きらわれちゃったかな
お部屋のまわりは、なんだか大人の人たちがバタバタとあわただしい。
つむぎは、そんな人たちの隙間をぬって、幸鶴丸のちいさな手をぎゅっと握った。
「……こうつるまる、しー、だよ」
いつも厳しいははさまが、お医者様を呼びにいったいまがチャンス。
つむぎは、音を立てないように、音もなく襖を「ゆび一本」だけ開けて、お部屋に滑り込んだ。
中は、お鼻がツンとする、苦いお薬の匂いでいっぱい。
炭が「パチッ」とはじける音だけが、やけに大きく聞こえる。
つむぎと幸鶴丸は、ひなの枕元まで、這うようにして近づいた。
「ひな……お熱、いたいの?」
覗き込むと、ひなのお顔は、雪みたいに白いのに、ほっぺただけが変な赤色をしていた。
幸鶴丸は、いつもと違うひなが怖くなったのか、つむぎの袖をぎゅっと握って、ちいさな声で呼んだ。
「……ひ、な?」
その声に応えるように、ひなの睫毛が震えて、ゆっくりとお目めが開いた。
でも、その瞳はどこを見ているのか分からない。
つむぎたちのことが見えていないみたいで、なんだか遠くの国を見ているような、空っぽの目。
「ひな! つむぎだよ。幸鶴丸もいるよ!」
つむぎは嬉しくて、思わずひなのお布団をぎゅっと握った。
その瞬間。
「…………っ、……はぁ、…………」
ひなのお顔が、苦しそうに歪んだ。
ひなの胸が、壊れた太鼓みたいにドクン、ドクンと激しく動いて、肩が大きく揺れている。
つむぎの「よしよし」が、ひなを苦しめているの?
ひなのおでこに、お水みたいな汗がいっぱい滲んで、全身が「がたがた」と震え出した。
「……つむ……ひめ……。……こう……つ、る……様……」
ひなが、何かを言おうとして、でも声にならなくて、苦しそうに息を吸い込んでいる。
つむぎは怖くなって、握った手を離せなくなってしまった。
その時。
廊下から、尾崎様のこわい足音が聞こえてきた。
「……紡! 幸鶴丸! 何をしているのです!」
バッ、と襖が開いて、尾崎様が飛んできた。
ひなは、いまにも消えてしまいそうな顔をして、苦しそうにもがいている。
尾崎様は、つむぎと幸鶴丸を、ひなから引き離した。
「雫様! ……しっかりなさい、雫様!」
尾崎様が大きな声でひなを呼ぶ。
すぐに侍女の人たちに捕まって、つむぎは廊下へ連れて行かれた。
「やだ! ひな、おめめ、あいたもん! ひな、ひとりになっちゃう!」
つむぎは泣き叫んだ。幸鶴丸も、つむぎの声にびっくりして泣き出した。
でも、襖は無情にピシャリと閉められてしまった。
廊下に放り出されたつむぎの手には、ひなに届けようと思っていた赤い椿の花びらは、もうなかった。
きっと、あのお部屋のどこかに、落としてきちゃったんだ。
ひな、ごめんなさい。
ひなを助けたかっただけなのに。
つむぎ、ひなに嫌われちゃったかな。
雪の日の静かな廊下で、つむぎは幸鶴丸を抱きしめて、声を上げて泣き続けた。




