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女神がきたりて  作者: 阿能比等
第一章
9/40

day9 チラ見

 女神がチラチラとこっちを見ている。


 お茶を飲んで一チラ。

 お菓子を食べて二チラ。

 雑誌を読みながら三チラ。



 非常に、鬱陶しい。



 これはあれか、策が尽きてどうしてやろうかと考えてるのか?


「……ねぇねぇ」


 仕掛けてきた。


「……なんだよ、さっきからチラ見してるの知ってるからな」


「おっぱい見る?」


「絶対に碌な事にならないから見ない」


「ちょっとだけ見てみない?」


「……地雷って埋まっていてこそなんだよ……」


「お尻?」


「見ない。お前さ、変なもんに影響されるのやめろって」


「この本だとおっぱいとかお尻出てると上手い具合にこっちの世界に引きずり込めるのに……」


「漫画だからな」


「…………」


「……見んな」


「……チラ……」


「…………」


「……チラ……」


「なぁ」


「行く?」


「行かない。暇なら帰れよ。俺の家を溜まり場みたいに使うのやめろって」


 この女神、最近はそこそこの量のお菓子やクッション、雑誌を持ってくるようになった。

 長時間居座る前提でここに来ている。

 むしろ、いない日の方が珍しくなってきている。


「……お前さ、本当に女神なの?」


「え? 何よ急に。大女神おおめがみだけど」


「なんだ大女神おおめがみって……。毎日毎日俺の部屋に入り浸って、お菓子食って漫画読んで……」


「だって暇なんだもん」


「暇ってお前……神の仕事とかは?」


「特にないわよ?」


「いい御身分だな……」


「女神だもの。だって大女神だもの」


「……うるせぇなこの野郎……」


 こんな……100円ショップで売ってるような安っぽい女神に論破された俺の気持ちが理解できる者はいるのだろうか。

 女神が雑誌をパタリと閉じて、少し考え込んだ。


「……調整!」


「はあ?」


「向こうの世界の仕事!」


「調整ってなんの?」


「生命が過剰に進化しないようにしたり、増えすぎないようにしたり……」


「……すげぇな……」


「でも……」


「でも?」


「今は魔王が……」


 まーた始まったぜ、この雑設定。

 大体、そんな渦中だとしたら女神が暇で自由奔放に俺の部屋に来てるのはおかしいだろ。

 それに、戦闘経験のない平和な国の一般人に頼む事じゃねえだろうよ。


「魔王が?」


「私の世界を支配して人々を……」


「人々を?」

 

「……皆殺し……」


「お前の世界の土地とか資源を狙ってるって事?」


「……え?」


「皆殺しにしちゃったら……だだっ広い土地が手に入るだけにならないか?」


「…………」


 あれか。とりあえず魔王が襲ってきたって設定しか決めてないのか。

 って事は、おれは異世界に行ったら勇者どころか目的を失ったホームレスになる訳か。

 

「お前の世界って実際どんな感じなの?」


「あ、興味ある?」


「そりゃあ、異世界だからな。言ったら物語の中の出来事が実際に起きてる訳だから」


「なりたの世界……第三生界とそんなに変わらないわよ? 文化はちょっと違うけど」


「第三……なんて?」


「第三生界!」


「ここ……この……地球? この世界?」


「ええ。私の世界は第六生界。他にも第九命界とか亜成虫の世界とか第三法界とか色々あるわよ?」


「……まったくついていけねえからその話はもういいや……」


「世界が違っても、1つの世界から分岐してるから大体は同じよ? 食文化もそれほど違うわけじゃないし、生物もほとんど同じよ」


「……その話……軽はずみに人間に話して大丈夫か……?」


「大丈夫よ、この事は知ってる世界の方が多いもの」


 どこもさして変わらない世界なら、俺が変わる事はないんだろうな。

 気にはなるんだけどな、異世界。

 別にこの世界に飽きたとか、新しい世界に旅立ちたいみたいな感情はないけど、すぐそこにある非日常を覗いてみたい気はする。

 

「……俺、お前の……なんて言ったっけ、第六生界? に行ったらどうなるの?」


「今のあなたがそのまま私の世界に行ったら、すぐにここへ帰る方法を探すと思うの」


「なんだそれ」


「なんでしょうね? ふふ」


「前さ、えーっと……テレシアちゃんが初めてここに来た時か。その時にお前が悪あがきしたせいで俺の腕だけ異世界に入っただろ?」


「ええ。腕だけ異世界転生してたわね」


「頭だけ入ったら異世界見えたりしないの?」


「……できない」


「できるんだな?」


「それはチートよ。見るなら来なくちゃ」


「見たら行きたくなるかもしれない」


「ダメ‼ あなたの事だから、見るだけで満足しそうだもの!」


「じゃあ、また腕だけ入っていい?」


「腕だけ?」


「腕だけ。空気感というか、異世界を感じるだけ」

 

「いいけど……」

 

 女神が異界への扉を出すために振り返ったのを確認して、スマホのカメラを起動させた。

 扉の前から動かない女神をなるべく離れた場所に待機させ、スマホをしっかりと持った右腕を異世界へ。


 画面をタップして写真を撮り、右腕を帰還させた。


「ああ、なんか……異世界を感じたわ。」


「今、何かしたでしょ!?」


「別に?」


「あ! 何か持ってる! 何それ!?」


「スマホだよ。これはいつも持ってただろ?何も不自然じゃない」


「インチキ!」


 さて、気になる異世界の様相はっと。


「…………」


 スマホの写真フォルダに入っていたのは――


「……あ、写真撮ってる! ズルい!」


 古い洋風建築の内部と思われる場所にて、異界の扉から伸びる俺の手を見つめているであろう、洗濯物を持ったまま目を丸くしたテレシアちゃんだった。

 何枚か撮ったが、テレシアちゃんが警戒しながら少しずつ近づいてくる様子が写っているだけだった。


「……これ、お前の家?」


「これは……テレシアちゃんの家ね」


「お前なぁ……繋ぐ場所ちゃんと選べよ! 可哀想に、テレシアちゃんが怪奇現象食らってんじゃねえか!」


「今日はテレシアちゃんの家からここに来たから……。でも大丈夫よ、テレシアちゃんは慣れてるから」


「自宅の空間からいきなり腕が出てくる事に慣れてるやつなんかいねえんだよ‼」


「なりたが悪だくみするからー……」


「…………」


 言い返せねえのが無性に腹立つ。

 ってか、女神がテレシアちゃんの家から来たからってなんで俺の転生先がテレシアちゃんの家になるんだよ……

 危うく健気な少女の家にいきなり現れる変質者になるところだった。


 異世界の……というかテレシアちゃんの写真は下着類が写ってたし本人の許可もないのに撮ったものなのですぐに消した。


「じゃ、私は帰るから」


「え? うん……」


 珍しいな。

 こいつが追い返される前に自分で帰るとは。

 と思ったら異界への扉は出しっぱなしでドアも開いている。


 むこうから、女神がテレシアちゃんをお風呂に誘うわざとらしい声が聞こえる。


 そして顔だけを出す女神。


「覗かないでね?」


「だからテレシアちゃんを巻き込むなって」


 女神は引っ込むが異界への扉が消える気配はない。

 ……見てるな。

 これ、向こう側からはこっちが見えてるな。

 試しに異界への扉に手を伸ばしてみると、その手を掴もうとする女神の手が一瞬だけこっちに出てきたのがチラッと見えた。


 俺は、ゆっくりと扉を閉めた。


 これ、俺が閉めても消えるって部分だけは助かるな。


 

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