day14 魔女
女神は、大体は起きた時には既にいる。例えいなくても外から帰った時とかにいるし、トイレから出るといたりもする。
が、今日は違った。
いつも女神が座っている場所に、見知らぬ女性が座っていた。
前髪で片目を隠した、長く癖のある、ふんわりとした白い髪の女性が
「あ、起きちゃった……」
と言う所から俺の一日が始まってしまった。
よく見ると、右の束ねた横髪を首の前から左肩にマフラーのようにかけている。水着と言われれば疑わずに納得してしまう様な服……というよりビキニに腰布巻いただけのような服といい、使用感の全くない綺麗な杖といい、何より本人が一番困惑してるこの状況といい……ヤツの仕業だな。
「扉も無いけど……女神どうしました?」
見た目は思いっ切りセクシーなお姉さん系なんだけどな。特徴的な真っ赤な瞳と一切目が合わない。
「え、あ……女神様、女神様あの……帰っ……た……」
「帰った? なんか言ってました?」
「女神様があの……なりたって人が、女神様がなりたって人が旅に……」
「大丈夫ですよ、旅には出ないんで」
あいつはこの子を放置してどこに消えたのか。この子も困惑してるだろうけど、何よりも俺が困惑してる。
「魔法使い、ですかね?」
「いえ、魔女……魔女です……レカ・プラオット・ソケネー……29歳、特技は狩猟と魔法……」
「なるほど……」
「…………」
「…………」
「女神、どこに行きました?」
「さっき予約が……女神様、予約があるみたいで……予約の時間だって言って……すみません……」
「いえいえ、そんな。予約か……」
「…………」
「他に何か言ってました?」
「いえ……」
情報がねぇな……。
まぁ、この子を仲間にしてやるから魔王倒せって話なんだろうけど。
チラっと見た魔法の杖。先端に赤くて丸い大きな宝石が付いている。
日本……というよりこの世界にいるかどうかわからない赤い瞳。
俺の頭の中にある良からぬ思考。それを伝えてみる事にした。
「あの……さ、魔女なんですよね?」
「は、はい……」
「魔法とかって見せてもらえたりとか……」
「へっ!?」
「ああ、いや……ちょっと興味というか、見てみたいなー……なんて……」
「は、はい!それじゃあ……それじゃあ………えっと……」
「あ、簡単なので大丈夫ですよ?魔法自体こっちの世界だと」
「あ、あれ‼」
魔女は窓の向こうを指差した。
「……ん?向こう?」
「あ、あの山……」
「山……加具利山?」
「あの山……け、消して見せます……‼」
「興味なくなったわ」
「できます!」
「やらないで。1回座って」
「魔法……女神様に直に魔法を習って……習ったので……絶対にできます!」
「できるのかもしれないけど、やめろって」
「ほ、本当に習って……女神様に魔法を習って……」
「物の考え方が馬鹿のソレだからその話は信じるよ。ただ山は消したらいかん。」
「わた私を! 旅に……魔女として旅に連れてって下さい‼」
「旅には行かないんだけど……」
「……え?」
魔女は急に俯くと、僅かな嗚咽を漏らし始めた。
こういうパターンもあるのか。まさかこんな素頓狂な旅に志願してくる奴がいるとは。あれか、山を消そうとしたのは自己PRのつもりだったのか……。
「いや……まぁ、旅には出ないけどさ。山とか消せるんだし、もっとこう……なんだろ、もっと凄い事できるんじゃない?」
「嫌です‼ 私……勇者……勇者と旅で……魔王を倒したりしたくて魔女になったんです……」
「なんでそんな……限定的な目標を……」
「世界が平和になった数年後に再び暴れ出した魔王をなんとかする為に前回の旅の勇者がよばれるけどその隣には冒険を共にした魔女がいたって感じのやつになりたいんです」
「……はい?」
「世界が平和になった数年後に再び暴れ出した魔王をなんとかする為に前回の旅の勇者がよばれるけどその隣には冒険を共にした魔女がいたって感じのやつになりたいんです。」
「…………」
「世界が平和になった数年後に再び暴れ出した魔王を」
「わかったわかった、それはわかったよ。なんか……色々言いたいことはあるけど。……とりあえず勝手に何かの続編に巻き込むなよ」
「でも……い、今のままだと魔王倒したら終わっちゃう……」
「終わっちゃうってか……そもそも始めたくないんだよ、俺は。それにな、その話だとその勇者ってのは俺だぞ?」
「……はい……」
「隣にいるって、文字通り隣にいるって訳じゃないんだろ?」
「ラストで子供が産まれる感じがいいです……」
「その結婚相手は俺だぞ?嫌じゃない?」
「……なんとか受け入れます……」
「お前、ちゃんと女神の弟子だわ」
「へ……?」
