眩しすぎる
中庭へ医師を迎えに走り、戻ってきた私の目に飛び込んできたのは、最悪の光景だった。
静寂が守られるべき産屋の襖が、無惨に開いている。
そして、三日間も高熱の闇を彷徨い、ようやく「死の淵」で踏みとどまっている雫の枕元に、幼い二人が取りすがっていた。
「……紡! 幸鶴丸! 何をしているのです!」
私の叫びは、自分でも驚くほど鋭く、震えていた。
駆け寄った視界の中で、雫の様容は一刻を争う事態に陥っていた。
一年前の心停止による心筋の損傷は癒えぬまま再妊娠。重度の貧血と産後の消耗により、彼女の心臓は、本来送るべき血液を全身に巡らせるポンプ機能を、辛うじて維持しているに過ぎない。
そこに、子供たちの「生」の熱量が、強烈な刺激として叩きつけられたのだ。
「雫! ……しっかりなさい、雫!」
雫の瞳は虚空を泳ぎ、焦点が合わない。
心拍はもはや一定の刻みを捨て、激しい不整脈を起こしている。心臓が無理に空打ちを繰り返すたび、彼女の肩が大きく跳ね、喉からは肺に水が溜まったような喘鳴が漏れる。
「二人を連れて行きなさい! 急いで!」
泣き叫ぶ二人を侍女に預け、私はなりふり構わず、雫様の胸元を強く、けれど祈るように擦った。
いけない……これ以上続けば心臓が止まってしまう……!
重度の心不全状態にある今の彼女にとって、愛する我が子の声すらも、弱りきった心筋を叩き壊す凶器になり得る。名前を呼ぼうと必死に動くその唇が、見る間に紫色のチアノーゼに染まっていく。全身を流れる酸素が枯渇し、脳が、心臓が、悲鳴を上げている証だ。
「……はぁ、っ、……あ、…………」
雫様の脂汗が私の手に伝わる。
嵐のような子供たちの気配が去った後、彼女の呼吸はさらに浅く、速く、混濁していった。
脳が「これ以上の覚醒は死を招く」と判断したかのように、彼女の意識は再び、深い熱の沼へと強制的に引きずり込まれていく。
「……ごめんなさい、雫。あの子たちは、あなたを愛しているだけなの。……でも、今は、まだ、あの子たちの光は、あなたには眩しすぎる……」
私は、震える手で彼女の胸を抑え続けた。
枕元には、紡姫が落としていった、少し萎びた椿の花びらが一枚。
雫様の、消え入りそうな荒い吐息に揺れながら、それはまるで、彼女の命の灯火が今にも吹き消されそうであることを告げる、不吉な紅に見えた。




