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女神がきたりて  作者: 阿能比等
第二章
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day12 アジェンダ

 テーブルを挟んで女神と二人きり。

 真っ直ぐ見つめ合う俺達。


「はい、まずは目的」


「魔王退治!」


「魔王は何したの?」


「…………」


 いい加減しつこいので、話をまとめるのも兼ねて女神としっかり話し合う事にした。

 と言っても女神の要求に応えるつもりは一切ないけどな。


「そこで詰まるなよ……ちゃんと考えとけよ」


 こいつ、本当に行き当たりばったりなんだな。てっきり大筋のストーリーは用意してるもんだと思ってた。

 まさか俺が魔王を倒すって部分しか固まってないとはな。

 

「魔王が世界を滅ぼしたの!」


「もう滅ぼされたの?」


「滅ぼそうとしてるの!」


「……まぁ、とりあえずいいや。で、その魔王を俺に倒させようとしてる、と。」


「来る?」


「無理だぞ」


「へ?」


「仮にお前の話が本当だとして、俺がそっちの世界に行っても魔王なんか倒せねえよ」


「そんなの……やってみなきゃわからないじゃない‼」


 女神がわざとらしくテーブルに両手をついて叫ぶ。一応、俺の心を動かす為の演技……なのかな。

 こんなアパートの一室でやられても心は愚か、感情すら動かないけどな。

 

「わかるよ。火を見るより明らかだよ。俺に倒せるなら多分だけど誰にでも倒せるぞ」


「そんな事……ないと思う……」


「あるよ。大体どうやって戦う想定なの?」


「剣とか……剣は使える?」


「勿論使えねえよ」


「魔法は? 簡単な魔法でもいいの」


「無論使えねぇよ」


「何かを召喚できたりとか……」


「論外だよ! 人間なんだって、俺は!」


 段々話が荒唐無稽になっていく。

 女神は真面目な顔で聞いているが、一切意味のない不毛な問答である。

 

「人間だって魔法くらい使えるわよ?」


「俺も?」


「勿論!」


「……マジで?」


「…………」


「……まぁいいや。魔法ってどんな感じなの?」


「こっちではどんな魔法がある?」


「ない。こっち魔法ない」


「うーん……軽い怪我と病気の治療ができる魔法とか、お肉とか魚を生成する魔法とか?」


「え?」


「え?」


「肉を生成って?」


 女神はテーブルの上の雑誌に両手をかざすと、雑誌はひとりでに柔らかい紙粘土のように歪み、形を徐々に変えて1枚の生ステーキ肉に変わった。


「どう? これが量子魔法系、魚属性類、生鮮食品錬成よ!」

 

「うわちょっとお前テーブルの上に……」


 嫌だなー、これ。

 テーブルの上に生肉を直に置かれるのも嫌だし、テーブルの上に直に置かれた生肉を食べるのも嫌だな。

 とりあえず台所から適当に持ってきた皿にステーキ肉を乗せた。


「これ……なんていうか……どなたの肉なの?」


「牛肉だからたしか……魔界ダークブル種のキング・ジャクローマンのお肉の配列ね」


「配列……? よくわからねぇな……」


「単純よ。ステーキ肉の原子配列をコピーして魔力に記憶させて別の物の原子配列を」


「難しい話やめろよ、脳ミソおかしくなるわ」


「一種生成魔法免許を持つ者のみが使う事を許された上級魔法よ」


「免許持ってんの?」


「勿論! 前にあなたに作ってあげたディナーのお肉も私が生成した物よ。孤児達に振る舞ったチキンクリームスープに使った鶏肉の余りだったの」


「ああ、だから鶏肉ばっかりだったのか」


 女神なのに免許制度に縛られてるのは気にしない事にするとして、こうして目の前で空想だった筈の本格的な魔法が披露されると感慨深い。

 まぁ、異界への扉出したり偽札出したりした事はあったけど……。


「魔法、興味あるの?」


「興味……興味ってか、まぁ……この世界だと魔法は空想の産物だから、お前にしてみたら些細な日常の能力だとしても、俺からしたらおとぎ話が現実になってるようなもんだからさ」


