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女神がきたりて  作者: 阿能比等
最終章
37/38

day 33 占い

挿絵(By みてみん)


「占い師ですか?」


 今日は恐らく占い師だ。

 コンビニから帰ると、胸元の大胆に開いた黒いドレスの上から薄紫色のローブを羽織った女性が家にいた。

 

 深く被ったフードから伸びる、長く真っ直ぐな黒髪。そして目以外を隠す黒いフェイスベール。

 テーブルの上には、紫色をした手のひらサイズの座布団のような物と、それに乗せられた水晶玉が鎮座している。


 これでこの人が占い師じゃなかったら、そこに出しっぱなしにしてある扉に飛び込んで、異世界に行ってやるよ……


 

「私、オルザラッハ流占術の占い師、トーラでぇす! 占星、手相、オーラ、風水なら、なんでも相談して下さいねっ!」


「あ、なりたです」


 ほら、占い師だった。

 なんだろう、喋り方に決まりなんてないけど、この人の発する低めの芯のある声と実際の喋り方が合わない。

 

「あ、えーっとぉ、女神様は?」


「え? 一緒に来たんじゃ……?」


「ちょっと待ってて、って言い残して戻っていったんですけどぉ……」


「はあ。じゃあ……お茶でいいですか? 多分ですけど、しばらく帰って来ないんで」


 トーラと名乗る占い師はお茶を受け取ると、躊躇うことなくフェイスベールを外してローブを脱いだ。


「ぬ、妾の事はお気遣いなく」


「……顔、いいんですか?」


「よい。こんな物、今時踊り子でも着けぬわ」


「……まぁ、そう……なんですかね」


「大体、占い師がこんな物を着ける意味が分からぬだろう。顔など晒しても占いはできるわ」


「なんか……あれですね。オフの方が雰囲気が合致するというか……」


「素だが? この感じで育ったこういう喋り方の人だが?」


「すんません……なんか……。でも、素の方が占い師っぽいですよ?」


「売れぬのよ、今のトレンドだと。今は元気な感じのフレンドリーな占い師がトレンドよ」


 ……世知辛ぇな。

 ぶっちゃけ、タレントに片足突っ込んでるような芸人崩れのビジネス占い師よりは、こういう渋い喋り方する占い師の方がまだ信じられる。


 ……読めた。

 トーラさんに俺を占わせて、俺は異世界に行った方が運が開けるとか、勇者になったら良いことがあるとか、そういう感じの事を言わせるつもりだな。

 とすると、トーラさんは既に女神と打ち合わせ済みか。


「トーラさん、ぶっちゃけた話、女神に何か言われてるでしょ?」


「な、なななな何を抜かすか!」


「俺が異世界に行った方がいい、みたいな事を言えって感じで口裏合わせてますよね?」


「ぬ? そのような話はしておらぬわ」


「え? マジ?」


「妾は、そなたと女神シャロムの相性と姓名診断を依頼されただけだ」


「……まぁいいや。それで、どうせ結果は決めてあるんでしょう?」


「そ、そんな……そんな事は……な、何を言うか‼ この痴れ者が‼」


「痴れ者は……ちょっと違うんじゃないか……」


「と、とにかく! 我の占いは例え女神シャロムの言葉であっても占いは結果が変わる事など私の占い師としてのプライドが許さん!」


「は? なんて?」


「……妾はプロの占い師だ」


 一人称が迷子になってる以外は何言ってるのか一切理解できなかったけど、反応を見るに結果は決めてあるんだな。

 じゃあ、やる事は1つだな。


「トーラさん、今までここに来た人達って、全員が女神の指示で動いてるんですよ」


「…………」 


「ちょっとさ、そろそろお仕置きしないと」


「女神シャロムに仕置きなど……さ、先に言っておく! 妾の占いに人を操る効果などないからな! 女神シャロムにやらしい事をさせようなどと思わぬ事だ!」


 誰もそんな事は言ってないけどな。


「単純にさ、女神と俺の相性は最悪って結果を出してくれません?」


「……ならぬ」


「ダメ?」


「……妾と、なもたとは」


「なりた、な」


「先ほど会ったばかりではないか……か、勘違いするでないぞ? 女神シャロムが認めた男だ、それは……悪い男ではないのだろう。ただ……」


