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第2話

「王室を盗聴するって……!?」

「王室を守るための行為だ。致し方ない」


 ジョーはあっけらかんと答えるが、それは反逆罪になりかねない。ましてや、彼らは軍人だ。クーデターとみなされ、全員処刑されても文句は言えない。

 自分が目隠しをされ、絞首刑台の上に立たされた様子が脳裏に浮かんできて、ミリアは恐怖を覚え、立ち上がった。


「軍上層部に報告します」

「君を処罰した連中にか?」

「……!」


 彼女は思わず足を止める。振り返ったジョーの顔は焦っているわけでも、脅しているわけでもなく、本当にそれでいいのかという疑問符を浮かべていた。


「欧州の政治家を撃った君の話を聞くだろうか?」

「わ、私は間違ったことなんてしていない。正しいことをしました! あの場で止めなければ、市民に犠牲が出ていました!」


 軍法会議に出席した時は、ミリアはこんなことを言えなかった。自分に降りかかった災難に絶望しながらも、何処かで良い着地点を見つけようと自分の非を認めるような証言をしていた。

 だが、意外なことにジョーは肯定した。


「ああ、自分もそう思う」

「……!? 私の行いが正しかったと?」

「でなければ、この場に呼ばない。 

 今の上層部は、現場を知らない制服組ばかりだ。彼らは次の皇帝である第一王子の息がかかっている」

「だからと言って、こんな……。

 では、お聞きします。もしも、第一王子が欧州との融和を実現しようとした場合、貴方は王子を討つというのですか!?」


 ミリアは言い切った。

 こう言ってしまえば、ジョーとて言葉に詰まるだろうという考えだった。

 しかし、彼は即答した。


「選択肢の一つだ」


 彼女はその発言に耳を疑ったが、周りの誰も気にすることなく淡々と自分の仕事をしている。


「……普通じゃない。貴方たちは何者なんですか!?」

「ああ、言い忘れていた。 この組織は表向きは軍の強襲大隊だが、実際には軍上層部の意志を反映しない。女王陛下の意志を実行し、帝国の威厳を保つ、帝国威厳維持局『C機関』だ」

「C機関?」


 丁度、その時、盗聴担当のハロルドがニヤリと悪い笑みを浮かべた。




「よう、面白い話してるぜ」



 ◇


 欧州と帝国の緊張の境界線・火薬庫『エキスパ共和国』


 陸続きの欧州と帝国の境界にある欧州連合の小国。

 第二次大戦において、隣国が枢軸国の軍勢に飲み込まれていくのを見て、エキスパは恐怖を感じた。

 その当時は欧州連合という組織はまだ存在せず、頼れる同盟もなかったかの国は隣国の大国である帝国に助けを求めた。

 大戦時の皇帝は、エキスパの一部領土を帝国が貰い受けることを条件にエキスパ防衛を了承。両国総勢でのべ数万人規模の死傷者を出しながらも、枢軸国を撃退し、防衛を果たした。

 約束通り、エキスパの領土は帝国のものになり、それは長らく続く両国の友好を象徴する約束の地になる筈だった。


 しかし、大戦終了の十数年後、その領土から大量の地下資源が発見された。

 エキスパは最初は資源の共同開発や利益の何割かを交渉したが、帝国は約束は約束と聞く耳を持たなかった。しばらくすると、エキスパは欧州連合に加盟し、帝国との関係が悪化していくことになる。

 更にここ数年は、エキスパ内部に過激派が現れ、帝国へ疑問を呈し始めた。

『何故、何十年も前の借りを返し続ければいけないのか?』

 と。


 これは現女帝を始めとする旧帝国派にとっては、受け入れる価値のない提案だった。しかし、欧州との融和を目指す第一王子派にとっては、またとない機会だった。


 資源を少し分け与えてやれば、エキスパは喜ぶだろう。そうすれば、欧州に恩を売れる。第一王子派にして、王族の教育担当を担う内務卿はエキスパとの秘密交渉を試みていた。



 ◇


 内務卿が数日以内に独断でエキスパに向かおうとしている。それを傍受したジョーは直ぐに動き、既に宮殿に向かっていた。


「どうして、私が……」


 送迎のジープの中で、ミリアは半分放心しながら呟いた。

 何故か、ジョーはたった数時間前に配属されたミリアを副官として、同行させたのだ。


「大隊のメンバーの多くは、何かしらに秀でている。しかし、事務方に強い者はあまりいない。言ってしまえば、世間知らずが多い。その点、君はデータベースとして見込みがある。内務卿について、分かるな?」

「ええ。継承権はかなり後位ながらも王族の一員です。王室内務省の大幹部ですが、以前は軍の将軍でした。それも強硬派と知られていました」


 ミリアは自分で言っておいて、強烈な違和感を感じた。かつての内務卿は容赦のない将軍として知られる人間だった。しかし、何故、正反対な平和の為の和平交渉に躍起になっているのだろうか。


「何故だと思う?」

「えっ? それは……きっと、戦争を通して平和の尊さに気づかれたのでしょう」

「半分正解だ。しかし、それだけではない。宮殿のメイドの中で噂になっているのだが、彼は夜中によくうなされているらしい。戦争の指揮官として、大勢の味方と敵の命を奪ったことにな」

「それは悲しいですね。そう考えると、彼は独断専行をされていますが、事情は理解できます。彼を説得し、内務卿を後ろ盾にするおつもりですか」

「それは直接会ってから考える、着いたぞ」


 宮殿の前にジープが止まり、二人は外へ出る。

 大勢の観光客が雄大な宮殿をカメラに収めようとシャッターを切る中、それをかき分け、二人は宮殿の守衛の元へと向かう。

 ミリアの心臓がどくどくと音を立て、跳ね上がる。


「むっ。何者だ。軍人のようだが、来客の予定はないぞ」

「自分は第一地上軍付属強襲大隊Cの指揮官だ。内務卿に身の危険が迫っている。すぐさまお会いしたい」

「え?保安上の危険?」

「ああ。Aクラス事案だ。緊急を要する」


 物騒な言葉に守衛たちは困惑する。


「わ、わかった。今、上に確認を取る」

「事後で結構だ。責任はこちらで取る。行こう」

「え、ちょっ」


 ジョーはミリアの手を引っ張り、半ば強引に突破した。

 彼が宮殿の庭を堂々と肩で風を切って歩く中、手を引かれるミリアは俯いていた。


「おい、これからが本番なんだ。今から緊張してどうする?」

「いえ、その……」


 実は異性に手を引かれるのは初めてで……なんて言える訳が無かった。徒歩格闘訓練で並大抵の男は投げ飛ばしてきたが、それとは違う。

 しかし、ミリアはこう思う。相も変わらず、不愛想で無表情なジョーの横顔だが、ほんの少しだけ楽しそうなのは気のせいだろうか。

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