秘密に触れる
……さて、元春を追い出したのは良いけれど、この子の冷え方は尋常ではありませんね。
私は、あの大男がいなくなった後の静まり返った部屋で、手桶の湯に布を浸した。
横たわる「雛殿」は、目こそ薄らと開けているけれど、その瞳に力はない。ただ、私の手の動きを追うことさえ億劫なほど、疲れ果てている。
「失礼しますよ。……少し、楽になりましょうね」
小姓の装束を丁寧に、けれど手際よく解いていく。
日々、鶴寿丸の着替えをさせている私にとって、この程度のことは造作もない。
けれど、上着を割った瞬間に指先が触れたその感触に、私は動きを止めた。
……これは。さらし……?
指先に伝わる、硬く、執拗なまでの布の重なり。
そこにあるはずのない「秘密」を目の当たりにした瞬間、点と線が繋がった。
あいつ(元春)め。
あの大馬鹿者は、私にまで大事なことを言わずにいたのですね。
道中、これほどまでに脆い「女子」を、あんなに揺れる籠に乗せ、あまつさえ自分も一緒に乗り込んで……。
あれは「過保護」などではなく、この子の正体を隠し通そうとする必死の抵抗だったのでしょう。
「……こんなにきつく締めて。これでは、息を吸いたくても吸えぬはずです」
私は迷わず、そのさらしの結び目に手をかけた。
男の子として生きるこの子の「誇り」かもしれないけれど、今はそんなものよりも、この細い肺に新鮮な空気を送り込むことの方が、何百倍も大事です。
さらしを解いていくたびに、雫殿の胸が、塞き止められていた水が流れ出すように大きく波打った。
きつく締め付けられていた皮膚に、ようやく血が巡り始める。
雫殿は、声にならない小さな溜息を漏らし、その重い睫毛を震わせた。
「……あ、……」
「しゃべらなくて良いのですよ。……分かっています。全部、あの男が悪いのですから」
私は、あえてその柔らかな肌を直視せず、温かい布で手早く、けれど慈しむように彼女の体を拭った。
男の子だと思っていた子が、実は自分と同じ、いえ、自分よりもずっと儚い女子だった。
その驚きよりも、私はこの子がたった一人で背負ってきたであろう「厄」の重さに、鼻の奥がツンと熱くなった。
元春。……あとで、たっぷりとお灸を据えてあげましょう。これほどの子に、どれほどの無理を強いたのかと。
そしてお腹の辺りを拭こうとした時、自分の腹にもある見覚えのある跡を見つけた。
この若さで。この、風が吹けば折れてしまいそうなほど細い体で、この子は子を成したことがあるというのですか。
しかも、今はこうして男装をし、義兄上(隆元)の小姓として命を削って仕えている。
「どんな人生を歩んだらこうなるのですか。」
私は雫殿に新しい清潔な寝衣を着せ、布団を肩までかけ直した。
さらしから解放された彼女の呼吸は、先ほどよりもずっと深く、穏やかなものに変わっていく。
まだ身体は冷たく胸の鼓動は早い。
だけども呼吸が深くなっただけでも安心した。




