day15 魔王
バイトを終えて、家路の途中にあるスーパーで買い物をして丁度我が家が見え始める辺りに到達した時だった。
「……おい……今度はなんだよ……」
我が家の上空に、我が家の上空だけに渦巻く黒い雲の塊がある。
近付けば近付くほどにハッキリわかる。
ものの見事に我が家のアパートの上空だけがめっちゃファンタジー。
「ただいまー。なんか……空がすげぇんだけど……」
「あ、おかえり! ほら見て! 魔王!」
勝手に淹れた我が家のお茶を飲む女神の隣に座る知らない女性は軽く会釈してお茶を飲んでいる。
真っ黒な髪に赤い瞳。そして頭に生えた深い焦茶色の角。
右の角だけかなり小さいし丸みを帯びてる。
服装は……部屋着か、これ。
柔らかそうなホットパンツに伸びてよれたTシャツ、首には金の装飾の付いた白い鎧のようなチョーカーを着けている。
いや、よく見ると首だけじゃないな。
腕とか上半身にも同じようなデザインの鎧を身に着けているっぽい。
その上からTシャツを着てるのか……
そして……デカい……
身長は185か6くらいありそうだな。
「魔王。……え、何、魔王連れて来ちゃったの?」
「…………この世界を、滅ぼす」
「ん? こっちを滅ぼすの? こいつの世界じゃなくて?」
「この世界ってあの……私……我の方の世界を」
「ああ、そういう事か」
これ、やってんな。
仕事終わりの夜中みたいな格好して……どんな頼まれ方したんだこの人……
「さぁ、どうするの? いよいよ魔王が宣戦布告しに来たわよ!」
「君さ、嫌ならちゃんと断った方がいいよ。その角とか、神殿の泉で洗うと消えるって言われてるんだろうけど多分消えないと思うよ」
「え? 消え……え? 角……消せるの?」
「どうだろう。君と同じ感じで狐にされた子はいまだに二割くらい狐だけど」
「あ、魔王は違うわよ? 本当に魔王よ?」
「え?」
「あ、ごめん。私、種族的には神。魔王やってる」
「えー……」
「テレシアちゃん、元は人間だったの?」
「うん……まぁ一応今も人間だけど」
「それで、さっきの話って……」
「元から生えてるなら無理じゃないかな」
「ダメか……」
「消したいの? それってなんか権威とか力の象徴だったりしないの?」
「角生えてるヤツなんて把握しきれない程いるし、元々魔王だから今更権威とか力とかアピールする必要ないし」
「……うん……」
「横向いて寝られないから邪魔なのよこれ。なまじ角が小さかった子供の頃に自由に寝られてただけに余計に辛いのよ」
「切ったらダメなの?」
「神経通ってる」
「おお……」
「ちょっと!!!!!!」
女神が吠えた。
なんとなく面白くなさそうな顔してたからそろそろくるだろうな、とは思っていた。
「うるせぇなぁ。アパートなんだぞ、ここ」
「なんなのその感じ! 魔王が来てるのよ⁉」
「お前が連れて来たんだろ」
「え? 魔王が攻めてきて……」
「お茶まで出しといて敵意もへったくれもねぇだろ」
「へったくれってなあに?」
「シバくぞお前!」
魔王は女神と主人公の言い争いを眺めていたが、やがて腕時計に目をやると申し訳なさそうに口を開いた。
「ねぇねぇ」
「ん?」
「帰っていい? 明日釣りに行くから8時には寝たいんだけど」
「夜釣?」
「うん」
「ああ、じゃあ……なんかごめんね?」
「あ、そうだ、アタックナイス」
「あの釣具屋の?」
「うん。お金渡すからハイマリン製のヘチキング270って釣竿買ってきてくれない? 赤いやつ」
「ダメよ!」
「いいけど……俺、釣りは詳しくないから間違ったらごめんな?」
「ダメ‼ ちょっとオルフレヴネ! ルール違反よ!」
そんな名前だったのか……
揉め始めた二人を放置してスマホで釣竿を検索すると、確かにあった。
端っこの方にイルカの尻尾みたいなのが付いてる。
釣竿にも色々あるんだなぁ。
「13800円だって」
「ダメよ‼ こっちのもの意図的に持って帰るのは禁止されてるの‼」
「あ……ねぇ、古いお札って使える? 一枚夏目漱石でもいい?」
「これ、どうする? また取りにくる? それかテレシアちゃんに預けとくとか?」
「世界間干渉規制条例違反よ‼」
「あ、受け取りにくる。テレシアちゃんのお家、多分城下にあるからちょっと遠いと思う」
「三日後にアタックナイスの近くに行くからその時についでに買うわ。夕方頃には家に着いてるかな」
「世界間違法取引規制条例違反よ‼ 違反したら罰金」
「お前も金だの飯だの持ってきてるだろ!!!」
「…………」
後日、釣り竿を受け取りに来た魔王がお礼に回復薬をくれた。
というより、お礼は何がいいかと聞かれたからこれにした。
本物の回復薬。
ゲームのグッズでも剣とか盾といった物より、こういった小物の方がなんかよかったりする。
……ちょっと舐めてみたがかなり甘かった。




