ERROR 21 再突入
ダンジョンの入口の前で足を止める。
空気が少しだけ冷える。
「戻ってきたな。」
カインが周囲を見回す。
人の気配は少ない。
前に来た時より、静かだ。
ヴェルカが一歩前に出る。
「入るぞ。」
「待て。」
ルクスが止める。
ポケットから核を取り出す。
黒い球体が、手の中でわずかに重さを変える。
「……反応はない。」
「まだ何もないか、」
ルクスが核をしまう。
中に入ると、光が一段落ちる。
石壁の冷たさが空気に混ざる。
足音がゆっくり響く。
ヴェルカが前を歩く、迷いはない。
「前と同じ道だな。」
カインが呟く。
ルクスは周囲を見る。
「今のところはな。」
曲がり角を一つ抜ける。
通路は続いている。
だが壁の傷の位置が、記憶と微妙に違う。
ルクスの視線が止まる。
「……ズレてる。」
「もう、か?」
カインが返す。
「小さいがな。」
ヴェルカが壁を叩く。
鈍い音が返る。
「壊すか?」
「まだいい。」
ルクスが止める。
「深くなる前に見る。」
少し進むと、足元の石の並びが揃わなくなる。
一歩踏み出すごとに、わずかに位置がずれる。
カインが足を止める。
「歩幅が合わない。」
「合わせるな。」
ルクスが言う。
「そのまま行け。」
カインが頷く。
わざと歩幅を崩す。
足音のリズムが不規則になる。
ヴェルカがそのまま進む。
ズレが噛み合わなくなる。
通路の違和感が一瞬だけ薄れる。
「……消えたな。」
カインが言う。
「一時的だ。」
ルクスが返す。
奥から気配が来る。
低い唸りに影が揺れる。
魔物が一体、通路の奥から出てくる。
形は前と同じ。
だが動きがわずかに遅れる。
「来たな。」
カインが前に出る。
一歩踏み込むと同時に体を崩す。
バランスを崩した動きに、魔物の攻撃がわずかにズレる。
その隙に横へ滑る。
ヴェルカが踏み込む。
拳が空気を押し切って魔物の胴を打ち抜く。
骨が折れる音と同時に、体が壁に叩きつけられる。
動きが止まる。
ルクスが近づく。
触れる、違和感はない。
「普通だな。」
手を離す。
「雑魚は変わってないか。」
カインが息を整える。
「深く行かないと出ない。」
ルクスが言う。
ヴェルカが笑う。
「奥だな。」
さらに進む。
通路の幅が少しずつ変わる。
広がったかと思えば、次の瞬間には狭くなる。
目で追うとズレる。
ルクスが目を細める。
「見るな、感覚で行け。」
カインが頷く。
「了解。」
ヴェルカはそのまま進む。
壁に肩が当たるが、そのまま押し切る。
石が削れる音が響く。
ズレた空間が、無理やり整えられる。
分岐に出る。
左右に道が分かれている。
前に来た時と同じ形。
だが空気の重さが違う。
ルクスが立ち止まる。
「……右だ。」
「理由は、?」
カインが聞く。
ルクスが一歩踏み出す。
右の通路に足を入れると、わずかに圧が変わる。
「繋がってる。」
短く言う。
ヴェルカが先に進む。
「ならこっちだ。」
進むほどに、音が減る。
足音が吸われる。
距離の感覚が曖昧になる。
カインが小さく言う。
「また来るな。」
「ああ。」
ルクスが答える。
前方の空間が歪む。
床と壁の境界がぼやける。
一歩踏み込むと、位置がわずかにずれる。
未定義領域の入口。
ヴェルカが足を止める。
「ここだな。」
カインが息を吐く。
「前より濃いぞ。」
ルクスが前に出る。
核には触れない。
そのまま空間に手を伸ばす。
指先が沈む。
「……入れる。」
短く言う。
振り返る。
「行くぞ。」
ヴェルカが笑う。
「最初からだ。」
カインが肩を鳴らす。
「ズラす準備はできてる。」
三人が踏み込む。
空間が一瞬遅れて閉じる。
音が消える。
位置がずれる。
それでも足は止まらない。
再び、あの領域に入る。




