まどろみの中溶けた―尾崎局目線
「これ、お部屋で何を騒いでいるのですか!」
あえて声を張り、障子を開けた私の目に飛び込んできたのは、布団の周りで固まる子供たちと……そして、微熱に頬を染めながらも、心底幸せそうに目を細める雫の姿だった。
一喝して子供たちを連れ戻そうとした私の言葉が、その笑顔を見た瞬間、喉の奥でふっと溶けて消えてしまいました。
あの日……厳島から戻った時、粟屋殿から
「……昔戦場で記憶を無くし、ここ数年で厄の身代わりをした傷ついた身体で大戦を乗り越えられたのです。休ませるためにもこちらの書状は私がお持ちしました。」と聞いた事のないほどの言葉数で説明を受けた。
寝ている雫は体調の悪さから白い顔をしていた。それ以上に何か消耗しきった顔もしていた。
また無理をして……今度は何を神仏に差し出してきたのですか。そう聞きたかった。
そんな不安を抱いていた私の前に子供たちが彼女のそばで削られたものを埋めるように集まっていた。
「はは様、ごめんなさい……。でも、雛が……」
「ひなと、ねんねしゅるの!」
紡が申し訳なさそうに私を見上げ、幸鶴丸は雫の布団に顔を埋めたまま離れようとしない。
雫は、そんな幸鶴丸の頭を愛おしそうに撫で、私の方を見て……力なく、けれど本当に嬉しそうに微笑みました。
……ああ、もう。本当に、貴女という人は
私の負けです。
ここで無理に子供たちを引き剥がして、また静まり返った部屋に雫を一人残すことなど、今の私には到底できそうにありません。
「……仕方ありませんね」
私は深く溜息をつき、わざとらしく肩を落としてみせました。
「幸鶴丸だけでなく、四郎も、紡も。そんなに雫が良いのであれば……」
私は雫の枕元に歩み寄り、四郎が置いた青い花を少しだけ生け直すと、三人の子供たちを優しく見渡しました。
「今日は特別です。……皆で、ここでお昼寝でもしますか?」
「えっ! 良いの!?」
「わあ、やったー!」
子供たちの顔が、パッと春の陽光を浴びたように輝きます。
雫も驚いたように目を見開いた後、その瞳をいっぱいの慈愛で潤ませました。
「雫。貴女が一番の重病人なのですから、幸鶴丸に潰されないように気をつけるのですよ」
そう言いながら、私は雫の足元に新しい湯たんぽを忍ばせ、子供たちが布団の周りにそれぞれ潜り込むのを見届けました。紡は幸鶴丸の横にいき、幸鶴丸の頭を撫でていました。
四郎は反対側にいき、少し甘えたように雫の服を掴み丸まっていました。
自分もその傍らに腰を下ろし、雫の手をそっと握る。
戦場の雨の音ではなく、子供たちの穏やかな寝息
「おやすみなさい、雫。……起きた時には、きっと熱も下がっていますよ」
あの子が再び深い微睡みに落ちていくのを見届けながら、この幸せな風景がずっと続くようにと祈りを捧げた。