と、台所に異界の扉が現れた。
そこから元気よく飛び出してくる女神。
「お待たせ!」
「お待たせじゃねえよ。知らない人を放置してどっか行くなよ。俺の家だぞ、ここ」
「ごめん、予約の事忘れてたの」
「それこの子にも聞いたけど、なんの予約なの?」
「…………」
「……は?」
「……この子、私の五番弟子のレカ!」
「説明しろ、何してた?」
「…………」
「ろくでもない事してたんだな?」
「……内見の予約……」
「は?引っ越すの?」
「……あなたの……家……」
「はあ?」
「……私とあなたの家……」
その時、黙ってやり取りを見ていたレカがテーブルに脛の辺りを思いっきりぶつけながら勢いよく立ち上がった。大丈夫だろうか。
「…………」
「え? レカ?」
「…………」
レカさんは、そのままゆっくり座った。
まぁ、言えそうな性格ではないよな。でもなぁ、俺が代わりに言ったら絶対に面倒なことになるしな。
「レカ? 大丈夫?」
「……わた……私……六番弟子……それに……あの……勇者と……勇者と暮らすの……私……」
「え?」
おお、言いよった。
「た、旅に出るのは……私と勇者とテレシアなんですから……勇者は……私のです……」
「テレシアちゃんはマジでやめてやれ、可哀想だから」
女神は、ポカンとしたまま言った。
「え……私も行くけど……」
「は?なんで?」
「私も行く‼」
「いやいいよ来なくて。ってか俺が旅に出る事が前提だけど、行かないからな」
無言で顔を見合わせる奇人と奇神。
なぜ俺が「この人何言ってるの?」感を出されなければいけないのか。
「あ、ああの……なりたくん……旅、行こ?」
「嫌です」
「でも……」
「なぁレカさん、多分だけど女神に騙されてるぞ。魔王とかなんとか言ってるけど平和なんだろ?」
「え?」
「その冒険だの旅だのっていうのも俺を引っ張り込むための嘘だぞ」
「は、話と違う……」
「だろ?だから旅は」
「な、なりたさんは魔王ルートを信じ込んでるから……かか可愛い女の子たちで誘えば絶対に……来るって……」
……ほう。
確かに気にはなってたんだよな。女神が連れてくるのは毎回若い女の子で男は無し。過酷な旅のはずなのに男手は俺だけでいいのか? と。
なるほど、こういう事か。つまり俺はナメられている。
「ちょっとレカ!」
今更狼狽えたところでもう遅い。
「女神」
「…………」
「こうなったらもう、意地でも行かないからな」
溢れんばかりの笑顔を作って女神は小首を傾げて言った。
「……ご、ごめんね?」
「笑って誤魔化すな!」
「はいごめんなさい……」
「人に迷惑をかけるな。巻き込むな。連れ込むな」
「……で、でも……」
「でもじゃない。とりあえず魔王設定……魔王ルートだっけ?それと関係ない人を巻き込むのはやめろって」
「あと一人だけ連れてきちゃダメ?」
「誰を連れてくるんだよ……」
「それは秘密」
「軽はずみに俺の部屋に異世界を氾濫させるのはそれで最後にしろよ!?ただでさえ俺が女を連れ込んでるみたいな噂が近所に流れてるんだから!」
「なりた、怒らないで。次はちゃんと期待通りの人を連れてきてあげるから!」
「最初から一切なにも期待してない」
「ふん!後でやっぱり私の世界に行きたいって言っても入れてあげないから!」
「……やっぱり行こっかな、異世界」
「っ!?行きましょう、新たな世界へ!」
「入れねえんじゃなかったのかよ、頭おかしいのかお前」
「……バーカ‼」
女神はおよそ大人とは思えない逆ギレを弟子に見せつける形で異世界へ帰り、異界への扉も消えていった。
まぁ、いつもの女神だったな。
なんて事を思いながら振り返ると俺をレカさんが座って俺を見上げている。
「……え、レカさん?」
「あ……すみません……」
「いやいやいや、すみませんとかじゃ……。扉消えたけど……」
「き、消えましたね」
「魔法とかで帰れるの?」
「流石に……世界間の移動は女神様にしか……」
こんな忘れ物ねえよ……。
これ……これ、どうしたら……。
「……どう……する……?」
「…………」
「……嫌じゃなきゃ……泊まる……?」
「すすみません……なんか……ご迷惑おかけします……」
「よかったら布団使って、俺は畳でごろ寝でいいから」
「あ、大丈夫です……」
まぁ、合ったばかりの異性の布団は嫌だよな。
理由は分かる。分かるんだが傷付くな……。
これが女神だったら引っ叩いてる。
「……夜更かしするか。漫画とか好きなの?」
その後、漫画の話から始まってストーリー展開の話やキャラ設定の話まで、気付けば語り合っていた。
そして、早朝に二人揃って女神に起こされ、畳の上で目を覚ますのだった。




