厳島の戦い―死の予感(隆景目線)
敵の刃が迫り、視界がスローモーションのように歪む中で、どこか冷めた心地で「ああ、ここが私の終わりの地か」と運命を悟った。
自分がここで討ち取られれば小早川軍の士気は…いや毛利軍の士気に関わる。
それに…智将として、自分の死が毛利に与える損害を瞬時に計算した。
ここで死ぬわけにはいかなかったが、何が起きるか分からない戦の最中…仕方ない。
諦めと激しい雨の冷たさが心を埋めていく。
そんな自分の脳裏に、あの儚く消えてしまいそうな愛しい人の顔が思い浮かぶ。
……いけない。今、私が死ねば……彼女を守れない。あの子に、二度とあのような絶望を味わわせてはならぬ。……ようやく立ち上がろうとしているあの者に、これ以上の『喪失』を与えてなるものか……!
「まだ、……まだ私は貴方に会わねばならぬ。貴方に、勝利の報せを、この声で届けねば……ッ!」
刀を握り直す。
そこへ、誰かの槍が割り込んできたの。
「……雫殿の言、まこと(真実)であったかぁッ!!」
咆哮が、雷鳴をかき消した。
「赤川殿……。なぜ、……なぜ私がここにいると判ったのですか。まるで、私の危機を知っていたかのような……」
槍を一振し、周囲をなぎ倒して行く。
「……俺の知恵ではございませぬ。『雛殿に、頼まれた』のでございます」
雫が…?赤川殿に…?何を…?
混乱をしている自分を一瞥すると
「小早川殿! 夢うつつか! 貴方を待つ者がおるのだ、下がられよ! ここから先は、この赤川元保が地獄の門番となって食い止めてくれるわ!」
待つ人と聞いて雫の顔が思い浮かぶ
「……ええ。かたじけない赤川殿。……まだ、私は死ぬわけにはいきません。……あの方を独りにはさせるわねにはいきません。」
雨で冷えきっていた指先に熱が生まれる。
何が貴方と赤川殿の間にあったのは分かりません。それを聞くためにも、優しく傷つきやすいあなたのそばで貴方を何回も護るために私は生きて戻らなければならない。




