第一話 おふとんで、うにうに。
初めまして。
初めての連載投稿です。
楽しんでいただけたら幸いです。
「いつまで寝てるのー!もうお昼よ、そろそろ起きなさーい」
お母さんの声が聞こえる。でも、無理だ。布団が「まだいっちゃ嫌だ」ってボクを呼んでる。
ふとんの中で、うにうにする時間は至福なのだ。
世の中にこれ以上幸せな時間はないのだ。
あっち向いてうにうに。こっち向いてうにうに。
これは、とても大事なことだ。
人類はもっと真剣に考えるべきだと思う。
「……ふにゃぁ……」
朝のおふとんの中でうにうにしていた。
もぞもぞ。
ごろごろ。
ぬくぬく。
「しあわせ……」
春先の朝。少しだけひんやりした空気。でもおふとんの中はあったかい。
つまり最強である。
ボクは顔だけ出して、ぼんやり天井を見た。
「みんなはどうして早く起きるんだろ……」
「さっきからから何言ってるの」
部屋の前でお母さんの声が飛んできた。
「だっておふとん気持ちいいし……」
「ホントにあんたはおふとんが好きだよねぇ。意味わかんないけど(笑)さっき呼んでからもう30分経ってるのよ。さぁ、早くご飯食べて」
あれからもう30分も経ってたとは。ふとんの中の時間はこの世界とは別の時間が流れているのかも。
そのまま再びおふとんへ潜る。
もぞもぞ。
「うにうに……」
「その“うにうに”ってなに?」
「おふとんを楽しんでる音」
「初めて聞いたよ」
母はため息をついた。
「ねぇ」
「んー」
「ご飯食べたらコンビニ行ってきて」
「えぇ、無理だ……」
「アイス買ってきて、自分の分も買ってきていいから」
うーん、究極の選択である。食後のおふとんは最強だけどアイスも捨てがたい。
「ん、分かった。」
◇
ご飯を食べ終わりボクは、眠そうにしながら歩いていく。
「ふぁー」
あくびが出る。まだ眠い。
外に出たことを後悔している。
「やっぱり帰ったらまた寝よ」
その時だった。
『危なーーーい!!』
「へ?」
ぴかっ。
どーん。
ふわぁぁぁぁぁ……
「…………」
「…………」
「…………ん?」
気づくと、真っ白だった。
床も白い。空も白い。なんか全部白い。
「……ここは寝てもいいのかな?」
「いいえっ! ここは異世界転生会場なのでダメです!」
「うわっ」
突然、目の前に女の人が現れた。
ふわふわした服。きらきらした髪。なんかこう、全体的に“女神さま!”って感じ。
でも。
「やっほー!」
すごく軽い。
「……だれ」
「女神ですよ!」
えっへんと胸をはる。
「そっ……」
「えっ」
女神さまはショックを受けた顔をした。
「もっとこう、“神々しい……”とか"美しい……"ないの!?」
「眠くて。寝てても……いい?」
「自由だな君!?」
ボクはその場にぺたんと座った。
「つまり?」
「はい、あなたは死にました!」
「そっかぁ」
「軽っ!?」
「これで、いつまでもねむれるし……」
「人生への執着が薄い!」
女神さまはわたわたしながら説明を始めた。
「えーとですね!あなたをこれから異世界へ転生します!」
「えぇ、このままでいいよ。」
「いいえ、ダメです。それに、特典もありますよ。パンパカパーン。なんと特別な能力を授けます!」
「おふとんください」
「へっ!?ふとん??それでいいの?早いな、君は!?」
「ふかふかのやつ……」
「いやもっとあるでしょ!? 剣とか魔法とか!」
「ねむれる場所もほしい……」
女神は困った顔になった。
「うーん……」
考える。
とても考える。
腕を組む。
うなる。
「……よし!」
ぱちん!
指を鳴らした。
「“おふとん召喚”でどうですか!」
「おぉ……」
ボクの目は少しだけ輝いた。
「いつでもどこでもおふとん出せます!」
「最高……」
「しかも!」
女神さま、ノってきた。
「寝てる時は気持ちよく寝たいよね!」
「うん」
「よし、回復つけて快適にしよー!」
ぴかーん!
「身体のわるいところも治しちゃえー!」
ぴかーん!
「痛いのも嫌だよね!」
ぴかーーーん!
「わるいやつは弱くしちゃお!」
どかーん!
「周りの人はパワフルにしよ!」
ばばーん!
「上手く倒せたら、ご褒美(経験値)もいっぱいないとね!」
ずどーん!
「…………」
「…………」
なんか周りがキラキラしてる。ボクは首をかしげた。
「なにしたの?」
「ちょっとだけ快適にしたよ!」
快適になるなら、いいやぁ。
女神さまも満足そうだし。
「よーし!これで安心安全快適異世界ライフ!」
「もう寝れる?」
「いっぱい寝れるよ!」
「やったぁ……」
その瞬間。
ふわり。
ボクの身体が光に包まれた。
「では行ってらっしゃーい!」
「んー……」
「あっそうだ!」
女神さまが思い出したように叫ぶ。
「その能力で、世界を救っ――」
ぽーん。
ボクは、転送された。
「…………」
静寂。
女神は固まった。
「説明途中だったけど、まぁ、いいか。…………あれっ、ふとん、盛り過ぎたかな?」
今さらである。
◇
「おぎゃー」
『あらぁ、元気な男の子!』
次にボクが目を覚ました時。
赤ちゃんになっていた。
「おぎゃ」
『ふふ、かわいい〜』
知らない女の人に抱っこされている。
でも。
「……ふにゃ」
やわらかい布。
ぬくぬく。
あったかい。
これはつまり。
(おふとん……)
幸せだった。
さっそく潜り込む。もぞもぞ。
『あら?』
うにうに。
『なにしてるのかしら?』
「ふにゃぁ……」
その瞬間。
《固有能力『おふとん召喚』を確認》
《快適睡眠領域を展開します》
《全自動安眠補助を開始》
「すやぁ……」
『寝るの早くない!?』
生後数分で爆睡だった。
ちなみに。
その日。
ボクの周りはすごく快適だったらしい。
『なんかこの子の近くにいると、あったかいわねぇ』
『肩こり軽くない?』
『眠くなってきた……』
なお本人は。
「すぅ……すぅ……」
まったく気づいていなかった。
なぜなら寝ていたからである。




