吉川領地へ
吉田郡山の城門前で、籠の前に立つ雫は相変わらず凛としていた。
だけど、指先は微かに震え、呼吸は少し早い。
「……雫、こっちへ来い」
「はい……?」
不思議そうにする雫の腰を、儂はひょいと抱え上げて、先に籠の中へ放り込んだ。そして自分も大きな体を滑り込ませると、まだ座り方も定まらない雫を、自分の股の間に引き寄せた。
「春様、あの、これでは……!」
「ええけぇ、黙っとけ。これがお前の『定位置』じゃ。……ほら、背中預けろ。わしの胸板はそこらの壁より頑丈じゃろ。」
遠慮して距離を置かないように、最初から自分の胸を「背もたれ」にして、彼女をすっぽりと包み込んだ。
「移動の時は寝ておってええけぇの。」
と実の弟に対してのように雫に声をかける。
諦めた雫はそのまま身体を預けてくる。預けられた身体は軽く脆くカゴの少しの揺れでも壊れてしまいそうなほど繊細だった。
雫の体温の低さと心臓が早く脈打っているのがよく分かる。
少しでも落ち着かせようと儂の体温を移す。
周りに見られない籠で安心したのか時折顔をしかめる時があった。
一刻ほどすぎた時、少し寄りかかっている身体が重くなった
「眠たきゃ眠るんじゃぞ。豊平に着くまでは、わしが絶対離さんけぇの。」
と声をかけるが、きっとこの重さは眠気ではなく、身体から力が抜けて言っている重さだった。
彼女の体は医学的な限界を迎えてしまった。
血の巡りが滞り、心臓が酸素を求めて悲鳴を上げる……
やはり呼吸が浅くなっていっている。
籠でももたぬ、峠越えは無理か……。
「はる……さま……。」
近くの家臣に
「豊平までは雫の身体がもたぬ。目的地を変え壬生で湯治をさせる。新庄にも伝えてくれ。」
と短く指示をだし、少し苦しそうな雫には
「もうすぐ着くからの。少し眠っておれ。」
と声をかけた。




