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鼓星  作者: 吉川元景
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がよく

ひなのお部屋から引き離されて、つむぎと幸鶴丸は、広いお部屋に連れてこられた。

幸鶴丸は侍女の人の腕の中で、「火がついたみたい」に泣いている。

つむぎは、泣けなかった。

「ひなのお目めが開いたのに!」「助けてあげたかったのに!」という気持ちと、さっき見たはは様の、鬼のような怖いお顔が頭から離れなくて、ただ肩を震わせて立っていることしかできなかった。

そこへ、一歩、一歩。

板の間を叩くような、重たい足音が近づいてきた。

襖が開いて、はは様が入ってきた。

はは様の着物の裾からは、お部屋の「苦い匂い」とは違う、鼻の奥がツンとするような、冷たくて怖い匂いがした。

「……紡。幸鶴丸」

ははさまの声は、雪の日の井戸のお水みたいに冷たかった。

いつもは優しく笑ってくれるのに、今日は立ったまま、つむぎのことを見下ろしている。

「あなたたちは、自分が何をしたか分かっているのですか」

「……つむぎ、ひなに……会いたかっただけだもん……。おめめ、開いたんだよ?」

つむぎは、溢れそうになる涙をこらえて言い返した。

でも、ははさまの声が、お部屋がびりびり震えるくらいの大きさで響いた。

「黙りなさい!」

つむぎは、びくっとして身体をすくませた。

ははさまの目は、怒っているみたいだけど、なんだか泣いているようにも見えた。

「雫様は今、神様と綱引きをしているのです。あなたたちが無闇に触れ、騒ぐことは、その綱をあなたたちの手で断ち切るのと同じことなのですよ!」

カミサマと、ツナヒキ。

つむぎがひなのお布団をぎゅっとしたのが、ひなを遠くへ連れていこうとするカミサマを、お手伝いしちゃったっていうこと?

「己の寂しさだけであの方の命を縮めるのは、愛ではありません。ただの我欲です。……そんな者に、毛利家の娘を名乗る資格はありません!」

ガヨク。

難しい言葉は分からないけれど、「自分だけが良ければいいという、わがまま」だと言われていることは分かった。

つむぎの「寂しい」という気持ちは、ひなを殺してしまう「悪いもの」だったの?

幸鶴丸も、つむぎの背中に顔をうずめて、泣き声を飲み込んでいる。

お部屋の中が、どんどん冷たくなっていく。

「二人とも、今日は食事を抜きなさい。……雫様がもし、このまま目覚めなかったら……あなたたちは一生、その罪を背負って生きることになるのですよ」

ははさまは、一度も振り返らずに、ひなのいるお部屋へ戻っていった。

幸鶴丸とふたりぼっちになった広間は、広すぎて、寒かった。

つむぎは、自分のてのひらをじっと見つめた。

ひなに届けたかった椿の花びらは、もうどこにもない。

残っているのは、ひなの額に触れたときの、雪みたいな冷たさと、汗でじっとりした自分の手の感触だけ。

ひな……ごめんなさい。つむぎ、悪い子だった……

つむぎは、幸鶴丸の小さな手を握りしめた。

暗いお部屋の中で、ひなが神様に負けないように。

つむぎの「わがまま」がひなに届かないように、ちいさく、ちいさく丸まって、夜が過ぎるのを待つしかなかった。

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