厳島の戦い―兄の策略
厳島の空が白み、静かな朝凪が陣中を包む頃。
天幕の外で、冷たい空気にあたりながら、昨夜の雫との時間を思い出しては、一人で静かに顔を熱くしていた。
……貴方は本当に私は男だということを忘れてあんなに無防備に眠って。……いや、私こそ、あんな隙を見せるなど。
でも本当に良い夜であった。
耽っていた時に
「景、早いの。やはりお主も、あの硬い地面では腰が痛んだか?」
声をかけてきたのは、いつもの穏やかな微笑みを湛えた兄、隆元だった。
「兄上。……いえ、私はただ、これからの領地運営や大内領土への戦について考えていただけです。……昨夜、私がどのように過ごしていたかは、どうかお気になさらず。あとこちらもお返しします。」
兄は何だか嬉しそうに外套を受け取ると
「そうか。では、その軍議の前に腹ごしらえをせねばな。……雫殿! 雫殿はおるか!」
天幕の影で、ちょうど隆元への給仕の準備をしていた雫が、ひょこっと姿を現す。
「はいっ、隆元様。お呼びでしょうか」
「今朝はな、景も呼んで三人で朝餉にしたいのだ。私の天幕に、景の分も膳を用意してくれぬか」
その言葉に、自分の天幕に戻るかと考えていたが固まってしまう。
雫はきょとんとした顔をして目を丸くしている。
昨晩のことをこの兄に見られているということは何を言われるか分からん。咳払いを一つし、
「……兄上。私は自分の陣に戻って……」と言いかけた瞬間
「よいではないか。厳島での完全勝利、その立役者たる小早川隆景殿と、我が秘蔵の小姓と、三人で祝いたいのだ。……それとも景、兄の誘いは受けられぬか?」
長兄は弟である自分の肩にポンと手を置いた。
兄が何をしたいのかは分からないが、降参したように、ふっと肩の力を抜いた。
「……兄上のお誘いとあれば、断る理由はございませぬ。……雫殿、お手数をおかけしますが、お願いします」
「は、はいっ! 承知いたしました!」
ニコニコと嬉しそうに駆け出していく雫。
「さあ、景。一緒に朝餉を頂くのはいつぶりかの。」とどことなく上機嫌の兄に着いていくしかなかった。




