四郎のお熱(四郎目線)
あつい。
からだじゅうが、火のついた炭みたいに熱い。
「……四郎、お水を飲みましょうね」
だれかがぼくの頭をなでて、つめたい手ぬぐいをおいてくれる。
やさしくて、あたたかくて、だいすきなお母様の声。
お母様だとわかっているのに、こたえられない。
ぼくのからだは、深い、深い、真っ暗な泥沼の中に沈んでいくみたいで、声をだそうとすると熱い息がこぼれるだけだった。
こわい。
真っ暗な闇の中で、ぼくは一人ぼっちだ。
「お兄ちゃんだから、男の子なんだから、がんばらなきゃ」
いつも自分に言い聞かせている言葉が、今は重たい鎖みたいにぼくを縛りつける。
……ひな。……ひな、どこ……?
暗闇の中で、ぼくは必死に手を伸ばした。
透きとおった風のような人。
淡くて消えちゃいそうなお兄様。
あの日、ぼくが贈った花を見て、「ありがとうございます」って泣きそうに笑ってくれた、優しい、ぼくのひな。
お母様の手はあたたかいけれど、ひなの手は、少しひんやりとしていて、でも心の奥まで「大丈夫だよ」って届く不思議な力があるんだ。
「……あいたい……ひな……」
涙がこぼれて、耳の横に流れていく。
どれくらい、そうして暗闇の中で名前を呼んでいたんだろう。
ふいに、冷たい冬の風の匂いがした。
パチリと障子が開く音がして、急に部屋の空気が震える。
「……四郎……様……」
その声が聞こえた瞬間、ぼくの体にかかっていた重たい鎖が、パラパラと崩れ落ちた。
ぼくは重たいまぶたを、必死に押し上げた。
白くなった視界の向こうに、だれかが立っている。
雪みたいに真っ白な顔をして、肩で苦しそうに息をして、ボロボロになって立っている。
ああ……。
やっぱり、きてくれた。
ぼくが呼べば、この人はどんなに遠くても、どんなに体が痛くても、絶対にきてくれるって知っていた。
「……ひな……?」
ぼくが手を伸ばすと、その人はひざをついて、ぼくの小さな手をぎゅっと握ってくれた。
つめたい。雪の匂いがする。
でも、その指先から伝わってくるのは、ぼくをこの世に繋ぎ止める、力強くて優しい「命」の温度。
「……はい、四郎様。……遅くなって、ごめんなさい……」
ひなが泣きそうな声で笑う。
ぼくは、ひなの細い腕にしがみついて、その胸に顔をうずめた。
お母様の匂いとは違う、少しだけ寂しくて、でもとっても懐かしい匂い。
「……きた。……ひな、きた……」
もう、こわくない。
暗い泥沼も、熱い炭も、どこかへ消えていった。
ぼくは、ひなの胸の音を聞きながら、吸い込まれるように眠りについた。
ずっとずっと、この腕の中にいたかった気がするんだ。
ひな……今日だけは、僕だけのひなでいてね。




