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女神がきたりて  作者: 阿能比等
第二章
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day13 鉱石

 給料日直後だからって弁当屋の弁当買っちゃった。昼なのに。

 おまけにスーパーであれやこれやと普段は買わないような物も買った。

 今日は、給料日直後に連休という一年に二回ほどしかない貴重な二日間の最初の日。

 その二日間の買い物を済ませた。要するに、連休中は籠城する。


「ただいまー」


「あ、おかえり!」


 ……ん?

 テーブルの上に、コバルトブルーの透明な石のようなものが置かれている。

 ゲームとかで見る水晶みたいにトゲトゲしたビールジョッキ程の大きさの石。


「綺麗だな。何それ?」


「オレイカルコス!」


「宝石?」


「鉱石よ、こっちだとオリハルコンって呼ばれる事が多いみたいね」


「あー、オリハルコンか」


 ゲームだと貴重品だよな。でも、こうして丸出しのまま持ってくるあたり、異世界では大したことないんだろうな。


「私の世界の王国の名産なの」


「名産ったって。なんかアクセサリーとかにすんの?」


「粉末にして飲むの。オレイソーダっていって、美味しいのよ?」


「へー、飲まねえよ」


「え……?」


「いや、だって石溶かしたソーダって……」


 気持ち悪い。シンプルに気持ち悪い。

 俺の体で消化できる気がしないし。


「体に良いのよ? オレイシアミンΩが体の悪い物を浄化してくれるの」


「なんだオレイシアミンって……」


 女神はオリハルコンを持って立ち上がると、台所に向かった。

 そこには異世界から持ってきたであろう、見覚えのない緑色したガラスのボトルが数本置いてある。

 女神はシンクにオリハルコンを置いて水で洗い始めた。

 まぁ、自分で飲む用なら好きにしてくれ。


「なりた、ミキサーどこ?」


「ない。ミキサーない」


「え? でもこの前、ミキサーで野菜炒め作ろうとしたら野菜ジュースになったって……」


「くだらねぇ事を覚えてるんじゃねえよ。捨てたんだよ」


「あ、こんなところにあった」


「おい待て女神! 先に何に使うか教えろ!」


「オレイソーダだけど?」

 

「何をミキサーにかけるの?」


「オレイカルコス!」


「やめろお前、二度と使えなくなっちゃうから! 変なもん入れんな!」


 俺の貴重な家電をオリハルコンで破壊されるわけにはいかない。

 なんとかミキサーを死守しようとする俺をよそに、女神はオリハルコンに手をかざす。

 すると、オリハルコンは青い輝きを放ってロックアイス程の大きさにボロボロと崩壊した。


「ほら、これで入るでしょ?」


「入るとか入らないとかそういう事じゃねえって。石なんかミキサーにかけたら壊れるだろ」


「大丈夫! 包丁でも砕けるから!」


「本当か⁉」


「ほ、本当よ、普通は包丁で砕くもの」


「これ……臭いがついたりとか、染まっちゃったりしないか?」


 人の話を聞いてるのか聞いてないんだかわからない女神は、オリハルコンと水をミキサーに入れた。

 俺の了承も得ないままスイッチを入れると、オリハルコンは意外にも静かに砕け散り、その姿を消して水をコバルトブルーに染めた。

 薄っすら泡立つコバルトブルーの液体。それをコップに注ぐと――


「なりたも飲むでしょ?」


「いや……うわ! 糸引いてるじゃん! 気持ち悪っ!」


「ちょっと濃かったかしら? でも大丈夫、炭酸水で割るから」


 結局、いらないという俺の意思は無視されて出来上がる二人分のオレイソーダ。匂いはしない。

 見た目は南の島とかの海っぺりで飲んでそうな青いソーダ。だが、なんか液体に質感があるというか、ちょっと重そうというか……


「これ俺が飲んで大丈夫か? お前の世界の人間以外は飲んだら死ぬとかないよな?」


「勿論! とっても体に良いし美味しいのよ? 食事の時とかお酒飲む時によく飲まれてるわ」


 そう言ってオレイソーダを一口飲む女神。

 

 ……おっかねえなぁ、これ。


 舐める程度に一口飲んでみると、強めな炭酸と僅かな甘みを感じた。

 不味くはないけど、特別美味しいって訳でもないな。炭酸水とさして変わらない。

 確かに食事にはいいかもな。


 ……え? なんか……コップを持つ俺の手が薄っすら光ってる……

 内側の方からじんわりと光が溢れてくる……



「おいおいおいおい女神これ! こ、これ!ひか、光ってんぞ⁉」


「あ、それね、浄化光素」


「なんだそれ⁉ おい大丈夫かこれ⁉」


「体の悪いものを浄化してるのよ、大丈夫」


 消化酵素みたいに言いやがって……

 発光は一分しない内に収まったが、二口目を飲む気にはならなかった。

 体にはいいのかもしれねえけど、光りたくねえもん。なんか怖いから。


「でさ、俺にこれを飲ませてどうしたかったの?」


「気に入ってくれると思って……」


「まぁ、面白いは面白いけど」


「他にもこっちにはない面白い物が沢山あるわよ!」


「お前が持ってきた物を楽しむくらいでいいわ」


「なりたが好きそうな物が沢山あるのよ?」


物で釣るつもりなら、もっといい物を持ってきてくれねえかな。ジュースで釣れるのなんて、暇な小学生くらいだろうよ。

たしか、金が安物だったよな。それでオリハルコンも安物と。

 全部が全部まったく同じ価値ってのは流石にあり得ないだろうし……


「そっちの世界の一番高価な物って何?」


「高価な物……精霊晶かしら?」


「お、なんか異世界っぽいな」


「寿命で死んだ精霊の死体が、長い時間をかけて腐敗して、骨の成分と大地の成分で結晶化した物よ」


俺は、食べようと思って開けた弁当をそっとしまった。

 まだそうとは決まってないけど、その精霊晶とやらを先程のオレイソーダの様に飲むのを想像して食欲が失せた……


「それ……何に使うの?」


「カットしてアクセサリーにする事もあるけど、ほとんどは国営の畑とかに埋めるわ。土壌が豊かになるの」


……精霊の死体で育った野菜……それはそれでなんか複雑だな……

 

「なんかさ、こう……これが手に入るなら、みたいな物を持ってこないと。この前の金とかこのソーダとか、こっちで利益が出たり完結したりする物じゃダメだって」


「っ⁉」


 晴天の霹靂みたいな表情して本当に驚いてやがる。

ノープランというかなんというか。思い付きで行動してるんだな、本当に。


「そのくらい気付こうぜ。今のお前、お土産持ってきてる感じになってるからさ」


「……あ!」


「なに?」


「今日は帰っていい?」


「好きにしたらいいがな、勝手に来てんだから」


「次は絶対にいい物を持ってくるから! 今から準備してくる」


「おお……頑張れよ。多分、徒労に終わるだろうけど」 

 

ってか、なんで俺がレクチャーしてんだろ。

 何かに目覚めた様な目つきで異世界に帰っていく女神を見送り、弁当を再び取り出すと既に冷めていた。

ミキサー洗ってる間にレンジでチンするか。


 ……お、炭酸水。これは貰っておくか。

 本当にどこにでもあるような普通の炭酸水だ。

 って事はあれか、あの僅かな甘みはオリハルコンの味だったのか……?

 

  ……はぁ……洗うの面倒臭せ……

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