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女神がきたりて  作者: 阿能比等
第三章
28/38

day26 夢魔

「こりゃあ、回り道だな……」


 迷路のようなダンジョン。

 壁に設置されたロウソクの明かりだけが頼りの、この薄暗く不気味なダンジョン。

 湿っぽい茶色い石の壁で形作られた道を進んでいたのだが、巨大な我が家の冷蔵庫が道を塞いでいる。


 こんな事ではダンジョンの主である悪の龍オルフレヴネの元へ辿り着けないな。


 仕方ない、一つ前の拠点に戻って女神の加護を貰うか。


 振り返った俺の視線の先に、珍しい紫色の長い髪の少女が立っている。

 勇者である俺は別として、こんなダンジョンの奥深くに少女……。

 金色の瞳に、異様に白い肌と軽く開いた口から覗く小さな牙。背は小柄だが、軽く浮いてるせいで視線の高さはさほど変わらない。

 

「魔物か?」

 

「あ……魔物……って言われたらまぁ……」


「強い魔物か? 道中で普通に倒せるタイプの魔物か?」

 

「あ、戦力はそんなに……」


「……ちょっとわかんねえな。何系の魔物?」


「悪魔系、かな? 夢魔です」


「ダンジョンに夢魔って出るっけ?」


「ちょっと私にもわかんないですね」


「……俺何してんの?」


「あ、夢の中なんで、細かい事を気にしたらキリがないと思います」


「我ながら中々恥ずかしい夢を見てるな」


 明晰夢って言うんだっけ、夢の中で夢だって気付くやつ。

 あー、思い出した。これ何ヶ月か前にやって、あんましハマらなかったからクリアしてすぐに売ったゲームのダンジョンだ。

 ……こんな魔物いたか? ……いや、記憶にねえな。


「まともな方ですよ? もっと倫理を無視した夢とかもありますし」


「まぁ、夢ってわかったらやりたい放題するよな」


「あ、進んで下さい」


「え?」


「冷蔵庫、開けると扉になってるんで大丈夫です。進んで下さい。この後は味方に遭遇して一緒にオルフレヴネ様を倒す流れになるんで」


 流れったって、俺の夢じゃないの?

 

「俺の夢、流れが決まってんの?」


「…………」

 

「……おい攻略wiki、お前誰に雇われた?」


「っ⁉ え……あ……あの……そんないきなり……」


 夢魔は顔を赤くしてモジモジしているが知った事ではない。


「よく考えて答えろお前。お前が共犯者になるかただの攻略wikiに留まるかはお前の答え次第だからな!」


「……め」


「女神だよな?」


「はい……」


「なあ?」


「はい……」


 夢魔を使って夢にまで干渉してくんのかあの女神は。

 もうやってる事はホラー映画の悪霊だな。


 自分で起きるのは無理そうなので仕方なく冷蔵庫を開け、先に進む。たしかこの攻略wikiが言うには味方がいるんだよな。

 ……壁と道とロウソクしかないけどなぁ。結構先まで見えるけど人っぽいものは見えないんだよな。


「これ、このまま進み続けるのであってる?」


「……ちょっと、ちょっと待ってて下さいね?」


 そう言い残すと夢魔は水に絵の具を溶かすが如く消えた。

 …………持て余すな。

 ……腰に剣が下がってる。これ……お、本物だ。

 結構ずっしりくるな。重さとしては2Lのペットボトルより少し重いくらいか?

 これでドラゴンとか斬れるか? あの時触った鱗は硬さもそうだけど柔軟性もあったし……

 こんな感じで両手で持って……


「とう!」


 …………無理だなぁ。俺に戦闘職は無理だわ。

 呪いの剣に振り回される哀れな男みたいになってたもん。


「どうしました?」


「あびっくりしたぁ……」


 夢魔が戻ってきていた。

 

「あの……私が仲間です」


「…………」


「あなたがノリタさんですね! 私は夢魔の攻略wiki、よろしくね!」

 

「なりただよ。本来の仲間はどうしたの? 絶対にお前じゃなかったろ、本来の仲間」


「……あの……レカさんがまだ寝てなくて……一応声はかけたんですけど、作業中って言われまして」


「調べとけよー。夜行性の人間に声かけるなよなぁ」


 仕方なく夢魔と進むダンジョン。

 俺の想像力が足りないのかこういうもんなのか、壁に靴ベラが立てかけてあったり、いきなり我が家の座布団が落ちてたり。


「あ、あのー」


「ん?」


「本当に……いいんですか?」


「まぁ仕方ないだろ、お前しかいないしな。流石にこんな素頓狂な夢で投げ出されても困るし」


「……わ、私、頑張りますね!」


「いいよ、そんな気合入れなくても。攻略だけ教えてくれれば」


 夢魔にしては健気だな、女神に見習わせてえ。

 

