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第6話

「帝国の犬め!」

「俺たちの同胞を山ほど殺しやがって!」


 内務卿はかつて帝国の将軍だったということは、反帝国派《新しいエキスパ》にとっては周知の事実だ。それが和平交渉にやってくる。帝国に対する憎しみで溢れる彼らは誰も内務卿を信用しなかった。


「ま、待て! 話せばわかる!」

「死ねや!」


(馬鹿な!? これで死んでは女王あのおんなの笑いものではないか!?)


 内務卿は最期の最期まで、自分の命よりも、内心に渦巻き続けて来た女王との妬みと戦っていた。


 彼はゲリラたちに手を伸ばす。

 しかし、彼らが差し出したのは手ではなく、銃口だった。サブマシンガンが火を噴き、たったの数秒で30発もの弾丸が内務卿の老体を撃ち尽くした。風船から空気が抜けるような音と共に内務卿は倒れた。


「た、隊長!」

「な、何をしている!? 早く撃て! 反撃だ!」


 呆然としていたレズモンドが裏返った声で叫ぶ。

 要人護衛用の防弾バッグを広げながら、反撃を試みる。だが、あまりにも遅く、バックで護り切れていない脚や腕を撃ち抜かれてしまった。


「うぐああああああああああ!」

「なんだ、帝国の兵士って奴もこんなものかよ!」

「さて、次は帝国の閣僚方、それから我が国の売国政治家にも消えてもらおうか……」

「や、やめろ!」


 ゲリラたちは各々の得物に狙いを付けた。

 その時、もっとも存在感が無かった小さな影が動いた。


「お待ちなさい!」


 エリシアはそう叫び、小さな身体で精いっぱい両手を広げ、ゲリラたちの前に立ち塞がった。


「帝国の姫か? 内務卿のお供め」

「利用価値の無いお飾りが」


 ゲリラたちは銃口をエリシアに集中させた。

 彼女はそのまま気を失ってしまいそうなほど、息が苦しくなり、眩暈を覚えた。

 ――それでも、あの日、身分の上の相手に堂々と振る舞って見せた二人の軍人を脳裏に浮かべた。

 あの時、共に内務卿に異議を唱えていれば、今日は来なかったかもしれないのだ。だから、今日、彼女は勇気を出した。


「私こそは帝国が王位継承権5位第2皇女エリシアですわ」

「ほう、だから、見逃せと?」

「いいえ、私が人質になります。他の者を見逃しなさい」

「何様のつもりだ!」「皆殺しにしてやってもいいんだぞ!」


 数名の男は苛立ったのか、銃のトリガーに人差し指を乗せている。あれにほんの少しの力が加わると、自分の頭部は撃ち抜かれてしまう。涙が溢れそうになるのを必死にこらえ、敢えて冷たく装った。


「……ゲームを致しましょう?」

「何?」

「王位継承権5位とはいえ、王家の直系。その私から敗北宣言を引け出せたら、世界中に帝国の屈辱を知らしめることができますわ」


 男たちは銃口を下げ、互いに視線を交錯させる。どうやら、一枚岩ではないようだ。

 後手を踏み出した彼らとは対照的に、エリシアは一歩踏み出した。


「決めなさい。そんなに臆病だから、無法者止まりですのよ?」

「この女……! 良いだろう、泣きわめきながら命乞いさせてやるよ! おい、丁重にお連れしてやれ!」


 ゲリラたちはエリシアの挑発に乗った。


「ああ、姫……!」


 エキスパの政治家や帝国の外交官、自身のメイドが悲嘆にくれる中、彼女は静かにお辞儀した。意外と絶望的な気分ではなかった。それどころか、お飾りの自分が人を救えたことが嬉しかった。


 ◇


「侵入」


 帝国とエキスパの領空の境、上空待機しているヘリの中でエキスパのラジオ放送を傍受していたジョーは呟いた。直後、ヘリが大きく前に傾き、ミリア達は機内を滑りそうになる。そして、ヘリはエキスパの空へと侵入していく。


「こ、こちらエキスパ航空管制! 帝国安全空輸所属ヘリコプターへ! 我が国の領空は現在諸般の都合により、閉鎖されている! 直ちに引き返せ!」


 いつも、何処か苛立ちながら事務的な対応をしていた航空管制官が明らかに憔悴し、声が上擦っていた。逆にジョーはその隙を追い詰めるかのように、冷たく冷静に宣言する。


「こちらは帝国地上軍強襲C大隊である。貴国にて殿下の身に危険が生じているようだ。殿下の御安全は帝国軍の軍事行動に準ずる」

「何!? 介入するつもりか! 国際問題だぞ!」

「既に国際問題は貴国で発生している。カナード、やれ」

「はいよ!」


 カナードはヘリを操り、付近の小さな空港へと降下させた。そして、管制塔の前でヘリをホバリングさせ、ガトリング砲を突き付けた。コクピットの向こう、管制塔の中で、尻もちをついている人影が見て取れた。


「繰り返す、殿下の御安全は帝国軍の軍事行動に準ずる」

「わ、わかった! 許可! 侵入を許可する!」

「貴国の献身的な協力に感謝する」


 ヘリは上昇し、総勢7機の編隊に加わり、エキスパの地を這うように高速移動する。


「C大隊へ通達。殿下はアジトに連れ込まれて数分経ったところと推察される。連中は帝国へメッセージを出す為に準備をするだろう、そこを急襲する」


 作戦に参加する面々はヘッドセットから流れるジョーの声を一字一句聞き逃すまいと神経を集中させる。ミリアもそうしながら、集めて来た情報を脳裏で整理する。

『新しいエキスパ』、反帝国を掲げる過激派議員や軍民問わず集まった過激派組織。その幅は多く、烏合の衆と言える。しかし、一時アマチュアの感情でエリシアに手を上げる可能性もある。


 事前に調べ上げたおかげで、侵入ルートも間取りも把握済み。今、自分たちに出来るのは早く倒し、早く到達し、早く救助すること。


「目標地点到達まで残り3分。スナイパー分隊は降下開始。その他は対地攻撃後、即座に降下する。各員降下準備」


 ジョーは通信を終えると、ミリアの方を見た。何か進言しようとしたが、彼女の目を見て呟いた。


「覚悟は決まったようだな」


「ジョー、おっぱじめるよ!」

「ああ。音楽を鳴らせ」

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