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第4話

「こちら帝国安全空輸、貴国エキスパ領空に入る。フライトプランは提出した通り」

「管制塔了解。問題を起こさぬように」


 エキスパ管制官の何処か冷たい声が、ヘッドセットを流れる。


 数日後、帝国から飛び立った数機のヒューイ・ヘリコプターがエキスパの空へと渡っていた。


「こ、こんな緊張状態の空を堂々とヘリで飛ぶなんて……!」

「えっ? 何、聞こえない!」


 ヘリのオブサーバー席に座ったミリアが困惑の声を出したが、パイロットであるカナードには良く聞こえなかったらしい。カナードは本職であるヘリの操縦を任され、有頂天になっている。


「いやっはー! ジョー、宙返りしてもいいかい?」

「駄目だ」


 気性の荒いカナードとやはり表情を変えないジョー、ヘリに搭乗する他の大隊メンバーも平常運転だ。ミリアは窓から不安げに下を見下ろす。エキスパの特徴的な緑の林が流れていく。


「この国は地方まで開拓されきっていない。酪農が有力な産業だが、幹線道路の整備不足から、輸送力が足りていない。 一方、帝国は軍から退役した旧式の輸送ヘリ(ヒューイ)が大量に民間に払い出された。輸送力は余っている。 需要と供給の先にビジネスがある」

「しかし、帝国を敵視している国なのに」

「飢えては生きられない、誰だって背は腹に変えられない」


 ジョーの言葉にミリアは納得せざるを得なかった。そう思うと、彼女は平和とは何なのだろうと考えさせられる。TVでは帝国と欧州の政治家が互いを非難し合い、幾らかの民衆達も貶し合っている。しかし、日々を必死に生きる多くの人々はそんな余裕もなく、国の垣根を越えて、助け合い、生きている。


『今の何を変えたいのですか?』ジョーが内務卿に言い放った言葉が重くのしかかった。


 ◇


「いんやぁ、ありがとねぇ」


 帝国安全輸送の業務として、干し草や粗飼料と共に牧場へ降り立ったミリア達はオーナーである老夫婦の歓迎を受けた。


「危なかったが、でも、これで牛たちが伸び伸びと育つ」

「それは良かったです。危なくなるほど、餌が足りなかったのですか?」

「ああ。最近は道路の補修遅れや輸送業者の減少でな。役人たちはなにもしてくれんわい」

「全くだよ。政治家たちは欧州と仲良くし、帝国に立ち向かおうって言うけどね。あの戦争で守ってくれたのは帝国だ。それだけは忘れちゃいけない」

「そうですか」


 老婦人は二次大戦の頃には少年少女時代であり、その頃をよく覚えているようだった。帝国はかの国に恩を売った。やれ、頼んだ覚えはない。そんな押し問答を聞かされていたミリアだったが、初めて本当の声を聞いた。

 もっとも、正反対の都市部に行けば、正反対の意見が聞けるのだろうが。


「それはそうと、君。君の上司に伝えたいことがあるから呼んでくれないか?

「しき――」


 ミリアは言葉を飲み込んだ。


「……社長!」


 危なかった。ミリアは油断してジョーの事を指揮官と呼びそうになったが、ぎりぎりでこらえて社長と呼びなおした。

 カナードが向こうで腹を抱えて笑うなか、ジョーがこちらへとやって来た。


「何か?」

「ああ、社長さんか? お若いね」

「社長?」


 一瞬だけ、ジョーの視線がミリアに刺さる。

 ミリアは心の中で詫びた。


「実は気を付けて欲しいことがあって、ここから2、30km離れたところで、危ない連中がアジトを作っているって噂だ」

「危ない連中、どのような?」

「帝国嫌いの集まりさ。チンピラから軍人、胡散臭い政治家まで、何か企んでるらしい。気を付けなよ」

「どうも、お気遣い感謝します」


 荷物を全て降ろし、帝国安全運輸の仕事を終えると、ミリア達はヘリに戻った。


「ビジネスは終わった。カナード、さっきのご婦人がおっしゃっていたアジトとやらに接近するように飛んでくれ」

「社長? 撃ち落とされちまうかもよ?」

「君なら一発や二発のミサイル避けてくれるだろう。 ミリアは窓から地上の写真を」

「は、はい!」


 帰り道を夜道するかのように、ヘリはアジトの上空を通過した。軽口ばかり叩く、カナードだったがヘリの操縦は一流で、管制官には風で煽られ進路がずれたと告げ、敵の拠点を掠めるように飛ぶ。


「赤い屋根の下、誰か見てる。撮りな」


 カナードが突然真剣な声を出し、ミリアは慌ててカメラのシャッターを切った。そこには迷彩服姿の男が、驚いたように空を見上げている様が見て取れた。


 その後、1週間にわたり、帝国安全運輸はいくつかの仕事を受注し、依頼人たちから噂話を集め、その帰り道で偵察活動を行った。


「へえ、こいつは野党の大物議員かい?」

「その写真を。なるほど、こことここは繋がってそうだ」

「地元の不動産屋から情報を得れた。元は車両販売店のディーラーだったらしい」


 帝国安全運輸の仕事を終えると、大隊は駐屯地に戻り、集めた写真や証言をもとに敵の幹部の洗い出しやアジトの間取りの推測を行っていた。

 軍隊らしくない仕事の連続に、ミリアは四苦八苦していたが、自分にやれる事務方のことを懸命にやった。目まぐるしい日々の中で、こう願っていた。


 結局のところは取り越し苦労だった。内務卿が考えを改め、エリシアも危機を逃れればそれでいいと。


 しかし、内務卿は動いた。



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