13話 ど、どうしたんですか?
「大丈夫?雪待くん・・・」
水奈月さんは硬直する僕に、そう声を掛けてきた。いや、誰の所為だと思っているんですか?あなたですよ、あなた・・・。
僕の人生に於いて、こんな事態が起きるなんて誰が予想しただろうか。
ほっぺとはいえ、女の子にちゅーをされるなんて。終末が近いのかもしれない。
「はい・・・」
水奈月さんの唇は暖かく、凄く柔らかかった。恥じらった顔も、可愛すぎてやばい。と、思っても何も出来ないヘタレです、僕は。
「でも、嬉しい。」
そうですか、それは良かったですね。
「ね、見て。」
と、嬉しそうにプリントされた写真を見せてくる。ばっちり、水奈月さんが僕の頬にキスをしていた状態が収められていました。
う・・・どう反応すればいいんだ。
この場から逃げ出したい。恥ずかしすぎる。
「半分あげるね。今ハサミで切るからちょっと待って。」
いるかぁぁぁぁっ!
そんなもん誰かに見られたらどうすんだよっ!?
もう外を出歩けないじゃないか!
備え付けのハサミで切った写真を、水奈月さんは僕に渡してきた。もちろん拒否、なんて出来るわけがないので受け取る。家に帰ったら速攻封印確定。
それから少し、ゲーセン内を回ったのだけど、あまり記憶がない。
頬にちゅー。
頬にちゅー。
頬にちゅー。
うぜぇっ!
僕の頭の中を這いずり回るその言葉に、脳内で怒鳴ってみるが、嘲笑うようにすり抜けて何時までも回っていた。
「そろそろ帰ろうかな。」
十二時を廻ったところで、水奈月さんがそう言った。
「そう・・・」
「森高くんに返してあげないと。」
僕は祐二の所持品じゃないっての。と、呆れたところでパーカーの袖が引っ張られる。引っ張ったのは水奈月さんだっが、顔は道路に向けて僕の方を見ていなかった。
「あの、僕、何かしました?」
その態度に何かしてしまったかと聞いてみたが、直ぐに返事はない。どうしようか困り始めたところで、水奈月さんが口を開いた。
「雪待、くん・・・」
「は、はい。」
「私とこの先も、このまま付き合って、くれる?」
何故か、そう言った水奈月さんの声は震えるように、弱々しかった。何かを、怖がるように。
「はい、僕で、よければ。」
意味が分からなかったが、僕が拒否する理由はないので、素直に返事をした。
「良かった。」
顔を上げた水奈月さんは笑顔だったけど、瞳は少し潤んでいるように見えた。
「ど、どうしたんですか?」
「ううん、何でもないの。ありがとう。」
聞いてはみたけど、答えは無い。何故、突然そんな事を聞いて来たのか、分からないままだった。
「じゃぁ、私は帰るね。」
笑顔で言った水奈月さんが、背中を向けて歩き始める。
「水奈月さん!」
その姿を見た僕は、僕自身でも驚くほどの声で呼び止めていた。何故呼び止めたのかは自分でも分からない、勝手にそうしていたんだ。
「お昼、食べてから、に、しませんか?」
自分からそんな言葉が出た事に、驚きしかない。何故僕は、そんな事を言ったのか。
「はい。」
ただ、笑顔で返事をしてくれた水奈月さんの顔は、嬉しそうでとても綺麗だった。
ゼット ≪おいAlice、何をぼけっとしてるんだ≫
Alice ≪ん、ああごめん≫
DEWをプレイしながら、祐二がチャットで話しかけてくる。どうやらぼーっとして、魔獣の攻撃を喰らっていたらしい。
あ、死んだ。
RINA ≪大丈夫っ?Alice・・・≫
いや、あんたの所為なんですが・・・。
拠点に戻され、また戦いの場に戻る準備をしながら、内心でそう言った。今日のデートでいろんな事がありすぎて、思い出しては恥ずかしさが込み上げてきて固まる。
でも水奈月さんを責めるのは間違っている。それは僕だって分かっている。免疫が無い、なんて言い訳でしかない事も。
Alice ≪ごめん、ちょっと明日の授業の事を考えちゃってたわ≫
ゼット ≪嘘だな≫
RINA ≪嘘ね≫
なんだその息の合った突っ込みはっ!
Alice ≪お前ら・・・≫
ゼット ≪狩り中の妄想禁止な≫
RINA ≪まさか、私との・・・≫
ちょっと黙れよアホども。
Alice ≪明日覚えておけよ!≫
ゼット ≪ぶw≫
RINA ≪あはは≫
こうなったら本気で、明日は学校でなんか仕返ししてやろう。祐二限定で。
>頭に黒板消しを落とす。
校門で水を撒いて、間違った振りで掛ける。
下駄箱に偽のラブレターを入れて様子を見る。
椅子に音の出るクッションを設置する。
お、来た来た。こういうのを待っていたんだよ。どうせ降ってくるなら、こういう方がいいに決まっている。
って、古典過ぎて使えねぇよ馬鹿。
>机の上にバナナの皮を置く。
一番簡単で手間いらず。そしてちょっと嫌な感じの仕返し、これも古典だけどこれで行こう。
そんなこんなで、僕の日曜は一瞬で過ぎ去って行った。
チャットはグループチャットにしたので、僕ら三人しか会話は見れない。内容をそんなに気にしなくていいのは楽だし、何より楽しかった。
僕の扱いは、何故か酷いんだが・・・
翌日の朝、早めに学校に行った僕は、朝食のバナナを学校で食べた。ちょうど家にあったんだよね、うちのボスは仕事が出来るぜ。
「髷の置き忘れだ、良かったな見つかって。」
登校した祐二がそう言って、僕の頭の上にバナナの皮を置いた。ってか髷ってなんだよ、取り外し可能な髷って何処に需要があるってんだ。
「いやぁ、僕のじゃないよ。」
とりあえず知らばっくれる。すると、祐二が僕の耳元に顔を近づけて来た。
「数音さ、水奈月と付き合ってるの言っちゃうぞ。」
「なんで知ってんだよっ!?」
驚いて椅子から立ち上がり、思わずそう言ってしまった。教室内に登校しているクラスメートが僕に視線を向けるが、何時もの祐二との会話だと分かると興味を失くしていく。
そんなこ・と・よ・り、だ。何故祐二は知っているんだ?まさか水奈月さんが?
いや、今はそれよりあのニヤニヤ顔をどうにかしてやりたい。
「ああ、今数音が言った事で知った。」
はぁぁぁぁぁっ!!
今何をしれっと言いやがった馬鹿祐二!
くそ、計られたっ!
バナナの皮は、超特大ブーメランとなって僕に戻って激突した、そんな感じだった。
満面の笑顔の祐二に、それ以上言葉が続かない。どうしよう。
ついに、知られた・・・




