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女神がきたりて  作者: 阿能比等
第二章
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day16 焦った日

 ここ数日、俺は一人だ。

 俺は一人暮らしの男なんだから当たり前。


 ……数日前から女神が来ないんだよな。

 約束してる訳じゃないから来ない日もあるのは分かってるけど、ここまで何日も姿を見せなかったのは初めてだな。


 ……何かあったのかな。

 …………嘘だよな、魔王の話って。

 この前の魔王って本物の魔王だよな? 女神が仕立てただけの一般人とかじゃないよな?


 最後に来たのは四日前か。あと三日で一週間。


 …………静かでいいや。

 静かな自宅で何をするでもなく、のんびりと過ごす。

 腹が減ったら適当な物を食べて、眠くなったら寝る。

 他でもない俺の日常だったんだよな。


 もうそろそろ夕方か。

 買い物行かねえと。でも、外出中に女神が顏出しに来たらどうするか。

 いや、いやいやいや、いいだろ別に。

 どうせ部屋で勝手に寛いで待ってるに決まってるし。俺がいなかったから帰るなんて事はなかった。


 ダラダラと準備を済ませ、スマホに無駄な時間を奪われてから外に出ると既に月が輝いていた。


 普段は使わない一番近くの小さなスーパーで弁当やパン、お菓子を雑に買って足早に帰路へ。

 急いでる訳じゃないけど、なんだろうな。気になるというか。

 俺がいない間に来てる事が多いんだよな、あいつ。


 だが、そんな過去の経験も、今回は関係ないらしい。

 じんわりと近づいてくるアパート、その二階の俺の部屋は暗かった。


 ただいま、と言いかけたのを飲み込み、自分で灯りを点けると見慣れた誰もいない部屋が出迎えるのだった。

 スマホを見ながら弁当を食べ初めて、少ししてから弁当を温めてない事に気付き、そのまま食べ終わる。

 

 特にやる事もないし、寝るか。

 素直に眠りにつけるのもなんだか久しぶりな気がするな。

 

 明日で五日目か……。

 ………………

 ……………………

 …………………………


「なりた? 寝ちゃった?」


「あびっくりした……なんだお前……」


 飛び起きた俺の目に映ったのはいつもの女神だった。

 こんな寝しなに……


「もう寝る?」


「……いや、ダレてただけだよ」


「なりたにしては早寝だからおかしいと思った。ちゃんと夕飯は食べた?」


「親じゃねえんだからお前。……何しにきたの?」


「……なりた、怒ってる?」


 怒ってる、とはちょっと違った。

 なんて事ないような普段通りの女神になんかもやもやする。

 別に女神が何か悪い事したとかじゃないんだけどな。


「別に怒ってはねえけど」


「あ、もしかしてここ何日かこっちに来なかった事が気になる?」


「……まぁ、気にはなるかな」


「月に一度の世界の調整の日で忙しかったの。今月のはちょっと長引いちゃって。ごめんね?」


「いやいいよ、別に。怒ってねえし。」


 一応、そんな女神らしい事もするんだな。

 勝手に女神が暇だって思ってたのは俺の方か。


「……。ねぇなりた、せっかく横になってたんだからこのまま寝ましょう?」


 そう提案する女神はゆっくりと異界への扉へと向かった。


「……帰んの?」


「え? ふふっ、ちょっと待ってて」


 ものの数分で大きな枕を抱えて戻ってきた女神は、俺に枕を見せつけてから俺の隣に座った。

 俺の枕の隣に自らの枕を並べて横になった女神は、構って貰うのを待つ大型犬のように俺を見つめている。

 まだ寝るつもりはなかったんだけどな……どうせやる事も無いからいいか。

 

 押し入れにしまってあった毛布を女神の上に放り投げてから柄にもない早寝に挑戦してみる事にした。


「あ、忙しくないの?」


「ええ。……ねぇ、本当に泊まっていいの?」


「…………」


 一々訊くなよ……ダメなら毛布なんか渡さねえって。

 なんか追い返すタイミング逃したっていうか、そういう流れでもないって言うか。

 

「……ふふ……」


「お前、嫌じゃない?」


「何が?」


「こんなのの隣で寝るの」


「今更なに言ってるの?」


「なんだ今更って」


「なりたが起きるのが遅いから気付いてないだけで、よく一緒に寝てるのよ?」


「……は?」


「夜中に覗くと寝てるから……」


「なんなんだそのステルススキルは! やってる事がやべえストーカーじゃねえかよ!」


「昨日だって寝ながら私の手首の辺りをずっと揉んでたのよ?」


「……昨日? ここで寝てたの?」


「赤ちゃんみたいで可愛かったわよ?」


 どうりで女神だけ何事も無かったかのように振舞ってる訳だ。

 なんか振り回されてるみたいで腹立ってきたな。

 

「来てたなら何か言えよ」


「だって寝てたから……」


「心配して損したわ」


「……心配してたの?」


「寝ろ!」


「待って、心配してたの? 私が何日かこっちに」


「寝ろ! うるせえうるせえ寝ろ!」

 

「怒らないで? 私の事、心配してくれてたんでしょ?」


「変なとこばっか拾ってんじゃねえよ!あのな、お前が」


「なりた、落ち着いて」

 

 言い終わる前に、女神の両手が俺の頭を優しく掴み、そのまま俺の顔を引き寄せ、胸に埋めた。

 

 締めに両腕でそっと俺の頭をホールド。


「…………離して」


「うん。大丈夫?」


「…………うん……」


 嬉しかったとかじゃなく、心が折れた気がする。

 いや、折れたんだろうな。すっげぇ惨めな気分になったもん。

 俺にこの女神ハラスメントを対処するのは無理だ。

 


「心配しないで? あなたが私の世界に来るまで諦めたりしないから」


「……うん……寝よ」


「ええ。ちゃんと早起きしましょうね?」


「それは……約束できねぇけど……」


 俺、弱いのかな……

 弱いからなんとなく女神に負ける事が多いのかな……

 まぁ……メンタル面は強くはないよな。

 …………早めに忘れよ。

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