第二話 うさぎさんは、もふもふである。
「ユウトー! 朝だよー!」
ばんばんばん。
元気な音がドアの向こうから聞こえる。
でも、ボクは知っている。
こういう時は、動かない方がいい。
なぜなら。
「おふとんが、今日はお休みの日ですって言ってる……」
もぞもぞ。
うにうに。
ふとんの中は今日もあったかい。
やわらかい。
しあわせ。
「ユウトー!」
「んにゃ……」
「入るよー!」
ばたんっ。
部屋に飛び込んできたのは、金髪の女の子。
リサだ。
ボクの幼なじみで、一つ年上。
そして、とても元気。
「また寝てる!」
「ねてないよ……うにうにしてるだけ……」
「同じだよ!」
リサはむぅーっと頬をふくらませた。
「今日は森いくって約束したでしょ!」
「森は逃げないよぉ……」
「わがまま言わないの!お姉ちゃんの言うこと聞きなさい!」
「もう少しだけダメ?」
「ダメ!」
リサは強かった。
ぐいぐい布団を引っ張る。
「むぅぅぅぅ……」
「起きるの!」
「おふとんが離してくれない……」
「知らないよぉ!」
結局。
ボクは布団にくるまったまま引きずられていった。
◇
「ほら、ちゃんと歩いて!」
「ねむい……」
「まだ朝だよ!?」
「朝だから眠いんだよ……」
「おじいちゃんみたいなこと言わない!」
村の道を、とことこ歩く。
春の風がふわっと吹いた。
「あふぅ……」
ぽかぽかだ。
これは危ない。
眠くなる。
「だめだ……」
「なにが!?」
「世界がボクを寝かせようとしてる……」
「気のせいだよ!」
リサは今日も元気だった。
小さなリュックを背負っている。
「今日は秘密基地つくるの!」
「きち……」
「森の奥の洞窟!」
「おふとんも置いていい?」
「いいよ!」
「うん、分かった。いこう」
即答だった。
◇
森の中は静かだった。
鳥さんの声。
葉っぱの音。
ぽかぽかの日差し。
「ねむ……」
「寝ないで!?」
リサは枝を拾っていた。
「ここにイスつくる!」
「すごい」
「あと机!」
「すごい」
「ちゃんと手伝って!」
「応援してる……」
「ダメよ!それじゃ、いつまでも完成しないでしょ!」
怒られた。仕方ない。ここは働こう。
お皿代わりに大きな葉っぱを三枚運んだ。
「えらい!」
「がんばった……」
「じゃぁ、もう三枚!」
「むりぃ……」
ボクたちが見つけた洞窟は、森に入ってすぐにある大きな木の下にある。
ここはポカポカして気持ちいい。しかも広さも小さい子ども二人なら十分遊べるくらい広い。
「ここ、おうちにする!」
リサは楽しそうだった。
「いいねぇ……」
「ユウトは何したい?」
「おひるね……」
「知ってた!」
ボクは持ってきた毛布を広げる。
ふわぁ。
やっぱりおふとんは偉大。
そのままごろん。
「もう、早いよぉ!」
「基地には、おふとんが必要……」
「それはちょっと分かるけど……」
うとうと。
ぽかぽか。
ねむねむ。
「すぅ……」
「えっ、もう寝たの!?まだ基地作ってないから起きて!」
その時だった。
ぴょこん。
「……ん?」
リサが振り向く。
洞窟の入口に、小さな白うさぎがいた。
「わぁ……!」
ぴくぴく。
ふわふわ。
まんまる。
「うさぎさんだ!」
「……もちもち……」
「もちもちじゃないよ!」
うさぎは逃げなかった。
ぴょんぴょん跳ねながら、ボクの近くまでやってくる。
「わ、近づいてきた!」
「んー……」
すると。
うさぎはボクの毛布の上に、ぽすっと座った。
「……」
「……」
「寝た」
「寝たねぇ……」
うさぎ、丸くなっている。
すやすやしている。
「なかま……」
「ふふっ、ユウトと一緒だね!」
さらに。
ぽふ。
ぽふぽふ。
入口から別のうさぎも現れた。
「あれっ」
「増えた」
「また来た!」
ぴょん。 ぴょんぴょん。
うさぎたちは次々集まってくる。
「なんでぇ!?」
「おふとん好きなのかなぁ……」
「そんなことある!?」
あった。
気づけば。
洞窟の中は、うさぎだらけだった。
「もふもふ……」
ボクは一匹抱っこした。
ふわふわだった。
やわらかい。
「あったかい……」
「ユウトが溶けそうな顔してる……」
リサも一匹抱っこして、なでなでしてる。
「かわいいねぇ……」
「うん……」
しばらく。
二人とうさぎたちは、洞窟でのんびりしていた。
とても平和だった。
◇
夕方。
「そろそろ帰ろっか」
「うんー……」
でも。
問題があった。
「……うさぎさん、いっぱい」
「いっぱいだねぇ……」
洞窟を埋める勢いでいる。
「これ、村に連れて帰ったら怒られるかな……」
「たぶん……」
「だよねぇ……」
なので。
二人はうさぎたちを森へ返すことにした。
「またねー」
「ばいばーい」
ぴょんぴょん。
うさぎたちは森へ帰っていく。
でも。
一匹だけ。
ボクの毛布の上から動かなかった。
「……」
「……」
「一緒に住む?」
「だめぇ!」
リサは慌てて抱き上げる。
「お母さんいるかもしれないでしょ!」
「そっかぁ……」
うさぎさんは、少しだけさみしそうだった。
でも。
最後はぴょこんっと跳ねて、森へ帰っていった。
「また来るかなぁ」
「来るかもねぇ」
「そしたら、一緒にお昼寝しよう……」
「ユウトはそればっかりだねぇ」
帰り道。
ぽかぽかの夕日が気持ちよかった。
なので。
「すぅ……」
「寝ながら歩いてるぅ!?」