「どんな魔法が使いたい?」


「瞬間移動」


「それは魔法じゃなくて特定先天性能力ね」


「なんだそれ」


「人によって先天的に持ってる能力なの。ほとんどの人が出生時に封印されるから特定の仕事に就いてる人以外は使えないのよ」


「意外と厳しいよな、お前の世界」


 俺の認識が甘いのかな。

 魔法とか超能力があるだけでこの世界とそんなに変わらないみたいだな。

 でも、そうだよな。俺みたいな異世界の事を良く知らない人間が魔法を利用して金稼ぎしようとしたくらいだから、キッチリ管理しとかないと危ないよな。

 ……それに乗っかったのは女神なんだけど。


「ねぇ、なりたの夢ってある?お花屋さんとかケーキ屋さんとか」


「今時小学生でも言わねぇような夢を……。夢なぁ……、ないっていうか、真面目に考えた事なかったな」


「そんなのダメよ!」


「ダメったって……じゃあ……大富豪?」


「大富豪になって何をするの?」


「大富豪になって……」


 ダメだ、食事だけ豪華になった今の暮らしがリアルに想像できた。

 結局、何も変わらない日常の延長線上しか思い浮かばない。

 

「何するっていうか、お金の煩わしさから解放されるからさ」


「それは夢じゃなくて、悩みを解決したいっていう願望でしょ?」


「……難しい事言うな、お前……」


「やっぱり私の世界に来た方がいいと思うの。今のなりたって噴水の水みたいに同じ所をぐるぐる回ってるだけでしょう?」


「女神、傷付く」


「だったら私の世界に来て新しい事を始めない?」

 

「ならお前の世界に行ったら商人やるからな。魔王とは一切関わらないし勇者にもならないからな?」


「じゃ、行きましょ!」


「待てよお前! 潔く嘘を諦めやがって……」


「あ、そうだ! 初期費用は私が用意してあげる!私の神殿に置いてある物とかを売るとその筋の人が高く買ってくれるの!」


「どの筋の人だよ。神殿に置いてある物って大事なんじゃないの?」 


「使わない物ばっかりだから大丈夫よ?」

 

「じゃあ魔王はいいんだな?」 


女神は今まで見せた事のないような微妙な顏をした。

 

「……うん……」


「俺が言うのもなんだけど、その嘘は取っておいた方がいいんじゃないの? 既にガッタガタなのに今から別の新しい設定こしらえるのは無理だぞ」


「…………」


「……お前の世界で起きた一番新しい国際問題は?」


「……魔界と……湖の取り合い……」


「どんな感じで揉めた?」


「……裁判……」


「それ、いつの話?」


「……12年前」


 こいつの世界の規模は分からないけど日本、と言うよりこっちの世界よりだいぶ平和じゃないか。

 なんかこういう話聞いてると、異世界も悪くない気がしてくるな。

 この世界の治安や行く末を憂うような高尚な事を考えたことはないんだけどさ。


「お前、俺にどうして欲しいの?」


「私の世界に来て!」


「それはわかったって。お前の世界に行って何をして欲しいの?」


「なりたは何がしたい?」


「お前なぁ、そういう話は常々俺が異世界に行きたいって思っててこそだろ。お前が現れるまで異世界の存在すら知らなかったんだから、何がしたいもなにもないもんだろ」


「じゃあ、異世界に行ったらやりたい事トップ3!」

 

「とりあえずちゃんと魔法を見てみたいな。あとは……魔物的なものはいるの?」


「勿論! なりたの想像してた魔物がいなかったら生み出してあげる!」


「やめてやれ脅威を増やすのは! 俺が現れて魔物が増えたら俺が魔王みたいになるだろ!」


「大丈夫よ、ちゃんとなりたみたいな人でも勝てるくらいのにするから」


「……殴りてぇ。まぁ戦力がないのは確かだけどよ。とりあえず魔物というかこっちにはいない生き物は見てみたいな」


「あと一つ!」


「単純に見て回りたいな。観光ってわけじゃないけど、一通り異世界を見て回るみたいな」


「なりたって見るのが好きなのね。自分で何かをしたいって思わないの?」


「実際に行ったら何かあるかもな」


「じゃあ、とりあえずはその何かを探しましょう?」


「俺みたいなのにもできるような事があるといいな」


「大丈夫よ、できるような事はなくたってやりたい事がなくなる訳じゃないもの」


 女神が台所のある板の間に手をかざすと異界の扉が現れ、ゆっくりと開いた。


「……危ね‼」

 

「さ、行きましょ? ね、早く行きましょ、ほら」


「行かねえよ!危ねぇ……流される所だった……なんで異世界に行く流れになってんだよ!」


「…………」


「行かない。俺は、異世界には行かない」


「あとちょっとだったのにー……」


「ちょうどいいから帰れ。平和な世界に帰れ」


 扉を消した女神は座り直してお茶を入れ始めた。


「飲む?」


「……うん」


 さっきの流れでよく居直れるな、こいつ。

 俺が異世界に行ったら……いや、行かない。行ったらとかじゃなくて行かないんだ。

 危うく変なセミナーに誘導されるような形で異世界に行くとこだった。


 気を付けないとヤバいな、これ。

 ちょっと興味を持ち始めた俺がいる。

 気をしっかり持たなければ……

 

 

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