brand new day
真っ白な石造りの大きな城。
模様や人物などの彫られた八角形の巨大な白い城壁。それに囲まれた、四角い部屋をいくつも積み重ねたような巨大な建築物。
日本の大規模な城とそう変わらないくらいの大きさだ。
その中に、俺はいる。
女神と一緒に。
「…………ん? この元世証明者っていうのは……」
城に入ってすぐの広い部屋、ズラリと並ぶカウンターの一つで大量の申請書類と対峙している俺。
素朴なパンツスタイルのフォーマルな服を着たフィーメさんのサポートを受けながら。
……思ってた城の中と違うけど、まぁ……いいか。
「あ、それは……あ、今回は一応、死後の転生という扱いになりますので空白で大丈夫です」
書類が多い。
今は転生者登録なる物の申請書を書いているが、ここに至るまでに十枚以上の書類を書いている。
「属性……属性⁉ 女神、俺の属性って何?」
「え? 分からないけど……」
「お前に分からないなら……俺にも分からねぇけど……フィーメさん?」
「あー……ですと、先に38階18番カウンターで属性診断を受けて貰って……こちらの書類は保管しておきますので」
「まーたこのパターンかよー」
実は、ど頭からこのパターンだった……
移住登録の申請から始めて、もうすぐ書き終わるという所で、元の住所がないから先に転生証明書を作りに行かされた。
この城には階段やエレベーターはない。部屋の壁面に並ぶ扉の横のダイヤルを回し、行きたい部屋のある階に数字を合わせて扉を開くと、行きたい階に行ける。
18番カウンター……お、並んでない!
「女神、属性診断って何すんの?」
「……シャロム」
「……ん?」
「シャロムって呼んで。なりた、ずーっと私の事を女神女神って」
それは……悪かったけど……
「今のタイミングで合ってるか、その指摘……」
「今度、私の事を女神って呼んだら、私もなりたの事をゾンビって呼ぶから!」
「ゾンビじゃねーよー‼」
「ちょっとした魔力検査をするだけよ」
「俺、魔力あるの?」
「…………」
「無い可能性も……ある……?」
「とりあえず受けてみましょう?」
受け付けを済ませて、誘導された無機質な真っ白い部屋には小さな机が中央に1つだけ。
そして、黒髪ショートボブの小柄な女性職員さんが、ちょっと遅れて入ってきた。
「それでは、魔力及び素属性正式診断を始めます」
「あ、はい」
「まずはこれを。手の平にこの種を乗せてください」
受け取ったのは、大豆くらいの大きさの黒い種。
言われるままに手の平に乗せる。
すると――
「え……おっ! お!? あ、あの……」
瞬く間に発芽して蔓のある植物へと成長し、白い花を咲かせた。
それを見て少し顔をしかめる職員さんは、花や蔓を確認している。
「……これ……は……」
「え、なんですか?」
「属性……というより聖なる力……ですね」
「え?」
「……あのー……ちょっとアレな質問なんですが……その……女神様と口付けとかは……」
「いや、してない筈です」
「……うーん……」
「聖なる力属性?」
「これは女神様の影響でその身に宿った力でして、操れるものではないので属性とは……」
「持ってるだけって事?」
「はい……」
「持ち腐れ?」
「……まぁ……持っているだけ……ですかね」
「…………」
「…………」
属性診断を終えてフロアに戻ると、どこかから持ってきた紅茶を飲みながら、退屈そうにしてるシャロムが待っていた。
「シャロム」
「あら、何属性だった?」
「うっすい冥属性。なぁお前、俺にキスしてないよな?」
「え? したけど」
「は?」
「だって……寝てたから……」
「…………」
俺の初めてのキスは闇討ちかよ。
「でも、毎回ではなかったわよ?」
「…………」
「……テ、テレシアちゃんもしてたもん!」
「秘密にしといてやれそういう事は‼」
ただでさえ疲れる作業だってのに、精神的な疲労まで重ねてきやがって……
