厳島の戦い―この涙のために戻ってきた
……ああ。この涙のために、私は地獄から戻ってきたのだ。
今腕の中にいる愛おしい人の胸元を一撫でするように、自分の鼓動を彼女に分け与えていた。
貴方は私が生きててよかったとここまで泣くほどに心配し喜んでくれるのですね。
どこか兄上に取られてしまったと思っていたものの、今は自分が独占しているというのがなんとも嬉しいなんて誰にも言えぬな。
そう考えていたところ、
「雫! お主も一緒に…って!隆景殿は無事だと言ったであろうがぁッ!!」
勢いよく幕を跳ね上げて入ってきたのは、少し酒に酔っておる赤川殿だ。
2人きりの静寂を乱されて、命の恩人だが少し腹が立つ。
「あ、赤川殿……っ! ぐすっ、ひっく……」
「何をそんなに泣くことがあろうか! 俺がこの槍で、お前の天啓通りに敵を蹴散らしたのだぞ! もっと俺を褒めても良いくらいだ!」
赤川殿は、自分の胸元を「誇らしさ」で膨らませて、泣き腫らした雫の顔を見て「おい、鼻水が出ているぞ!」と、配慮のない粗暴な言葉を口から出す。
いや、やはりここで叩き切ってやろうか。
「赤川殿、後ほど兄上や父上に貴方の武勲を私からも伝えておきましょう。今は雫殿とお話をしている故また後で…」
と早く出てけと言えない分優しく伝えると
国司殿が「赤川! 貴様というやつは……!」と、真っ青な顔で突っ込んできた。
国司殿と目が合う。
国司殿は何かを察したようにたまには雫殿と酒の付き合いでもと騒ぐ赤川殿を回収してくれた。




