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女神がきたりて  作者: 阿能比等
第二章
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day11 魔法

 火を断たれた。

 

 まぁ厳密に言うとガスなんだけど。近所の工事のせいで明日までガスが使えない。

 カセットコンロはあるけど肝心のボンベがない。

 外に出たくないし、何より余計なお金を使いたくない……


「お庭で焚き火したら?」


「ダメに決まってんだろ」


 困った。冷凍食品はぶどうとネギと玉ねぎ、それから結構前の冷凍ご飯。野菜とか普通の食材はあるんだけどな……生野菜で解凍したご飯を食べるのは流石にちょっとな……


「外食行くか……」


「お金出す?」


「…………」


「バレないと思」


「お前女神なんじゃないのかよ!邪悪な女神だな本当によ……」


「じゃあ……魔法で作るとか!」


「魔法使えるの? あ、扉以外のな?」


「全属性使えるわよ!」


「やっぱいいや。碌でも無い事になる展開が想像できた」


 本当に料理だけで済めばいいけど、この女神の場合は何をするかわかったもんじゃない。


「大丈夫よ、料理なんだから! 使う属性は冥属性と因属性と魚属性くらいよ?」


「待て待て待てなんだその訳の分からん属性。しかも魚属性って……」


「え……だって料理作るのに魚属性がないと……」


「動画かなんか無いのかそれ、見たいけどここでやられるのは嫌だわ。」


「あ、Ω属性も使うかも!」


 俺の思ってた魔法と女神の使おうとしてる魔法が違い過ぎる。

 どうしたもんか……やっぱり外食で済ますか?

 でもなぁ……こいつを連れて歩きたくないし、こいつが俺の部屋から出入りする所を人に見られたくない。

 ……そういえば……


「お前さ、向こうの世界の物を持ってきた事あったよな? 何か持ってこれないの?」


「勿論、持ってこれるわよ?」


「何か昼と夜に食える物持ってきてくれない?」


「いいわよ! じゃ、取りにいきましょ!」


「こっちで火は使えないからな? 向こうである程度作ってくるか、そのまま食える物にしてな?」


「ええ、わかってるわ! さ、行きましょ?」


「テレシアちゃん、ちゃんと食べてるの?」


「呼ぶ?」


「一応声かけようよ」


「それなら私は食料を運ぶからあなたはテレシアちゃんを」


「一人で行け一人で! そんな手に乗らねぇよ!」


 拗ねた女神が食料を取りに行って暫くすると、異界への扉から戻ってきたのは女神ではなく二つの籠を抱えたテレシアちゃんだった。

 テーブルの上を片付けていた俺の元へ歩み寄り、籠を渡してくれた。


「お邪魔します。これ、女神様から和陀さんへ渡すように頼まれました」


 中身は様々な料理。

 生ハムサラダに、ローストポークのサンドイッチ、豚肉とトマトの煮物、こっちの鍋は……おー、スペアリブ。


「ああ、ありがと。あれ、女神は?」


「豚肉を貰いに行きました。後で料理を持って戻ってくるそうです」


「…………」


 まぁ今回は、不本意だが俺から頼んだ事だから文句を言うのはやめておこう。


「テレシアちゃんも食べていきなよ。こんだけあればお姉さんにも持って行ってあげられるだろ」


「え……でも……」


「大丈夫大丈夫。今回に限っては女神の奢りみたいなもんだし」


「じ、じゃあ……お言葉に甘えて……」


「あ、そうだ、家って近いの?」


「城下の端っこなのでそこそこの距離ですが……カベルで家の前まで送ってもらえるので大丈夫です」


「カベル?」


「あ、いつものこの扉です」


 そんな名前だったのか……この扉……

 テレシアちゃんが届けてくれた料理をタッパーに詰めて、菓子パンやお菓子と共にビニール袋に入れた。


「じゃあさ、これ先にお姉さんに持って行ってあげなよ。冷めちゃうと悪いから」


「あ……ありがとうございます‼」


 苦労してんだなぁ、テレシアちゃん……ってか女神……助けてやれよ……

 それともあれか、助けちゃいけない理由が何かあるのかな?

 

 三十分ほど経った頃、扉の向こうからテレシアちゃんの声が聞こえる。


「和陀さーん! テーブルの上、空いてますかー?」


「え? まぁ、さっきの料理がそのまま置いてあるくらいだけど」


 テレシアちゃんの返事を待っていたかのように現れたのは……背を向けて下がってくる女神と、板に乗せられて異界の扉からゆっくり運ばれてくる豚そのものだった。

 現在、豚は下半身まで部屋に入ってきている。


「待て待て待て待て! 入れんな入れんな!」


「え? でも……」


「なんで丸ごと持ってくんだよ! それなに!? 丸焼き?」


「まだ焼いてないわよ?」


「お前……もう……さぁ……」


「苦手?」


「いや豚は苦手じゃないけどさ、火が使えないんだって。それに、三人じゃ食べ切れないだろ」


「大丈夫! 魔法で焼くから!」


「俺の部屋で焼くな! 戻せ!」


「もう、我が儘ばっかり」


「……はあ?」


 これは我が儘なのだろうか?

 向こうで豚の乗った板の反対側を持ってるであろうテレシアちゃんに一声かけて戻っていく女神と豚。

 そして戻ってくる女神とテレシアちゃん。


「折角メインディッシュはこっちで仕上げようと思ったのにー……」


「もういいよ、こんだけあれば十分だろ」


 テーブルに並ぶ大量の豚肉料理とテレシアちゃんが抱えているパン。

 どう見ても豚の丸焼きは必要ない。

 ……食べてはみたいけどな、豚の丸焼き。


「とりあえずさ、明日の昼には工事が終わるらしいから……三回分に分けるか。今日の昼と夜、それと明日の朝」


「え? 明日も持ってくるわよ?」


「いや流石に悪いよ。食べよ、冷めると悪いから」


「そうね! テレシアちゃんも座って!」


 皿に移し替えた豪華な豚肉料理たち。

 最初こそ、また同じ種類の肉の料理ばかり持ってきよってとは思ったが……


「いただきまーす」


「召し上がれ!」


 俺は口で言う程、そんなに繊細ではないので肉料理はシンプルにテンション上がる。

 特にこのスペアリブみたいな大きめの肉料理は嬉しい。


「おお、美味いな」


「でしょ? 町の人にも好評なのよ?」


 テレシアちゃんも一生懸命スペアリブを齧っている。

 なんだかちょっと面白い。

 それにしても女神が現れてからというもの、賑やかとまではいかないが誰かの声がある食事というものが増えた。

 別に孤独ではなかったから、このアパートに移り住む前日以来だな。


 意図せず口から流れ出る取り留めも意味もない会話も、いつしか日常に馴染んでる。

 俺の日常は女神という存在でだいぶ変わってしまった。

 こんな事でいいのだろうか?


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