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女神がきたりて  作者: 阿能比等
最終章
36/38

day32 喧嘩

 昼だな。

 何か食いたい。けど昨日の晩、買い物行くのが怠くて冷蔵庫の食材とかカップ麺とか全部食べちゃったんだよな。


 …………女神こねぇかな。


 と、思った時だった。

 異界への扉が落ちていた空のペットボトルを跳ね上げて、台所に現れた。

 そして期待通りに現れる女神。

 その右手にはバケットがぶら下がっている。あれはいつも食べ物を持ってくる時に使ってるやつだ。


「なりた、お昼ご飯食べ」


「食べてない」


「実はね、作ってきたの!」


「あ、本当に? へー」


 気付いてたけどな!


「サンドイッチに、小魚のフライの酢漬けと、チキンサラダ!」


「あ、スープいる? インスタントのだけど」


 たしか棚の奥にいつ買ったかわからないインスタントのコーンスープが……あった。

 ……こういうのってそう簡単に腐らないよな? 粉末……だもんな?


 お湯を沸かしている間に、テーブルの上はすっかりランチタイムの様相になっていた。

 色とりどりの野菜とハムの挟まったサンドイッチと小魚をフライにしたものにタレのような物を和えた料理、もはや見慣れたチキンサラダ。

 ……あのサンドイッチに挟まってる青と紫の葉はなんだろうな……


 でもまぁ……かなり虫のいい事だってのは分かってるけど、こういう時の女神は本当に助かる。

 それに、女神の料理はなんだかんだで……いや、やめとこ。


「あ、オレイソーダの素も持っ」


「俺いらね」


「…………」


 そんな化け物を見たような顏されてもいらない物はいらない。

 飲むと光るし。


「これ、スープすぐにかき混ぜてな? 底のほうに固まるから」


 二人揃ってどちらからともなく頂きますの挨拶。

 とりあえず腹が減って仕方がなかったからサンドイッチを一口。

 いつもの女神の料理と違ってかなりしっかり味付けしてあるな。胡椒が効いてて美味い。


「どう?」


「ああ、美味しい美味しい。この変な色の野菜も美味しいな」


「味は? 美味しい?」


「うん、美味しいぞこれ」


「味、変な感じしない? いつもと違う、みたいな」


「変な感じ? ……まぁ、いつもよりちょっと胡椒が効いてるくらいじゃない?」


「それだけ?」


「……いや、普通に美味しいけど……なんか変えたの?」


「辛くない?」

 

「まあ……ちょっと辛いけど、いいんじゃない?」

 

「酷い‼ なりたの為に作ってきたのに文句言うなんて、もう知らない‼」


 まーた何か始まった。

 目的がわからねえのと何されるかわからねえのが怖いんだよな。


 スープをテーブルの真ん中の方に避難させてから、勢いよく立ち上がった女神は玄関の方へ駆け出した。

 だが、Uターンして異界の扉へ戻っていき、靴をもって再び玄関へ。

 靴を履いて玄関を開けようと必死になっている。

 

 なるほど、喧嘩して家を飛び出すやつをやりたくて、しつこく味の事を聞いてきたのか。


 できてないけど。


「鍵! 鍵かかってんだって! そのドアノブのとこ!」


 鍵の開け方がわからなかった無様な女神は、しばらく頑張っていたが閉じ込められて絶望した人のようにドアに両手をついて諦めた。

 そして、玄関に靴を揃えて元の場所に戻ってきた。


「…………」


「あのドアノブのツマミ回せばよかったんだよ」


「……マヨネーズある……?」


「冷蔵庫」


 まぁ、なかった事にするしかないよな。今のは完全に自滅だもんな。

 

 マヨネーズを持ってきた女神は、俺の前に無言でケチャップを置いた。

 

「……え?」


「…………」


「いや、流石に意味わかんねえだろ」


「ふん! なりたがどうしてもって言うから戻っただけで、許した訳じゃないから」


 信じらんねえなこいつ。

 女神が1回外に出て、俺が追いかけて呼び戻した設定で続けやがった……


 このケチャップは嫌がらせのつもりか!