「何の話してます?」


「ぬ?」


「いや、単純に女神にとって都合の悪い結果にして驚かせてやろうって話ですよ」


「まさか貴様……従わねば妾を押し倒」


「やっぱいいや。女神の言う通りにしろ」


「……これだけはハッキリさせたい。一目惚れか? それとも女神シャロムに妾の事を聞いて、か?」


「どっちでもないです」


「妾の為に、女神シャロムにそなたを諦めさせたいのであろう?」


 イカれてる。

 シンプルに話が噛み合わないのがまず怖い。俺が発した言葉に帰ってくるであろう、トーラさんの妄言が怖くて黙ってる事しかできねえ。


 これ、あれかな、この前の肉離れを笑った事に対する仕返しかな。だとしたら中々の威力を発揮してるぞ。

 

「あの、悪いんですけど女神を呼んできてもらえませんか?」


「それは……一人になりたいという事か? ……この服、齢25の男には刺激が強いか……」


「……うん……もうそれでいいよ……一刻も早く女神を呼んでくれ」


 いそいそと異世界へ戻っていくトーラさんは去り際に、妙に優しい視線をこちらに向けてきたが、その事については触れないようにしよう。

 

 占いか、ネットの無料のやつは何度かやった事はある。

 いい感じの事ばっかり書いてあるから一切信用できないんだよな、あれ。

 

 そんな訳ねえじゃん。

 

 いい事とか悪い事とかって、同じ事でも人によって感じ方が違うんだからさ。

 占い師から見たらいい事だったとしても、それは占い師の感じ方な訳だし。

 雨が降って外に出られないと気分が沈むか、読書日和だと喜ぶかはその人次第だろ。


 今、異世界から飛び出してきたこの女神は何があっても幸せそうだけど。


「なーりた!」


 続けて戻ってきたこの占い師も

 

「そーなた!」


ある意味では幸せそうだな、脳内だけは。


「今日は凄い人を連れてきたの!」


「お前の弟子の占い師だろ?」

 

「トーラは弟子じゃないわよ?」


「オルザラッハ流って言ってなかった?」


 再び水晶玉の前に座ったトーラさんは、フェイスベールを付け直して語った。


「オルザラッハ流とは、女神シャロムをイメージした妾のオリジナルの占術。女神シャロムは関係ない」


「そこまでして売れたいか」


「では、まずは女神シャロムとなりたの相性から占うとする。この水晶玉に集中せよ」


 水晶玉には上下が反転した自分が映っている。

 そういえば……


「この……水晶玉ってあれですか? なんかこう、水晶玉に何かが見えるとか、そういう感じですか?」


「うるさい、水晶玉に集中せよ」


 こんなので本当に占えるのかな。

 女神は俺の隣で真剣に水晶玉を見つめている。


「この水晶玉って、なんか魔法的な物で」


「集中せんか!」


 トーラさんは水晶玉に手をかざしてはいるものの、何かを唱えたりとかはしない。

 水晶玉も光ったりとかはせず、鎮座している。


「これ……住んでる世界とか種族とか違っても大丈」


「うるさいな! 水晶玉を見よ! なんだ占いの最中に!」


「あ、すんません……」

 

 どうせ女神と口裏合わせてる癖に占いそのものはちゃんとやるんだな。


「ぬ! 見えたぞ!」


「…………」


「見えたぞ?」


「……え、はあ……」


「なんだ、そなたは……。まぁよい。そなたと女神シャロムの相性は……不思議だ」


 ふわっとしてるなぁ……

 俺にとってはお前ら全員不思議だわ。


「不思議っていうのは……」


「妾もこんな結果を見るのは初めてだが、相性はとても良いと言える。だが、なぁ……」


「え、何?」


「よくわからん。女神シャロムがそなたを矢で射抜くのが見えた」


「は⁉」


 黙って聞いていた女神も流石に声を上げた。


「私がなりたを射抜くなんて、なりたが余程馬鹿な事をした時だけよ!」


 射抜く可能性は……あるんだな……


「落ち着くのだ。悪い結果ではない。相性としてはこの上なく良いぞ」


 相性はいい、という言葉に目を輝かせる女神の頭には先程の話は既に頭に無いらしい。

 

