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第1話

 第一地上軍駐屯地は広い。


 多くの宿舎は立派だ。一部の将校たちは自分の威厳を見せる為、部隊に割り当てられた軍事費を宿舎の改装に使っているそうだ。

 そんな駐屯地の外れに、見るからにボロボロな倉庫の様な建物があった。飾りっ気のない四角い建築。物の置き場がないのか、天井には乱雑に木箱が積まれている。


「ここが……」


 そんな建物を一人の女性が光の無い目で見上げていた。

 白髪と白い肌、粉雪の擬人化の様な薄幸美人は唇を噛みしめ、呟いた。


「C大隊、私の配属先」


 どうやら、願った配属先ではなさそうだ。けれども、彼女は重い足取りでその建物へと足を踏み入れた。


 乱雑な室内、じろじろと見てくるジャケットを着崩した兵士たち、それらを足早で抜けて、やがて、彼女は指揮官室に辿り着いた。


「失礼します!」


 中に居た指揮官の姿を見て、彼女は少し安堵する。少し若すぎる気がするが、少なくとも指揮官は端正な顔立ちで、理知的に見える。


「帝国地上軍第一師団付属強襲大隊C 指揮官のジョー・スミスだ。君は?」

「はい。本日着任いたしました、ミリア・ルカです」


 ◇


 ミリア・ルカ。

 彼女は本来、ここに来る人間ではなかった。


 士官学校でも指折りの好成績を収めた才女。勉学はいざ知らず、可憐な外見に対して極めて優れた身体能力を持っている。

 卒業後はエリート部隊に配属され、指揮官コースを歩むか、若しくは軍の選抜選手としてオリンピックの陸上競技にでるのではと噂さえされた。


 しかし、その栄光の道筋から大きくそれてしまった。


 昨年末、休暇中の彼女は夜の街に出ていた。

 その時、ある喧騒に遭遇した。

 酷く酔った男が、バーの店長とトラブルを起こし、酒瓶片手に馬乗りになっていたのだ。店長は酷い出血ですぐに止めさせないと、命が危なかった。だが、駆け付けていた巡査は銃を取り出したものの、腰が引けており、酔った男に挑発される始末だった。

 ミリアは警官から銃を奪い取ると、男に銃口を向けた。

 警告、威嚇射撃、最終警告、士官学校で教わった通りの威嚇だったが、泥酔した男にはまるで通じず、男は酒瓶を振り上げた。

 そして、ミリアは発砲した。


 男は重傷を負ったが、一命を取り留めた。


 しかし、その男は欧州連合から私的な旅行に訪れていた政治家だった。

 当然、これは外交問題になり、欧州連合は帝国の横暴さを示す事例だと激しく非難した。

 結局、泥酔した男は保釈金を払い帰国。ミリアも罪には取られなかったが、引く手あまたの優等生から、引き取り手のいない厄介者になり果てた。


「……というのが彼女の経歴だ」


 ミリアは愕然とし、ジョーに対する初対面の印象が間違っていたと理解した。

 ジョーはC大隊の中心メンバーを集めて、その面々にミリアの経歴を話してしまったのだ。

 彼女は白い肌を、怒りと羞恥に紅くし、ジョーに抗議した。


「何故それをここで話すのですか!」

「別に他意はない。これから行動を共にするにあたって、先に情報を開示する方が良いと思ったからだ」

「幾ら指揮官とは言え、兵士個人の事情を慮るべきです!」

「軽率だったかもしれない。だがしかし、此処に居るメンバーは信頼のおけるメンバーだ」


 ジョーに促され、彼女はその集まったメンバーを見渡す。

 腕組している目出し棒男、寝ている女、ずっとルービックキューブを弄ぶ眼鏡の男、つまらなそうにしている青年。ミリアは見た目で人を判断する人間ではないが、とても信頼のおける面々には見えなかった。


 馬鹿にされているんだ、ミリアは確信した。

 怒りがふつふつと沸き、彼女はジョーに詰め寄った。


「お言葉ですが、指揮官。私にそこまでおっしゃるなら、私もあなたにお尋ねしたいことがあります」

「なんだ」

「このC大隊の設立、そして、商人出身のあなたが指揮官に抜擢させたのは女王陛下のご意思だったのでは無いかと聞きました。 つまり、陛下の御容態が思わしくない今、この大隊とあなた自身は存続の窮地にある、そうではないでしょうか?」


 言い終えた後、彼女は身構えた。もしかすると、この指揮官は激高し、襲い掛かってくるかもしれないと思ったからだ。

 もし、そうなれば、投げ飛ばしてやる覚悟が彼女にはあった。

 しかし、ジョーは表情一つ変えず、素直に頷いた。


「その通りだ。良く調べ上げた」

「え? はぁ」

「彼女が言うように、そして、レズモンドのような貴族上がりの将校が言うとおりだ。陛下の御病体が更に悪化された時、我々は後ろ盾を失う。軍縮路線を勧めようとする王子殿下は真っ先に我々の様な異端組織を潰すだろう」


 ジョーは徐に手を叩いた。すると、今まで、不真面目にしていた部隊のメンバーたちが目線を彼へと集めた。


「説明が省けた。我々は次の後ろ盾を手に入れなければいけない。カナード、ブラインドを降ろせ」

「はいよ」


 先程まで寝ていたカナードが立ち上がると、壁際のスイッチを押した。すると、物々しい音がして、窓という窓にシャッターが下りた。普通のブラインドではない、防弾性の鋼鉄のものだ。


「電波吸収剤を塗りたくった特性なものだ。安心しな。そもそも、マジックミラーだ。外からは見えない」

「こ、こんな設備普通じゃない」

「ああ、うちは普通じゃないからね」


 次にジョーが顎をしゃくると、ルービックキューブを弄っていたハロルドという男がコンピューターを操作し始めた。

 すると、ミリアの素性からものものしい音がした。


「上には木箱しかなかったはず……」

「ああ、偽装だよ。あの中には情報収集用のアンテナが入っている。へへへ、気づかなかっただろ?さぁ、何処に向ける?」


 あれだけ怠惰そうだった面々がてきぱきと動き始め、ミリアは状況についていけずに目を丸くする。

 しかし、ミリアは更に驚愕することになる。


「アンテナを帝国宮殿に向けろ」

「宮殿って……!?」

「王室を盗聴する」



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