光り踊り出す。
「おぉ」
ユウトは、目を丸くした。
「まほう」
「そう、これが魔法よ」
お母さんが笑う。
そして。
猫男が、魔法の紙へ手を当てる。
「――我が村を守りたまえ。リリース!」
ぼぅっ。
紙が、光る。
「わぁぁっ!?」
次の瞬間。
村一体が、一斉に光り出した。
ごぉぉぉぉん……。
低い音。
空気が震える。
そして。
村を囲むように、淡い光がゆっくり広がっていった。
「おぉぉぉ!」
雨の中。
光の膜が、ゆっくり空へ伸びていく。
まるで、村を丸ごと包み込む大きなシャボン玉のような印象だ。
地面からゆっーくり、ゆっくり延びていく。
◇
ざああああっ。
空では、まだ雨竜が動いている。
長い影が、雲の向こうを泳ぐ。
でも。
村の人たちは、誰もがやり遂げたと満足げに微笑んでいる。
「ふぅー、ボクらの出番は終わったなぁ」
「間に合ったな」
「あぁ」
「今年は疲れたー。この重たいのだけは、どうにかならんかなぁ」
「ははっ、贅沢いうなよ」
皆がみな、いろんな事を笑顔で話してる。
空には徐々に徐々にシャボン玉は大きくなり、もうすぐ全てを覆いそうだ。
みんな、空を見上げている。
ユウトも、ぽかんと見上げた。
「すごい」
雨。光。竜。
そして、シャボン玉。
世界が、いつもと違う。
でも。
なんだか。ちょっとわくわくした。
「これが世界が変わるってことなんだね。」
妙に納得してしまった。
「ん?まだこれからよ?」
えっ。とボクは驚いて目を真ん丸になった。




