四郎のお熱(乃美の方目線)
1554年2月――
激しさを増す雪が、邸の屋根を白く染めていく。
部屋の中にまで染み入るような寒さの中、四郎はもう二刻(約四時間)も、熱に浮かされ続けていた。
「四郎、お水を一口飲みましょう。……母ですよ、わかりますか」
私は氷のように冷たくなった手ぬぐいを四郎の額に乗せ、その小さな手を握りしめる。
数えで四歳になったばかりのこの子は、元就様の血を引いているせいか、幼いながらに驚くほど賢い。
普段であれば、私が少しでも困った顔をすれば、「母上、私は大丈夫です」と笑ってみせるような、そんな健気な子なのだ。
だが、今、私の指を握りつぶさんばかりに力を込めるこの子は、私の言葉など聞こえていないようだった。
「……ひな。……ひなぁ、どこ……」
まただ。
乾いた唇から漏れるのは、私の名ではなく、隆元様の元にいるあの小姓の名。そして四郎と紡姫の産みの母である彼女。
実の母ではない私にとって、その一言は、胸の奥を小さな棘で刺されるような痛みがある。
命をかけて産んだ子を、私は元就様の命で彼女から取り上げて母として接している。
……やはり本当の母には敵わないのね。
けれど、それ以上に、この子がこれほどまでに誰かを強く求めているという事実に、私はただ狼狽えるしかなかった。
「隆元様のところへ使いは出した。……だが、雫とやらは一年前……幸鶴丸様が生まれる際に厄を身代わりに受け命に関わるほどの病に倒れたと聞く。この雪の中、尾崎丸からここまで来られるはずが……」
傍らに控える侍女の言葉に、私は首を振った。
あの子が、どれほど無茶をする質かは、元就様から聞いている。
四郎がこれほどまでに求めているのだ。あの子なら、たとえ這ってでも来ようとするのではないか。
実の子が呼んでいるのだから。
「……ひな、あいたい……ひな……」
四郎の涙が、赤い頬を伝って枕を濡らす。
私は四郎を抱き上げ、その背中をさすりながら、心の底で叫んでいた。
雫殿。……お願いです、早く。この子の心は、私の手では救えないのです。あなたが、この子を孤独から連れ戻してやってください……!




