厳島の戦い―まことであったか
暴風雨が吹き荒れ、敵味方が入り乱れる混沌の中、儂は己の戦いをこなしながらも、執拗なまでに一人の男の背中を追っていた。小早川隆景殿の背中を。
雫殿の言うことはまことだろうか。
嵐の中敵もなんとか陶晴賢を逃がそうと必死のようだ。
それを追いかける我ら…。
すると日頃冷静なはずの隆景殿が、まるで何かに取り憑かれたように敵陣の奥深くへと突き進んでいく。
深入りしすぎだ!
そして、死角から無数の敵兵が隆景殿を包囲し、鋭い刃がその首筋へ向かって…。
「……雫殿の言、まこと(真実)であったかぁッ!!」
自分の槍と咆哮が、雷鳴をかき消した。
間に合った。まことであった。
「赤川殿……。なぜ、……なぜ私がここにいると判ったのですか。まるで、私の危機を知っていたかのような……」
槍を一振し、周囲をなぎ倒して行く。
「……俺の知恵ではございませぬ。『雛殿に、頼まれた』のでございます」
混乱した顔で目を見開いている隆景殿…
「小早川殿! 夢うつつか! 貴方を待つ者がおるのだ、下がられよ! ここから先は、この赤川元保が地獄の門番となって食い止めてくれるわ!」
と状況を理解できていない隆景殿の意識を戦場に連れ戻す。
「……ええ。かたじけない赤川殿。……まだ、私は死ぬわけにはいきません。……あの方を独りにはさせるわねにはいきません。」
光が戻った青い目を見、思い浮かべるのは必死な同僚の姿だった。
ちゃんと約束は果たしたぞ。




