第二十五話 ぎょーしょーおじさん②
第25話から夏編開始です。
夏のテーマはアクティブ!
ごゆっくりどうぞ。
夏の風が、村の広場をすぅっと通り抜ける。
空は青くて、白い雲がゆっくり流れていた。 春が終わって、少しずつ夏の空気になってきている。
広場には、大きな荷車。木箱や布袋がきれいに並べられていて、その横に、すらりと背の高い犬人族の行商人が立っていた。
「こんにちは。サルーキさん!」
ピンと立った長い耳。細身の体。さらりとした旅装束がよく似合う。風に揺れる長い髪まで、なんだか上品だった。
「こんにちは。ユウトくん」
「うん、そうだよー。覚えてたのー?」
「えぇ、わんわんとすごく仲良しでしたからね」
「わふっ!」
サルーキさんは、しゃがみこんでわんわんを撫でた。細い指が、やさしく白い毛を整える。わんわんもしっぽを振る。
「今回も、ずいぶん暑くなりそうですね」
サルーキさんは、穏やかに笑った。
◇
「今回は夏向けの商品を少し多めに持ってきました」
「なつー!」
ユウトは、荷車をきらきらした目で見上げる。
細長い水筒。涼しそうな薄い布。草編みの帽子。
「わぁ」
村ではあまり見ない物がいっぱいだった。
「これは、となり町で流行っている冷茶用の茶葉です」
「れいちゃ?」
「冷たくして飲むお茶ですよ。暑い日に人気なんです」
「おぉー」
ユウトは、なんだか大人の飲み物みたいだと思った。
「今年は暑くなりそうですからね。となり町でも、夏物を探す人が増えていました」
サルーキさんは、荷物を整えながら話す。
「薄い布なんかは、早めに売れてしまいそうです」
「へぇー」
お父さんも感心していた。
◇
「あっ」
ユウトは、荷車の奥に見慣れない箱を見つけた。
「これなぁに?」
細長い木箱。きれいな金具が付いている。
すると、サルーキさんは少しだけ微笑んだ。
「これは、特別な魔法の紙が入っている箱ですよ」
「まほうの紙!」
ユウトの目が、ぱぁっと輝く。
「はい、もうすぐ雨季がやってきますからね」
「ん?ってことは今年は大雨なのか?」
急にお父さんが会話に入ってくる。何か気になったのかな?
「はい、大ババ様の占いで。なので私が回る村にお届けしてるんですよ」
「なるほどなー、サルーキさんありがとな。もう村長には?」
「はい、もうお渡ししてますよ」
さっきからお父さんとサルーキさんが難しそうな話をしているが、ボクは魔法の紙が気になって仕方がない。
「魔法の紙、見たーい」
「ふふっ、少しだけですよ」
ユウトは、なんだか宝物みたいだと思った。
今回は、ものを冷やす魔法の紙を見せてくれた。絵柄がとてもきれいで、ぐるぐると線が描かれ不思議な印象だ。
「ぐるぐるしてるね」
「はい、特殊なインクで書いてるんですよ」
へぇ、おもしろいなぁ。でも、どこかで見た気が……
サルーキさんは、魔法の紙や魔法の紙が入った特別な箱を丁寧に荷車の奥へ戻す。
「そうそう、それに、この魔法の紙に描かれているのは魔方陣って言うんですよ」
「まほうじん?」
「えぇ。魔法の紙には、特殊なインクで。他には、こういった剣に刻んで強くするんですよ」
と言いつつ、荷物の奥にあった1つの剣を見せてくれた。
「この剣には、少し切れ味がよくなる魔方陣が刻まれてますよ」
といって、剣を鞘から出して見せる。刀身にはぐるぐる線がいっぱいだ。
ん!?これって、もしかして!?
「森で見つけた石も同じかも!?」
◇
「石ですか?」
「うん。この石にもぐるぐる線があるよ」
といってポケットから森の奥で見つけた、不思議な模様の石を取り出した。
「あぁ、ユウトが、少し前に森で見つけたって謎の石だな。土を掘ったら出てきたって言ってたな」
「ほう、土の中からですか。興味深いですね。見せていただいても?」
「うん、いいよ」
「オレじゃ、さっぱりだったんだ。サルーキさん、何か分かるかい?」
「ふむ、どれどれ?」
サルーキさんは、静かに石を受け取った。
細い指で、表面をそっとなぞる。
「これは……」
いつもの穏やかな顔が、少しだけ真面目になる。
「森で見つけたの!」
「なるほど」
光へかざす。刻まれた模様が、うっすら浮かび上がった。
「ただの飾り石ではなさそうですね。魔方陣のように感じます」
「やっぱり、そうなのか?やったじゃねぇか、ユウト。大発見かもしれないぞ」
「はははっ、まだ気が早いかもしれません。私では詳しくは分からないので、町の魔法士の先生に詳しく見てもらうのがいいでしょう。それまで大事にされてください」
「うん、分かった!ありがとう、サルーキさん!」
お礼をいうと、サルーキが優しく微笑んで、片ひざをついて、石を丁寧に返してくれた。
お父さんが腕を組む。
「ユウト、町に行くのはまだ早い。だったらサルーキさんに渡して、その先生に見てもらったらどうだ?」
「早く知りたいからお願いしたい!」
「えぇ。私でよければ先生にお渡ししますが、預けていただいて本当によいのですか?貴重なものかもしれませんよ?」
「はははっ、それこそ心配いらねーよ。サルーキさんなら大丈夫だ。信頼してるから」
「それは、一番嬉しい言葉ですね。商人は信頼が一番なので」
サルーキさんは、やさしく笑った。
「それじゃ、お願いね!」
「はい、それではお預かりしますね」
ボクはサルーキさんにもう一度、不思議な石を渡してお願いした。
◇
「大事な物かもしれませんからね」
サルーキさんは、柔らかい布を取り出す。
石を丁寧に包み、小箱へ入れた。
「責任を持って預かります」
「助かるよ」
お父さんも安心したようだった。
「結果が分かったら、またお伝えしますね」
「うんっ!」
ユウトは、なんだかわくわくしていた。
森の奥で見つけた石。あれが、もしかしたら。すごい物なのかもしれない。
◇
「そういえば」
サルーキさんは、別の箱を開ける。
「これは、おまけです」
「あっ!」
小さな包みだった。
「干し果物ですよ。暑い日は塩を少し入れて食べるといいんです」
「おいしそう!」
「旅では重宝するんですよ」
ユウトは、一つ食べてみる。
「わぁ、おいしぃ!」
甘くて、ちょっと酸っぱい。
「わふっ!」
「あっ、わんわんも?」
わんわんもしっぽをぶんぶん振っている。
◇
広場には、少しずつ村の人たちも集まってきた。
「今年の布、涼しそうねぇ」
「この水筒、軽いなぁ」
「薬草も入ってるのか」
みんな、荷車を見ながら話している。
サルーキさんは、一人一人に丁寧に説明していた。
夏向けの品物。となり町の話。旅先で見た景色。
そのどれもが、ユウトには新鮮だった。
風が吹く。夏のにおいがした。
空には、大きな白い雲。
そして。森の奥で見つけた、あの不思議な石。
今年の夏は、なんだか。いつもより、少しだけ特別になりそうだった。




