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第8話

「けほっけほっ」


 C大隊突入、10分前。

 新しいエキスパの地下室に、エリシアは運び込まれていた。

 薄暗く、塵埃の舞う地下室に、彼女は思わずむせた。 

 彼女はパイプ椅子に座らされると、紐で縛られ、身動きを封じられてしまった。

 目前に立つのは1人の幹部と4人の兵士。


「ふふふ、宮殿育ちのお嬢様はひ弱なことですなぁ」

「お名前を伺っても?」

「私はジェイコブ・ヒーロー。議員をやらしてもらっている。帝国に奪われた領地の奪還を掲げる、この国で最も誇り高い政党の党首だ」


 ジェイコブは自信満々と語り、彼の部下たちも一字一句同意するように頷く。しかし、エリシアは毅然と反論する。


「あの土地は二次大戦時に我が国と貴国によって交わされた相互防衛条約によって、約束された土地です。奪ったのではありません!」

「ふん! 我が国だけでも防衛は可能だった。帝国が金の為にすり寄って来たのだ!認めろ!」

「致しません。帝国、エキスパの為に戦い血を流した先人の方々に無礼は致しません!」

「ええい、面倒だ」


 顔を真っ赤にしたジェイコブは、パチンと指を鳴らす。すると、部下の一人が粉砕ハンマーをもって進み出た。


「ふふふ、彼は元警官でね。尋問中にうっかり容疑者を殴り殺してしまうほど、正義心溢れる人間なんだ」

「ぼ、暴力に手を出すのが少し早すぎるのではありませんこと? それに、私を血みどろにしては、国際社会から非難を受けるのはあなた方でしてよ?」

「世界最大の軍事力を持つ帝国の姫君が片腹痛い。ものは見せ様ですよ。あなたのその細いおみ足を粉砕しても、上半身だけを撮影に使えば、恐怖に震えながら情けなく泣く帝国の姫の映像の完成だ」

「ふふふ、良い脚だぁ……」


 男がハンマーをエリシアの足を撫でるように押し当てる。彼女は小さな悲鳴を上げてしまう。


「ふははは! 情けない! さぁ、最後のチャンスだ! 帝国の罪を認めろ!」

「い、嫌ですわ。絶対に!」

「右足から、やってしまえ!」


 ジェイコブの叫びと共に、部下の男がハンマーを振りかざす。エリシアはギュッと目を瞑った。


 ハンマーが風を切る音が聞こえた――かと思えば、それを切り裂く上階から大きな籠った音がして、ハンマーが止まった。


「今のは何の音だ?」

「確認してまいります。お前達も付いてこい」


 振り上げたハンマーを降ろし、3人の部下たちが上の階に向かう。しかし、数分経っても戻ってこない。更に残りの部下も確認に向かうが、やはり、戻ってこなくなった。そして上からは断続的に激しい騒音が聞こえて来た。

 上階の音は籠って聞こえるが、間違いなくそれは激しい銃撃戦の音だった。


「クソ、なんなのだ!?」

「お判りでしょう? ジェイコブ議員。帝国軍が来たのです。降参を」

「う、嘘だ! この短時間で!」


 実際、エリシアも信じられなかった。

 しかし、内務卿の動向を知っていて、尚且つ、あの豪胆な態度を取れる指揮官とその部下たちならやれるかもしれない。

 ジェイコブは顔を真っ青にし、周囲を落ち着きなく歩き回った後、ハンマーを拾い上げた。


「私は、俺はこの国の首相になるのだ……! 帝国から領土を奪い返し、その資源でエキスパは欧州の王になる!」

「妄想ですわ、そんなもの」

「五月蠅い! 姫の首を取り、俺の価値を証明してやる!」


 雄たけびと共に振り上げたハンマーがエリシアの頭の上から迫る。今度は彼女は震えながらも、目を見開いていた。助けに来てくれた帝国軍兵士と共に、彼女も最後の一瞬まで戦う覚悟を決めていた。


