第二十六話 雨は、じゃーじゃー
ぽつ。
「んー?」
朝。窓に、小さな音がした。
ぽつぽつ。
「あっ、あめだ」
ユウトは、まだ眠そうな顔のまま窓を見る。 外は、少し暗かった。
ぽつ。ぽつぽつ。
雨だ。
「おかーさん雨ふってるー」
「あら、ほんとね」
台所から、お母さんの声が返ってくる。
「雨だし、お昼寝しよーっと」
「ふふっ、それはとってもいい考えね」
ユウトはタオルケットを手におふとんに。
「……」
「……」
うにうに。
うにうに。
すやぁ。
◇
ふと、目を覚ます。外からざーざーと雨音がする雨。
ざーざー
ざーざー
「あら、起きたの?外はだんだんと雨が強くなってきたわよ」
「うん、お父さんは大丈夫かなぁ?」
「うん、あの人なら大丈夫よ。もうすぐ帰ってくると思うわ」
お母さんは、窓から少しだけ空を見上げた。
「早く雨止まないかなぁ」
「うーん、今回の雨は長いかもよ?」
「そうなの?」
「ふふふっ、うん、いっぱい降るわ。いっぱいいっーぱいね」
そういって母はなんだか楽しそうに笑いながら微笑んだ。
◇
お昼。
ざああああああっ。
「わぁっ!?」
ユウトは、窓にぺたんっと張り付く。
「すごぉーい!」
雨が、すごかった。
空から、滝みたいに水が落ちてくる。地面が真っ白になるくらい。
屋根を叩く音も、どんどん大きくなっていく。
ざああああっ!! ばしゃばしゃばしゃっ!!
その時、玄関のドアがバタンと開いた。
「ひゃー、降ってきたー。びしょびしょに濡れたな」
お父さんが、雨具のカッパからをぬぎながら帰ってきた。
「ねぇ、お父さん。すごい雨だね」
「あぁ、外はすごい雨だぞ。ユウトは初めてだもんな」
「うん、ざぁざぁいってる」
「昔からな、この雨は竜が空を渡る時に降るって言われてるんだ」
「えぇー、そうなの?りゅうさんが雨をふらせてるの?すごい、すごーい」
「はははっ、うん、ほんとだ。お父さんは見たことあるんだぞー」
お母さんは、洗濯物をたたみながら。
「わたしも見たことあるわよ、その“雨竜”」
「あめりゅう?」
「そう、雨竜は雨を降らせるって言われてるんだ。数年に一回、この時期に空を渡るんだ。しかもな!」
「しかも?」
ユウトは、きらきらした目でお父さんを見つめる。
「雨竜が通りすぎた後は、世界が少しの間、変わるんだぞ」
お父さんは窓の外を見ている。ユウトもその目線を追って窓の外を見る。
外の道が、もう川みたいだった。
◇
夕方。
雨は、止まなかった。
ざああああああっ。
「すごく降ってる」
「ほんとだなぁ」
といって、お父さんは、雨漏りしてるところのバケツを代えていた。
窓の外をみると、どしゃ降りの中、大人が数人広場の方に向かってるのが見える。
なんだか、村のみんなも少し忙しそうだった。よく見ると何かを運んでいる。
「お父さん、向こうでなにかしてるよー?」
「あぁ、雨の準備が始まったんだよ」
「じゅんび?」
「そう、準備。竜を歓迎する準備だ」
「えぇっ!?」
ユウトは、びっくりした。
お父さんは、にやりと笑う。
「ははっ、びっくりしたか!?」
「うん」
「この雨は、もうすぐ竜が来る知らせなんだよ。どんどん強くなって、周り一面が見えなくなるくらいの雨になる」
「うん、うん」
「そうしたら、竜様の登場だ。通り過ぎたらこないだサルーキさんが持ってきてた特別な魔法を使うんだよ」
「魔法を使うとどうなるの?」
ボクはどきどきした。
お父さんは笑う。でも、その目は真面目だった。
「はははっ、びっくりするぞー。村の周りが全部雨に覆われるんだ」
「おおわれる?」
「そう。ぜーんぶ。家も道も草原も、全部雨で覆われるんだよ」
「おぉぉ」
なんかよく分かんないけど、なんかすごそう。
ユウトは、窓の外を見る。
ざああああっ。
雨。 雨。 雨。
雨。 雨。 雨。
世界中が、水の音だった。




