Bygone day 誕生
夏。
暑い。
夏休みには必ず母方の実家に帰省する。
もっと純朴だったらこの田舎も楽しめたんだろうけど僕は楽しめなかった。
家にいるとじいちゃんは将棋に誘ってくる、ばあちゃんは異様にお菓子を食べさせようとする、両親は庭で遊ばせようとする。
結果、僕は山に囲まれたこの田舎を目的もなくプラプラと歩いている。
誰か一人くらい、エアコンの効いた部屋でのんびりしようと提案する者はいないんだろうか…
退屈。
もっと楽しい事がしたい。
ゲームやアニメの主人公みたいに色んな人に出会ったり、色んな所を冒険したり。
青い稲が並んだ田んぼ
トウモロコシが並んだ畑
狛犬が並んだ神社
日差しはさして変わらないのに神社の近くだけ妙に涼しく感じた。
背後から穏やかに吹き抜ける風に促されるように苔むした石段を登ると真っ白な鳥居が、そしてその鳥居の向こうにサッカーボール程の淡く輝く白い光の玉が浮いていた。
不思議と怖くはなかった。
鳥居を挟んでその光の玉を眺めていると、不意に頭に声が響いた。
僕と同じくらいの歳だろうか。
少し躊躇ったような、控えめな女の子の声だ。
「だあれ?」
「……和陀……阿仁谷 和陀……」
「なりた!」
「神様……?」
「もうすぐ女神になるの!」
「もうすぐ?」
「誰かに信じてもらうと神様になるの!」
「なんか……すごいね……」
「お姉ちゃんが忙しいからこの世界の神様の所にお世話になりなさいって。ねぇ、願い事はある?」
「叶えてくれるの?」
「なりたが私の事を信じてくれたら絶対叶えてあげる! ねぇ、こっちに来て!」
「うん……行く」
呼ばれるままに鳥居を潜り、光の玉の前に立つと僅かな暖かさを感じた。
「私もその形がいい!」
「形?」
「私に触って!」
指先でそっと触れると、少しだけ光の玉に指が食い込んだ。
「私を信じて?」
疑ってはいなかった。
ただ、訳がわからないというのが一番近い感情だった。
これは神様なんだ、願い事を叶えてくれるんだ。
そう強く思ってみた。
すると光の玉は強く輝き、その形を崩し始めて………
僕と同じ位の大きさの人の形になった。
光でできた人。
その光は不思議と直視しても眩しくなかった。
「…………」
綺麗だった。
眩い光の人は僕の手を取り、鳥居の方へ歩いた。
「ありがとう!」
「へ……?」
「私、なりたのお陰で女神になれた! 忘れないで、絶対になりたの願い事、叶えてあげる!」
「……うん」
「なりたの願い事、教えて?」
「僕……もっと楽しい事がしたい。もっと色んな事がしたい……」
「そっか! 約束ね!」
手を繋いだまま通り抜けた筈の鳥居の向こうに立っていたのは、僕だけだった。