 お前、俺を射抜く事に関しては何も感じないのか……


「ねぇトーラ、この先の私となりたについても占える?」


「勿論ですとも。…………」


 当たってるかどうかは別として、ちょっと気になるな。


 水晶玉を見つめ続けていたトーラさんは顏を上げて、女神ではなく俺を見て言葉を続けた。


「そなた、頭が悪いのではないか?」


「てめぇこの野郎……」


「な、何をする⁉ この痴れ……や、やめぬか! あっ、女神シャロムの前でそんな大胆な……」


 


 

 





 俺に丸めた雑誌で数発引っ叩かれたトーラさんは占い師としての雰囲気を取り戻しながら続けた。


「そなたの頭にあまり良くない予兆が出ておるのだ」


「頭……まぁ、最近ちょっと片頭痛がする時はあるけど。でも生活に支障が出るって感じでもないぞ」


 頭か。こいつらの事で頭が痛くなる事を言ってるなら大当たりだ。

 横で聞いていた女神は何故か俺の頭を撫でながら「私の事は?」と呑気な事を言っている。

 ずっと気になってたんだけど、女神が人間に自分の事を占わせるってどういう事なんだよ……


「女神シャロムよ、心してお聞き下さい。この先、あなたは突如現れた悪しき者に命を狙われるだろう。だが、異界より現れた一人の男により救われる。その男は女神シャロムの生涯の伴侶となるだろう。……あっ、その男は女神シャロムの世界にて、生涯の伴侶となるだろう」


「まぁ! 本当に⁉」


「妾の占いに間違いはない!」


 ここでぶっ込んでくるか。

 しかも、やっと魔王設定を諦めたと思ったら悪しき者って。もういい加減、脚本家か何か雇えよ。


「お前ら最初から決めてたろ。よくそういう茶番を恥ずかし気もなくできるよな」


 よくわからない言い訳を垂れる女神をよそに、唐突に水晶玉が赤く点滅し始めた。


「え、ちょっ……なになになに⁉ 光ってるって!」


「ぬ、予約の時間か。妾はこれにて失礼する。料金は相性占いと姓名診断で5800メニアだ」


「姓名診断やってねえだろ」


 何も気にせず、後で払うという女神の言葉に納得して去っていくトーラさんは、フェイスベールを忘れていった。

 あんまり会いたくないから女神に持って帰らせるか。


「ねえ、なりた」


「……なあに?」


「相性いいって!」


「……。お前、弓矢撃てるの?」


「弓は使わないけど、矢は撃てるわよ?」


「なんだ弓は使わないって。投げるの?」


 答える代わりに、女神は手のひらを上に向けて差し出した。

 すると、眩い黄金の光が飴細工のように絡み合い、光り輝く一本の黄金の矢を作り上げた。

 女神の手のひらの上で浮く、細い金の筋が絡み合ってできた金の矢は、もはや工芸品か美術品にしか見えない。


「ほら!」


「これは……すごいな。本当に女神みたいだぞ、今のお前」


 女神が矢に軽く息を吹きかけると、矢は真っ直ぐ俺の頭に飛来して直撃した。


「本当に女神だもん! 大女神なんだから!」


「痛ってぇ‼ 痛ぇ‼ お前それはマジで危ねえって!」


 矢は俺の頭に直撃して、刺さる事なく畳に落ちて光となって消えた。


「大丈夫よ、私の意思がないと刺さらないから。それより私とあなたの相性はいいのよ?」


「八百長だろあんなの……」


「私の命を救うのはきっとなりたね!」


「自分でなんとかしろよ、大女神なんだから」


「もし、私に危機が迫ったら助けてくれる?」


「……まぁ、できる範囲でな」


 俺に人を……女神を助けるなんて事ができるかね。

 ……いざとなったら悪足掻きくらいはするだろうな。諦めたり見捨てたりとかできる程、メンタル強くないしな。

 

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