吉川夫婦の秘め事
「元春。……すべて、説明してもらえますか?」
改めて言われたその声は、低く、地面を這うような重みを含んでいた。
新庄は、雫の寝衣を整え、布団をかけ直しながら続ける。
「この子が女子であることも。そのお腹に、新しい命を成した証が刻まれていることも。……そして、あなたが強引に連れ回していることも。義兄上の小姓をさせていることも……すべて、納得のいくように話してください。尼子との戦の話ではありません。この子の、『命』の話です」
新庄の瞳は、嘘を一切許さない。
「……新庄。隠すつもりはなかった。じゃが、こいつの正体は、父上、姉上、婿殿(宍戸隆家)、兄上とわし、そして景……それ以外には決して漏らせぬことなのじゃ。」
「私にも、ですか?」
少し寂しそうな顔をする。
今まで新庄に隠し事などしたことがなかった。
「……すまん。……じゃが、聞いてくれ。」
儂は、畳に拳を突き、新庄の真っ直ぐな瞳を正面から見据えた。
「まずは雫は……女子じゃ。」
知ってますよという顔をした新庄局に
「そしてどうやら戦のない未来から来たようじゃ。それを兄上が拾った。」
「……は?」
「い、一旦聞いてくれ!!父上達と話し合った結果女子として家中に置くことは出来ぬし、小姓の格好をさせたら案外なんとかなって、そのまま兄上の小姓として吉田郡山にいることになったのじゃ。」
「私が吉田郡山に居る時は、雛殿は確か大内方の出自だと聞いておりましたが。」
「それは身元不明の者が当主(隆元)の側におるわけにいかんじゃろ。幸か不幸か尾崎様に雫は似ておるし、尾崎様の遠縁だから置いているということに周りには説明しておる。
未来から来とることも言えんけえ、戦で記憶を無くしたということになっておる。」
「それはまあ……。」
可哀想にと言いたそうな顔で寝ている雫の頭を優しく撫でた。
「ただいろいろあってその後雫は2度子を産むことになった。」
「色々というところも気になりますが、どれ程前に産んだのですか。」
「半年ほど前じゃの。」
「産後弱っている状態で吉田からわざわざ連れ出したと……?」
「……じゃがな、新庄。こいつを吉田に残してはおけなんだ。……こいつは、独りにしておくと、誰かのために自分の命を勝手に削りおる。わしの手の届くところに置いて、わしの血を、肉を分けてでも……生かしておかねばならんのじゃ」
「……元春」
新庄の力が、ふっと抜けた。
「噂では義兄上(隆元)に子が生まれる度に雛殿が身代わりになって厄を受けていると聞いておりました。
そして産後なのに元気な尾崎様……。
義兄上のお子はこの子が産んだ。……そうですね?」
うっそこまで言っていないのに……。言葉を詰まらせた儂を一瞥し、
「命をかけて子を成して産んだのにそれを我が子だと言わせて貰えないのはとても辛いことですね……。」と尾崎が憐れむような声をだした。
「そうじゃの……。」
「まあ大体は理解できました。尼子攻め最中で吉田も落ち着かないでしょうし、少し離れたところで落ち着かせるのも良いかと思います。
ただ。今後はきちんと事前に相談ください。
こんな大事なことを伝えて貰えなかったことは少し寂しかったです。」
そういう新庄を強く抱き締め
「すまぬな。今後ないようにする。」と言うと
「今度こんなことがあればあなたの首を落としますよ。」
とふふっと笑って言ってきた。
「それは怖いな。」と返した部屋の空気は先ほどまでの凍りついたような空気から一変し温かさが滲むようだった。