まぁいいや、シャロムのこういうのに一々構ってるとキリがない。
属性診断は終わったけど、本当にこれで最後だろうな。
先程の部屋に戻ってフィーメさんに属性診断書を渡すと、やはりというかなんというか……
「あ……すみません、あの……」
「……今度はなあに?」
「……すみません、属性診断証明書を……こちらが申請書類になります」
「もう不法移民でいいぞ」
「いえ……そういう訳には……」
結局、朝一に入ったこの城を出たのは夕方だった。
書類を書いてた時間が三割、待ち時間が七割って感じだったな。
因みに……
「明日で本当に終わるか? これ」
まだ終わってない。
「転生者は大変だから……。ねぇなりた、この後はどうする?」
「どうするって言われてもなあ。そういや、家とかどうすりゃいいの? 昨日はそのまま神殿に泊まったけど」
「神殿の隣に屋敷があったでしょう?」
「屋敷? ああ、なんかあったな、ホテルみたいなの」
「あれね、私となりたの屋敷!」
「あれが? ああ、なんか前にメギが言ってたな」
「ええ。大変だったのよ? 皆で色々な案を出して魔法で造ったの」
「やり過ぎってか、あんなデカいのいら……持て余すよ」
「そう? 九人で住むから大丈夫だと思うけど」
「ならいいけど。……ん? 九人?」
「あ、オルフレヴネの部屋もある!」
「ちょっと待てよ、誰と同居すんの?」
「私と、フィーメとテレシアちゃんやマリアさん、レカとメギ。あ、あとトーラ!」
「……あれ、八人だぞ?」
「サキさんは住むのとはちょっと違うから……」
「新築の事故物件かよ……」
……ま、いっか。
元々、異界への扉から自由に入ってきてたし。
それにしても…………異世界だなぁ。
明らかに人間じゃない種族や、でっかい猫、翼のある人まで様々な人が行き交っている。
広場の中央にある台座には剣が刺さっており、その前には持ち出し禁止と書かれた割と新しい看板が立っている。
空を見上げれば、明るい空に図鑑の拡大図で見たような星がいくつも見える。
どこを見ても異世界。
本当に異世界。
「あ、忘れてた! はい、これ」
シャロムが差し出したのは皮製の巾着のような袋だった。
中身は……なんだろ、薄く色のある透明なコイン。
手触りは金属だな。
よく見ると数字が刻印してある。円形以外にも、ちょっと大きめな六角形、星形、縁に金色の金属が付いてる物もある。
「……これ、もしかしてお金?」
「さっき、なりたが属性診断に行ってる間に申請しておいたの。転生者支援金よ」
「メニアだっけ? 凄いな……何でできてんの?」
「透明な金属。全部で19万9550メニアあるわ」
「……文句って訳じゃないけど……なんか中途半端な額だな……」
「…………」
「……お前さ、さっき紅茶飲んでなかった?」
「……。さ、帰りましょう! 屋敷でテレシアちゃん達が転生祝いのサプライズパーティーを準備してるの!」
……聞かなかった事にしよ、テレシアちゃん達が可哀想だから。
「……シャロムはこの街から離れても大丈夫なの?」
「へ?」
「ちょっとした旅行とかさ、遠出みたいな」
「勿論!」
「…………」
「なりた? どうしたの?」
「いや……色々見て周りてぇな、って」
「冒険⁉」
「ちょっとした旅かな」
「いいわね! 皆で準備してこの世界を見て周りましょう!」
「……うん。……でもフィーメさんとか忙しいだろうし、テレシアちゃんも無理に連れ出す訳には行かないからさぁ」
「諦めちゃうの?」
「諦めるってか……なんか……」
「?」
「……いいや、後で考えよう」
「二人で行く?」
「……まぁ……いいよ、とりあえず帰ろう」
「ふふっ。ええ、帰りましょう」
あの扉を出そうとする女神を止めて、徐々に大きくなっていく神殿と屋敷を眺めながら新たな家路を歩いた。
元の世界でもこんな事が何回もあったな。
変わらなくていい部分は変えなくていいか。
今、俺は新しい毎日を歩んでる。それだけで立派なもんだよな?




