ひだまりの中
縁側に差し込む冬の陽光が、畳の上に黄金色の道を作っていた。
その中心で、真っ白な産着に包まれた幸鶴丸が、時折ふにゃふにゃと小さな手足を動かしている。
「……見て、お母様。幸鶴丸、おてて、動いたよ!」
紡姫が、雛の背中に抱きつき、頭を預けながら、身を乗り出すようにして弟を見つめている。
雛はまだ、長く座っているのも辛いはずなのに、背筋をすっと伸ばし、慈しみに満ちた瞳で幸鶴丸を見守っていた。
「ええ。よく動く、元気な御子ですね。……雫、貴女がその身を呈して守られた命です。こうして眺めていると、本当に……神仏がこの家へ遣わしてくださった宝物なのだと思わされます」
私がそう声をかけると、雛は少しだけ首を傾け、幸鶴丸様の小さな拳をそっと指先でなでた。
「……はい。この方は、きっと立派な武士になられます。毛利の家を、この広い安芸の国を、太陽のように照らすお方になりますよ」
雛の言葉には、ただの願いを超えた「確信」が宿っている。
ただ、彼女がこの子の未来を誰よりも信じていることに、胸が熱くなるのを感じた。
「ひな、つむぎもね、幸鶴丸のこと、大事大事するの。……お姉様だもんね?」
紡姫が、雛の顔を覗き込んで、同意を求めるように言う。
雛は、紡姫の柔らかな髪を優しく撫で、柔らかく笑った。
「ええ、もちろんですよ、姫。姫が優しく育ててくだされば、幸鶴丸様もきっと、姫のような心優しいお方になられます。……雛も、その日を楽しみにしておりますよ」
「……楽しみ、だね!」
紡姫の屈託のない笑い声が、静かな産屋に響く。
私は、茶を淹れる手を止めて、その光景をそっと心に刻んだ。
歴史の荒波も、尼子との戦も、この陽だまりの外側には確かにある。けれど、今この瞬間の、この四人の結び目だけは、誰にも汚させはしない。
「……さあ、少しお喋りが過ぎましたね。幸鶴丸様も、そして雛、貴女も。今は、この陽だまりを糧にして、力を蓄える時ですよ」
私の小言に、雛が「はい、おざきさま」と悪戯っぽく微笑み、紡姫が「はーい!」と元気よく返事をする。
その、なんてことのないやり取りが、死の淵を彷徨った私たちが手に入れた、最高の報酬だった。




