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女神がきたりて  作者: 阿能比等
第一章
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day10 接待

 バイトでくたびれた俺を迎えてくれる我が家に明かりが灯っているのが見える。

 まぁ、懲りずに毎日のように来るもんだな。


「おかえりなさい、あなた! 食事にする? お風呂にする? それともご飯食べる?」


 部屋の湿度が妙に高い。

 これは…………


「なんで二択なんだよ。お前……風呂沸かしたのか……」


「勿論!あなたが帰ってきたらすぐに入れるように! 丁度いい湯加減だったわよ?」


「やってくれたな……」


「え……?」


「風呂は5日に一度! それ以外はシャワー! バカにならねぇんだぞ、水道代!」


「やだ……毎日入らないの……?」


「しかもこういう事するなら先に入るかね、普通」


「大丈夫よ、ちゃんと新しいお湯入れたから!」


「……てめぇ……」


「当たり前じゃない、女神が浸かったお湯になんて入ったら祝福されちゃうわよ?」


「祝福されたら……?」


「不老不死になって強い聖なる力が宿るわ!」


「……不老だけってできない?」


「私の世界に来ればできるわ!」


 こいつが来てからというもの、毎月の光熱費が上がった。

 そりゃそうだ、成人女性一人分が加算された訳だから。おまけに、クッキーとか菓子パンとか置いとくと勝手に食いやがる。

 ポテチとかグミとかは警戒してるのか手をつけない。


「なぁ」


「来る?」


「行かない行かない。光熱費だけでも払ってくれよ」


「コーネツヒ? 誰?」


「お前が使った分の生活に必要な金を払え、こっちのお金で」


「私ってそういうのは貰う側よ?」


「使った人が利用料貰うってなんなんだよ……その素頓狂なシステム」


 相変わらず話が通じてないのに何故か先に進む会話を切り上げ、立ち上がる女神。

 荷物を置いてテーブルの上を見ると見慣れない食器が並んでいる。二人分。

 今日はテレシアちゃんは来てないらしい。


「あ、それとね、ディナー作ったの!」


「夕飯って言ってくれ。お前の口からディナーとかいう言葉が出るとイラっとする」


「いいからいいから! 口に合うといいんだけど」


「まさか冷蔵庫の食材……」


「違うわ、私の神殿で作って持ってきたの。あの程度の食材じゃディナーなんて無理よ?」


「あー殴りてぇ。お、でも……なんかすごいな。見た目は本当にディナーって感じだな」


「凄いでしょう? 鳥の丸焼きにチキンサラダ、チキンのクリームスープに北京ダック!」


「なんで鳥ばっかなんだよ。それに鳥の丸焼きと北京ダックって……」


 ボディビルダーだってこうも鶏肉ばっかり食べないだろう。

 それにしても本当に料理自体は豪華だ。まさにディナーって感じ。

 雑誌の写真やテレビでしか見ないような料理が並んでいる。


「嫌いなの?」


「いや好きだけどさ……なんか複雑だな……1つのテーブルで二匹の鳥が死んでる光景」


「へー……そういう感じ?」


「そういう感じって?」


「亭主関白?」


「関白の概念あんのかよ、お前の世界」


「先に寝ちゃいけないとか、ご飯は美味しく作れとか……でもできる限りでいいんでしょ?」


「お前さ、俺がいない間にどんな番組見てんだよ。それにそれ、あとで失脚するからな」


「いいからいいから、食べましょう?」


 何がいいから、なのかはわからないが女神はフライパンから何かを皿によそっている。

 赤っぽい何か。

 何かっていうか、チキンライス。


「お前、鳥に恨みでもあんのか」


「あ、チーズかける?」


「溶けるやつ?ちょっとでいいや」


 ……たしかに、ディナーと呼ぶに相応しい豪華なメニューだ。

 なんだろうな、別に贅沢な食事は特別な日にしか食べてはいけないなんていう決まりはないんだけど、なんてことない日常にこんな豪華な食事が現れるとなんか食べるのに二の足を踏むな。


「いただきまーす」


「召し上がれ」


 ……美味い。

 

「美味いな、これ」


「でしょ? あなたが好きそうな味付けにしてみたの」


「……俺、いつも同じようなもんばっか食ってるな」


「そうなの? なんで?」


「後悔したくないから」


「食事で後悔?」


「うん。なんか……冒険しないタイプっていうか……なんだろうな、好奇心より口に合わなかったらやだなーってのが先に立つ」


「なりたって食事でもそうなのね。なんだか損してるみたい」


「え? 食事でもって?」


「心配しすぎなのよ。なりたはもっと色々な事を体験した方がいいと思うの」


「……まぁ、何が言いたいかは何となくわかるわ。自覚あるもん」


「そんなにしょげないで?」

 

 女神は言葉にこそしなかったが、実際俺は臆病者である。

 でもそれが悪い事だと思ったことはないし、人生を窮屈にしていると感じたことはない。

 自分がそれほど強く生きていけるような人間ではない事くらいわかってるしな。


「しょげてるつもりはねえけど。まぁ、事実だしな」


「そうだ、毎日違う事をしてみるとか!」


「違う事って?」


「今日は剣で戦って、明日は魔法で戦って、その次は光力(こうりょく)で戦うとか!」


 光力っていう聞いたことのない何かはすごく気になるが深堀りすると面倒なので聞かなかった事にしよう。

 

「それはいいとして何か始めてみるかな。長続きしそうな事」


「趣味?」


「趣味……になるのか?日課的な何かだな」


「剣の修行!」


「料理でもやってみるかな。節約にもなるし」


「あ、食べたい!」


「できるってだけで特別美味しいわけじゃないぞ?」


「大丈夫よ、美味しいかどうかだけが食事じゃないもの」


 この料理を前に言われても皮肉にしか聞こえない。

 けど、ちょっと楽しみではあるな。

 女神たちが向こうの世界でどんな料理を食べてるのかはわからないが、ちょっとした日ごろのお礼にはなるだろう。

 口に合ったら、の話ではあるが。


「ごちそうさま。そういやテレシアちゃんは?」


「今日は街のフェスティバルの準備を手伝ってるわ。大女神への感謝祭なの」


「大女神ってお前じゃなかった?」

 

「ええ、私の感謝祭!」


「女神、帰れ」


「え?」


「一刻も早く帰れ。俺に接待してる場合じゃねえ。早く帰って接待されてあげろ」


「大丈夫よ、各々好きなように楽しんでるから」


「あー、ちょっと待て、この余った料理はテレシアちゃんに持っていけ」


 このフリーダム女神は異世界の民にとってどんな存在なのだろうか。

 つまりは、本人不在の誕生日パーティーみたいな感じだろ?

 普通、気になるんじゃないか?

 この女神……まさか目茶苦茶ぞんざいに扱われてるんじゃないだろうな……


「なりた!」


 異界への扉から顔を出す女神。


「早く帰れって」


「料理、忘れないでね?」


「……気が向いたらな?」


 やっとの事帰る女神と消える異界への扉。

 ……何を作るかな。

 なるべく豪華な物にしたいけど、俺に女神を満足させられるような料理が作れるだろうか。

 料理の前に、ネットでレシピを漁るのが日課になりそうだな……

 

 


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