fox day テレシア・フォックスバレー
暇な日、女神からの葡萄酒の贈り物を届けに来たテレシアちゃんを引き止めてのティータイム。
話を聞けば今日はお姉さんの体調が良いらしい。
「……テレシアちゃんってさ、名前なんていうの?」
「え、テレシア……」
「ああ、フルで」
「テレシア・フォックスバレーです」
「…………」
「……えっ……」
「……ふざけたんだよな?」
「へ? あの……本名です……」
「……うん……あのさ、女神と知り合ったのっていつ?」
「えーっと、女神様は私が産まれた時に会ったと言ってましたが、私の覚えてる限りでは七年前でしょうか」
テレシアちゃんが女神に選ばれた理由って……
いや、流石に女神と言えどもそんな短絡的な理由じゃないよな。
まさか、な。…………違うよな?
「すっげぇ……なんか……変な事聞いていい?」
「は、はあ……」
「女神になんて言われて協力したの?」
単純に気になるんだよな、テレシアちゃんが女神のしょうもない悪巧みに乗るとも思えないし。だからと言って何も知らずに協力してる風でもないし。
それに、随分長い事女神や俺に付き合ってる。女神に巻き込まれてるのが大半なんだけど、それでも仲良くしてくれてるのがこの子の性格なのか、何か理由があるのかも気になる。
「…………えっと……」
言い淀んだな。こりゃあ、ろくでもない理由だな。
「大丈夫、ここだけの話にするから」
「いえ……あの……」
「テレシアちゃん」
「……その……」
「分かった。話を聞いたら、へーって返事して終わりにするわ」
「なりたさんみたいなタイプの人は……あの……女神様が言ってたんですよ? ……私みたいな女の子なら……なんといいますか……その、簡単に……なんと言いましょうか……仲良くなりたがるというか、興味を抑えきれなくなるというか……」
「鼻の下を伸ばす?」
「……と言うよりは……素直になる、と……」
思ってた以上に下らねえ理由だったな。それに乗ったのかよテレシアちゃんよぉ……
「よしわかった。その作戦に乗ったんだな?」
「え、話と違」
「乗ったんだな?」
「……は、はい……」
「報酬なんだった?」
「報酬ですか?」
「タダで協力したの?」
「私、旅をしてみたかったんです。村を離れて、色んな場所を見て回りながら各地に咲く花の写真を撮りたいんです」
「……なんかいいな、それ」
「本当は花壇を作って育てたいんですけど、ちょっと難しくて…………花畑みたいなアルバムを作ってみたいんです」
「もしかして、俺の旅のお供になるって話は女神が勝手に決めた訳じゃないの?」
「私の夢を知っていた女神様が提案して下さったんです」
知らぬ間に、誰かの純粋な夢を背負っていたらしい。
重てぇよ。勝手に背負わせていいもんじゃない。テレシアちゃんは期待して待ってるって事だろ? 可哀想に。
「その旅って他の誰かとじゃダメなの? 俺は戦えねえし、そっちの世界の知識もねえからさ。危ないだろ、俺と一緒じゃあ」
「危険はないです。女神様も一緒だという話だったので。実は……」
「今更そんな気にしなくて大丈夫だよ」
「女神様が一緒、という部分が……その……今ではなりたさんと一緒に行けたらって思ってます。でも……」
「…………」
「女神様と一緒なら、カベルでいつでも村に戻れるのが一番の理由なんです」
「ああ、お姉さんか」
「女神様、私の夢を叶える方法が見つかったって私より喜んでました」
女神はそうだろうな、そういう性格だし。
花壇か、流石に俺がなんとかするのは無理だろうな。アパートだし、そもそも個人の庭がない。
誰かの人生にと自分の人生を同時に進めるってどんな気持ちなんだろうな。この子はそれを悲観したりするような弱い子じゃない。お姉さんの事も多分使命感というか……悪い感情は無い筈。
ただ、自分の夢さえ他人の動向に左右されるのは残酷な気がする。それが分からない女神じゃないと思うんだけど……
「なぁ、それってちょっとした旅行みたいに行くんじゃダメなの? 空いた時間とかにあの扉でさ」
「え?……あー……恐らくできると思います」
「俺から女神に頼んでみるよ」
「……ありがとうございます…………あ……でも私、旅もしてみたいんです。なんというか、皆で旅をしてみたいというか……」
「そっ……か」
都合よく責任から逃げようとして失敗する俺。
そうだよな、味気ないよな……扉くぐって花見て帰るって。子供の遠足だって道中も楽しいってのに何考えてたんだろうな、俺は……
よし、もし俺が異世界に行って何かしらの旅に出る事になったら、できる限り安全で楽しい旅にするか。お姉さんも安心して待ってられるような長い散歩のような旅にしよう。
……行かぬ異世界の旅計画……だな……
「ダメですよ?」
「え?」
「私たちの事は考えちゃダメですよ? なりたさんの思うようにしないと」
……情けねえな……本当に……