 

「……この小魚のやつ、ちょっと酸っぱくない?」


「そう? でもトゲはないから食べやす……あっそ、ならマヨネーズでもかけたら?」


 ちょっと面白いな。

 それに、食べるなとは言わないんだな。


「このサラダちょっと多くない?」


「なりたってあんまり野菜……ふん! 文句ばっかり!」


「女神って料理上手いよな。どれ食べても美味いし、盛り付けも綺麗だよな」


「……そ、そう?」


「ほら見てみろ、顔がどんどん赤くなってく」


「ふ、ふん!」


「怒り慣れてないから、ふん! ばっか言ってんじゃん」


「……私、本当に怒った!」


「昭和初期の怒り方……」


 女神は食事を終えると、まっすぐ異世界へ戻っていった。

 が、扉は出しっぱなし。


 閉めてけよな……

 これアレか、しばらく引きこもって俺に心配させる算段か。

 

 扉を閉じようとすると、異世界から伸びる女神の手がそれを阻止した。

 何度か試したが閉じようとすると、その都度女神の手がそれを阻止する。


 フェイントをかけると、一瞬だけ女神の手が出てくる。


 まぁ……まぁまぁまぁ、今までの手段に比べたらまだ可愛げがあるな。


 続きが気になるな。

 最終的にどうするつもりなんだろ。


「あー、女神まだ怒ってるのかなー。謝った方がいいかなー?」


 ……反応ねえな。

 と、思ったら異界の扉からテレシアちゃんが現れた。


「あのー、女神様が……」


「怒ってんの?」


「その……もう、なりたさんと口をきかないって言ってます」


「ちょっと弱いな。ベタ過ぎるんだよな」


「……あの……湿布……ありますか?」


「湿布? どうしたの?」


「……その……ちょっと……」


「どっか痛いの?」


「足がちょっと……」


「お得用買ってるからまだあるけど。大丈夫?」


「は、はい! あの、1枚頂いても……」


「うん、1枚ってか1パック持ってきなよ」


 湿布を受け取ったテレシアちゃんは丁寧に頭を下げて異世界に帰って行った。

 と、思ったらすぐに戻ってきた。


「…………」


「え……どうしたどうした、お前……」


「えっと……直接謝りに来るまで許さないって言ってます」


「……あれ、テレシアちゃん、湿布は? 貼らないの?」


「あ、後で貼ります!」


「女神か」


「…………」


「腰でもやったの?」


「ちょっと……その……なりたさんの家に靴を忘れたせいで、スリッパのまま神殿の階段を駆け上がったら……あの……」


「コケた?」


「……肉離れを……」


 恐らく今年、というか人生で一、ニを争う程笑った。

 そりゃあテレシアちゃんも言い淀むよ、だって女神が神殿の階段で肉離れって、馬鹿丸出しだもん。

 腹を抱えて笑っていると、異界への扉から金色の花瓶が飛んできた。


「危なっ……お前、これは危ねぇよ。こんなの足とかに当たったら……に……に、肉離れ……ふふ……ははははは!」


 次々と飛んでくる瓶や燭台、よくわからない物、ハンガー……。


「悪かったって! だって女神がミートグッバイとか聞いた事ねえからさ」


「ミートリーブでは……」

 

「うははははは!」


 その時、異世界からテレシアちゃんを呼ぶ静かな声が響いた。


「…………」


「……とりあえず……行ってみよっか? ちょっとアレだったらこっちに避難すればいいから……」


 トボトボと異世界へ戻るテレシアちゃんの耳が垂れ下がっている。

 申し訳ないとは思うけど、あれを笑うなって方が無理な話だろ。


 暫くして、戻ってきたテレシアちゃんは一枚の紙を持っていた。


「大丈夫だった?」


 テレシアちゃんは答えずに、手にした紙を読み始めた。


「なりたさん、なりたさんが直接謝りに来るまでは許してあげません! ここは感情をこめて……あ、これは違っ……えっと、なりたさんなんて大嫌い! だそうです」


「肉離れの後に言われてもな」


「あと、女神様はその気になれば、なりたさんがどこに逃げても力づくで異世界に引き込めるとの事です」


「俺を引き込む前に、離れた肉を引き戻せよ」


「ちょっと……ふふっ……なりたさん!」

 

 凄まじい音を立てて、異界への扉が閉じて消えた。


「…………ちょっと……笑いすぎた?」


「元々、ちょっと涙目だったので……」


「先に言ってよそれ……」


 後日、靴を回収してまっすぐ帰ろうとする女神に平謝りで謝り倒して、なんとか事なきを得た。

 余談だが、俺は暫く女神の足を見ないようにしていた。……また笑いそうだから……。

 

 

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