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女神がきたりて  作者: 阿能比等
第一章
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day5 誘惑

挿絵(By みてみん)


「うっわ……また限定キャラ必須かよ……ないわー」


 横になり、スマホの画面を睨みながら呟く。

 このソシャゲのイベント、課金しないと到底勝てない設定になっている。

 無課金でも勝てない事はないらしいが、そんなのはゲームに一日を費やせるような人か金持ちに限った話。

 仮に百億円持ってたとしても課金はしないけどな。


「ねぇ」


「ん?」


 視線をスマホから外すと、女神がいつの間にか俺の隣に座っていた。

 いつ来たんだ、この女は……くらいの感想しかもう抱かなくなった。


「私、彼氏にするなら人間の男がいいの」


「だったらこんな所にいないで人間の男探せよ、お前の世界の」


「私の世界の人間は私を神聖な存在として見てるから……」


「よかったじゃん」


「寂しいの……あなたくらいよ? 私と普通に接してくれるの」


「よく今までのを普通と言えるよね」


 女神が横になっている俺の目線に合わせるように伏せて、上目遣いでこちらを見ている。

 わざとらしいし、睨まれてるようにしか感じない。


 今回はまたベタな手段できたな。テンプレ過ぎて逆に新鮮だけど、色仕掛けもここまで露骨だとアホにしか見えねえな。


「でも……」


「…………」


 ちょっと面白くはあるけど鬱陶しいな。


「……でもぉ……」


「うわアタッカー落ちた最悪だ」


「でも……ね……」


「聞き返さねえよ」


「でも……世界を救うまでは色恋とかに現を抜かしてる暇はないし……」


「だったら他あたれよ。効率悪い事してるからな、お前」


「私を彼女に」


「しない」


「女神よ?」


「余計に嫌だよ。人がいいわ」


「神殿持ってるのよ?」


「だからなんだよ、俺は人間なんだから神殿いらねぇよ」


「おっぱいIカップなのよ?」


「巨乳はお前以外にもいる」


 なんなんだこの一問一答。


「お金出せるのよ?」


「…………ちょっと出してみて」


 お金か、それは流石に興味がある。

 女神が空中に手をかざすと、そこに現れた淡い光の中から一枚の千円札がヒラヒラと畳に落ちた。

 千円札を手に取ると、手触りは間違いなく本物で透かしもある。おまけに折りたたまれた跡まである。


「どう? 女神の力よ!」


「……お前さ、こっちで暮らさない?」


「えー、どうしよっかなー? 別にいいんだけど、世界を救うまでは……ねぇ?」


「一万円札出したら考えるわ」


「考える? 考えるって?」


「そりゃあ……前向きに検討する」


「本当に⁉」


 嬉しそうに立ち上がる女神が再び空中に手をかざすと、先程と同じように淡い光の中から一万円札が二枚、畳に落ちた。


「おまえ、本当に女神なんだな! よし、じゃあ明日までに検討しとくわ、どうせ明日も」


「来る! ちゃんと準備しておいてね!」


 月末ともなると妙に懐かしく感じるこの一万円札。

 不思議だよな、こんな紙一枚で人生が大きく変わる。

 バイト代が入るまでまだ一週間あるけどこの二万円があれば……


 ……ん?

 何か違和感がある。

 二枚の一万円札を何度か見比べると……


「お前これ番号同じじゃねぇかよ! 偽札出してんじゃねぇよ!」


「へ?」


「ほら、札の番号!」


「え? ちゃんと同じでしょ? この世界の物をそのまま写しとったから本物と同じよ?」


 首を傾げる女神は堂々と貨幣偽造宣言をしやがった。


「同じ番号の札があったらダメなんだよ!」


「……バレないわよ、そんなちっちゃい数字」


「日本の貨幣のシステムそこまで劣ってねぇよ!」


「…………私の世界のお金ならバ」


「帰れこの野郎!」


 女神は立ち上がり、光の扉を作ると珍しく素直に帰る素振りを見せた。


「……私、ね……本当にあなたとなら付き合ってあげてもいいと思ってたの‼」


 そう言い残すと女神は扉の中に飛び込み、消えていった。

 恐らく追いかけてくれると思っているのだろう。


 浅知恵である。

 

 ……精巧な作りだ、番号さえ違えば使えたかもしれない。


「……一枚だけならバレないかな……いや、やめとこ」


 犯罪はよくない。

 

 一向に消えない異界への扉に偽札を放り込むと、俺はゲームを再開した。

 異界への扉は一時間程存在し続けていたが、燃えないゴミや古雑誌、空き缶を入れてたら扉は突然消えた。

 諦めたのだろう。

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