「――殿下! エリシア様!」


 ハンマーが彼女の髪の毛先を撫で、そのまま、槌は逸れていった。

 ジェイコブは白目をむき、ぐらりと倒れ、その背後にライフルを構える女性兵士ミリアが見えた。


「エリシア様!」


 ミリアは弾んだ息を整えると、エリシアに近づき、縄を解き始めた。


「この場は既に制圧されました。ご安心を。お怪我はありませんか、殿下?」


 エリシアは解けた縄の感触を確かめるように、自分の腕を見た。

 それから、目の前のミリアの顔をまじまじと見つめ、堰を切ったように涙が溢れ、彼女に抱きついた。


「……怖かった、怖かったよぉ……」


 ミリアは目を白黒とさせ、身体を硬直させていたが、やがて、エリシアの小さな体に腕を回して、優しく抱きかかえた。

 その数分後に入って来たジョーは二人の様子を眺めた後、一息ついて、無線機を取り出した。


「殿下を確保。これより離脱する」


 ◇


「負傷者は7番機に乗せな。7番機を先頭に縦列隊形! 帝国に帰るよ!」


 ヘリはエリシアを含めた大隊メンバーを乗せると、帝国に向けて飛び立った。反撃を警戒し、猛スピードで飛んでいたが、やがて、速度を緩めた。


「上を見な。頼もしい仲間だ」


 上空に現れたのは、帝国空軍の戦闘機部隊だった。


「こちら帝国空軍メビウス中隊。殿下救出任務を遂行中と聞いている。これより援護する」

「最新鋭のF-22を22機編隊で投入。何のジョークだっていうんだ。流石に姫様誘拐とあっては帝国も焦るか」

「そうだな。 殿下。あれが我が帝国です。圧倒的な軍事力。それを統べる王家には威厳が求められる。殿下はその器量を証明なさった」


 ジョーの言葉に、エリシアは力なく笑い、首を横に振った。


「いえ、私は……。内務卿おじいさまは駄目だったのでしょう?」

「残念ですが。しかし、死者に鞭を打つ気はありませんが、これだけは述べさせてください。彼は大層な志を持っておられました。しかし、それに他人を巻き込んでしまえば綺麗事だ」

「綺麗事……」


 エリシアは小さく反復した後、うとうととした後に瞼を閉じ、ジョーの肩に寄り掛かり、安らかな寝息を立て始めた。


「で、殿下。自分の様な馬の骨に寄り掛かっては問題になってしまいます。おい、何とかしてくれ」


 まさか、皇女を押し剥がすわけにもいかない。ジョーは珍しく取り乱すと、ミリアに助けを求めた。

 彼女はニヤリと笑みを浮かべると、手を貸さずに自分も瞼を閉じた。ジョーは舌は回るが、コミニケーションが苦手なところがあるようだ。

 やがて、戦闘の疲労で彼女も本当に寝てしまった。


 途方に暮れた彼は二人に挟まるようにして、諦めて、目を瞑った。

 眠る為ではなく、思い返す為。






 ――内務卿が動く、24時間前。

 

 帝都の高層住宅の一室。最低限の家具しかない、殺風景な部屋――それがジョーの自宅だった。彼はとある人物に電話をかけていた。


 「自分です、陛下」

 「ジョー、久しぶりね」


 電話の相手は女王陛下だ。ジョーは陛下と直に言葉を交わせる数少ない人間の一人だった。しかし、女王の声は明らかに掠れていた。今の彼女は口を開くことすら苦痛になっている。ジョーは手早く状況を説明した。


「そう、内務卿が。あの男も哀れな者ね」

「自分は彼のエキスパへの交渉を阻止した方が良いと考えています。陛下にはご助力を――」

「いいえ、行かせてやりなさい。あの男への最期の手向けよ」 

「しかし、それでは、エリシア殿下が」

「行きたくないのなら、行かなければいい。皇女なら意志を見せなさい。……それに、かわいい子には旅させよと言うでしょう?」


 ジョーは女王に危険性を説明しようとしたが、押し黙った。そんなことが分からない方ではない。承知の上で、エリシアに試練を与えようと言うのだ。


「帝王学ですか?」

「ええ。あの子には内なる信念がある。でも、第1王子(アルフレッド)が危ういからと言って、そのためにエリシアを跡継ぎにはしない。この座が欲しいのなら、覚悟で証明なさい」


 女王はしばらく咳き込んだ。これ以上、話を長引かせることは出来ない。


「あの子が覚悟を見せたら、手伝って欲しいの。貴方には苦労を掛けるわね」

「|仰せのままに、陛下《Yes, Your Majesty》」


 通話が切れた後、ジョーは自室の外に広がる帝国の夜景を見下ろす。

 女王はもう長くない。

 今に、この世界最高の夜景は次の誰かの手に落ちる。


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