第二十話 どくだみ茶
「ユウトー、今日はお手伝いお願いねぇ」
「んぅー?」
お庭へ出ると、お母さんが大きなかごを持っていた。
「今日はリサちゃんの家族と、どくだみを摘みに行くのよ」
「どくだみ?」
「お茶にすると美味しいのよ」
「おちゃ!」
ユウトの目が、ぱちっと開く。
「わふっ!」
わんわんもしっぽをぶんぶん振った。
◇
「おはよー!」
「あら、おはようございます」
ちょうど門の向こうから、リサたちもやってきた。
「今日は一緒にどくだみ摘みよー!」
「いっぱい摘むんだから!」
リサは、やる気いっぱいだった。
その後ろでは、リーナお姉ちゃんが麦わら帽子を押さえている。
「ふふっ、暑くなりそうねぇ」
リサママも、大きな袋を持っていた。
「おぉー、みんなでやるんだ」
「いっぱい作るからねぇ」
お母さんが笑う。
◇
村の外れ。少し日陰になっている場所に、どくだみはいっぱい生えていた。
「わぁ……」
緑の葉っぱ。そして、小さな白い花。
風が吹くたび、葉っぱがゆらゆら揺れる。
「これがどくだみ?」
「そうよぉ」
お母さんが、葉っぱを摘む。
「お花が咲く頃が、ちょうどいい時期なの」
「おぉー」
ユウトは、しゃがみこんだ。
「なんか、ハートみたい」
「ほんとだー!」
リサも並んでしゃがむ。
「かわいい葉っぱ!」
「わふっ」
わんわんも、くんくんしていた。
◇
「でもねぇ」
リーナお姉ちゃんが、くすっと笑う。
「ちょっと変わった匂いするでしょ?」
「ん?」
ユウトは、葉っぱへ顔を近づける。
くんくん。
「……おぉ」
なんだか不思議な匂いだった。
「草のにおい?」
「うん。でも、お茶にすると飲みやすくなるのよ」
リサママが教えてくれる。
「ふしぎー」
「いっぱい乾かすと、もっといい香りになるんだぞー」
お父さんは、どんどん摘んでいた。
「お父さん、はやい」
「こういうのは慣れだからな!」
ぽいぽいかごへ入っていく。
◇
「ユウトー、これ白いお花ついてる!」
「あっ、ほんとだ!」
リサが見つけたどくだみは、お花がいっぱいだった。
「きれーい!」
「お花咲いてるの、かわいいよねぇ」
リーナお姉ちゃんが笑う。
白い花びらみたいに見える葉っぱが、風に揺れていた。
「なんだか、お星さまみたい」
「おぉー」
ユウトは、じーっと見上げる。
小さなお花。緑の葉っぱ。春の終わりの風。
なんだか、のんびりしていた。
◇
「わふっ!」
「あっ」
その時。わんわんが、葉っぱの山へ顔を突っ込んだ。
「わんわん!?」
くんくん。ふんふん。
そして。
「ぶしゅっ!」
「あはははっ!」
くしゃみした。
「変な匂いだった?」
「わふぅ」
しょんぼり顔。
「わんわん、お鼻びっくりしちゃったんだねー」
リサが笑う。
わんわんは、ぷるぷるっと顔を振った。
◇
「いっぱい取れたー!」
気づけば、かごの中は葉っぱでいっぱいだった。
「すごぉい」
「これを干すのよ」
「ほす?」
「うん。お日さまで乾かすの」
◇
おうちへ戻ると。
「わぁぁ」
お庭いっぱいに、どくだみの葉っぱが広げられた。
ざるの上。 むしろの上。 いっぱい並んでいる。
風が吹くたび、葉っぱがさらさら揺れた。
「なんだか緑のじゅうたんみたい」
「ほんとだねぇ」
リサと並んで眺める。
お日さまはぽかぽか。乾いていく葉っぱから、少しずつ香りが変わっていく。
「さっきより、やさしい匂いになったかも」
「乾くと変わるのよぉ」
お母さんが葉っぱをひっくり返す。
「お茶になるの楽しみー!」
「わふっ!」
わんわんも楽しそうだった。
◇
それから数日後。
「できたわよー」
「おぉー!」
台所には、湯気がふわふわ立っていた。
ことこと。お鍋の中で、どくだみ茶が煮えている。
「いい匂い」
ユウトは、湯気を見上げる。
草みたいだけど。なんだかぽかぽかする香りだった。
「はい、どうぞ」
湯のみを受け取る。
「あったかい……」
ふーっ。 ふーっ。
少し冷ましてから、こくり。
「……おぉ」
「どう?」
「なんか、ほわぁってする」
「あははっ、ほわぁってなにー?」
リサが笑う。
「でも、なんかわかるかも」
リーナお姉ちゃんも、ふーっと息を吐いた。
「落ち着く感じするよねぇ」
「うんっ」
お母さんたちも、にこにこしていた。
◇
窓の外では、風が葉っぱを揺らしている。
さらさら。 ぽかぽか。
「どくだみさん、おちゃになったねぇ」
「ふふっ、そうねぇ」
わんわんは、みんなの足元でぺたんとしていた。
「わふぅ」
なんだか眠そうだった。
「わんわんも、ほわぁってしてる」
「あははっ!」
みんなで笑う。
あったかいお茶。やさしい風。のんびりした午後。
春は今日も、ぽかぽかだった。