 しばらく夢魔の指示に従って歩き続けると、やっとの事で金の装飾が施された赤い両開きの扉に辿り着いた。

 金のリングのドアノブを引くと――


「開かない」


「押してもダメですか?」


「いや開かないって。……お前これ、鍵穴あるぞ」


「あ……」


「お前さぁ……」


「大丈夫です大丈夫です! えっと……ほら! これで開きます!」


 扉の前から夢魔が退くと、そこには鍵穴の消えた扉が。

 

 こりゃあ、チートだな。

 せびったのは俺だけど。


 扉を開けて中に入ると、そこには赤い絨毯と一段上がった床に玉座のような豪華な金の椅子が置かれていた。

 ボス的なのは……いないな。

 またあれか、寝てないパターンか?


 夢魔はゆっくりと歩みを進め、迷うことなく玉座に座った。


「よくここまで辿り着いたな、なりた」


「一回見に行ってみ? 多分だけど釣りしてるから」


「……みんな、ちゃんとやるって言ったのに……」


「相手が悪かったとしか言いようがねえよ。どうせアレだろ? 魔王……ここだと悪の龍だっけ? 倒した後に女神が現れてなんかご褒美貰える的な展開だろ?」


「え⁉ なんで知ってるんですか⁉」


「そりゃあお前、こういうパターンの王道展開だもん。王道過ぎて劇中劇にしか使わねぇくらいだぞ」


「……どうしよ……」


「起こせ。もうこっから軌道修正するのは無理だぞ」


 



 

 ――――――ん……

 時間は朝の7時15分。

 俺の右隣に女神が、左隣に夢魔が寝ている。


「おい、起きろ。夢魔、起きろ。」


「……あ……なりたさん、おはようございます。すみません……私の力が至らないばかりに……」


「大丈夫だよ、全部女神のせいにすればいいから」


 その女神はまるで目覚めたヴァンパイアのように勢いよく上半身を起こした。

 そして真顔でこちらを見ている。


「……私の出番は……?」


「ないない、打ち切り」


「それになんでカタンと契約してるの⁉」


「なんだカタンって」


 夢魔が「あ、私の種族名です」と解説を入れてくれた。

 それはいいとして、この子と契約した覚えは一切ない。ただ指示に従って夢の中で行動しただけだ。


「ひどい! 夢といえども契約は契約なんだから! 私という女神がいながら……」


「朝からうるせえなぁ、なんだよ契約って」


「カタンに名前をあげてたじゃない!」


「名前?」


 突然、夢魔が俺に縋りつくように肩を掴んできた。


「攻略wikiって……呼んでくれましたよね⁉」


「なんでお前ら寝起きからそんな元気なんだよ……。呼んだってか、皮肉ったっていうか」


「私たちカタン族は名前を授けてくれた相手に一生ついていきます!」


「契約破棄で」


「へ……?」


 硬直した夢魔を女神が抱き寄せて慰めている。

 そんな反応されても、何も聞かされてねえし。強いて言うなら何も説明しなかったお前らが悪いだろ。


「なりた、いくら相手が男の子だからってそこまで冷たくしなくても……」


「そういう取り返しのつかない事は先に説明しとけよ。……男?」


「ええ、カタン族に女の子はいないわよ?」


「……まぁ、それは深掘りしない事にするとして、これどうすんの? マジで契約すんの?」


「大丈夫よ、カタン族はいい子だから。たまに夢から生じるエネルギーを勝手に吸収するだけよ」


「まぁ……そのくらいならいいけど。俺の部屋で暮らすなよ?」


 思いっきり目を輝かせて、溢れんばかりの笑顔で頷く……攻略wikiは女神と抱き合って喜んでいる。

 この子……自分がどういう男と契約したのかわかってねえな……。

 まぁ、嫌気が差して諦めてくれたら、それはそれで丸く収まるからいいけどな。


「これからよろしくお願いします、なりたさん!」


「なんか好きなもんないの?」


「え? 好きな物……好きな物……」


「じゃあ……いいや、好きな花」


「あ、メギという花が好きです! カタン族の象徴で、綺麗な赤い実が」


「じゃあお前の名前はメギな。夢からエネルギー吸うと俺にデメリットあるの?」


「いえ、夢の内容が記憶から消えるだけです」


「じゃあさ、テレシアって子の手伝いしてやって。女神に聞けばわかるから。介護してて大変だから」


 ちょっと便利使いしすぎかな。でも、無報酬ってわけじゃないし。

 本人が喜んでるならいいか。

 心なしか、嫉妬していた女神も嬉しそうだし。

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