ERROR 13 順番
空間が軋む。
ルクスの手の中で、“それ”が暴れている。
形を持たない塊。
定義の断片。
掴んでいるのに、存在が安定しない。
「ぐっ……!」
頭に流れ込む情報が増える。
処理が追いつかない。
視界が歪み、足元の感覚が消える。
思考が崩れかける。
その時だった。
カインの声が、途切れる。
振り向くと、輪郭がほとんど消えていた。
霧のように崩れている。
「ルクス……」
かすれた声。
時間がない。
「くそ……!」
掴んでいる未定義を固定しようとする。
だが弾かれる。
拒絶される。
「定義が足りない……!」
個体じゃない。
空間そのもの。
ルールの層に触れている。
規模が違う。
このままでは――
「……三秒」
さっき自分で言った言葉がよぎる。
この空間に干渉できる時間。
三秒しか持たない。
それ以上は、意識が崩れる。
ヴェルカが前で押し返される。
完全には止めきれていない。
「早くしろ、ルクス!」
焦りが刺さる。
だが、その瞬間。
違和感に気づく。
「……全部やろうとしてるから足りないのか」
歪み、空間、カイン。
全部同時に修正しようとしている。
だから三秒で崩れる。
「なら――」
息を吐き、思考を切り替える。
三秒を細かく使い、順番を決める。
その瞬間、世界の見え方が変わる。
歪みに強弱が生まれる。
優先順位が見える。
「これだ……!」
一番強い干渉点だけに集中する。
他は捨てる。
無視する。
「まず一つ」
触れる。
修正。
バチン、と弾ける。
空間が一瞬だけ安定する。
「カイン!」
輪郭が戻る。
まだ薄い。
だが確かに存在している。
「戻った……?」
「次だ」
残り時間は短い。
感覚で分かる。
もう一秒もない。
次の歪みに手を伸ばす。
だが――
その時。
空間の奥で、異質な歪みが生まれる。
今までと違う。
重く、濃い。
ヴェルカが目を細める。
「なんだ、あれ」
歪みが形を取る。
黒い球体。
ゆっくりと脈打っている。
そして音が鳴る。
ズレている。
動きと一致しない。
一瞬遅れる。
いや、違う。
「時間が……ズレてる?」
次の瞬間、地面が抉れる。
ヴェルカの頬が裂ける。
「……は?」
見えていない攻撃。
いや、見えていたはずのものが間に合わない。
ルクスは目を細める。
「違う」
低く呟く。
「順番が逆だ」
原因が先じゃない。
結果が先に来ている。
「結果先行……!」
理解した瞬間、三秒が切れる。
視界が揺れ、膝が崩れる。
「っ……!」
干渉が途切れる。
カインの輪郭がまた揺らぐ。
「ルクス!」
ヴェルカの声。
だが次はもう持たない。
普通なら。
「……いや」
ルクスは顔を上げる。
呼吸を整える。
「まだ使い方がある」
三秒は、全部を一度に変える時間じゃない。
奪い合うための力でもない。
「順番を決める時間だ」
黒い球体を見る。
優先順位は見えている。
やることも決まっている。
「まずカインを固定」
「次に空間」
そして――
「あいつの“結果”を先に潰す」
ヴェルカが笑う。
血を拭いながら。
「面白いな」
ルクスは立ち上がる。
再び手を構える。
「次の三秒で決める」
球体が脈打つ。
次の“結果”が来る。
だが――
「順番は、こっちが決める」
未定義領域の中で、ルールの奪い合いが加速する。




