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女神がきたりて  作者: 阿能比等
第三章
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day24 装備

 重厚な金属でできた、艶やかな銀の輝きを湛える甲冑。

 所々に絹の糸を精巧に貼り付けたような緻密な彫刻が輝き、金の装飾は品位を上げている。

 頭を完全に覆い隠すようなその面は、中に人が居らずとも目の前に立つものを威圧している。


 それが、俺の家の台所にある。

 いや、俺の部屋に勝手に持ってこられた。


 もはや説明が必要かどうかはわからないが、女神が持ってきたと思われる。

 その証拠に、異界への扉が甲冑の後ろにある。


 目が覚めて、この扉か女神を目にするのが日課になってる。

 女神はいないけど、この甲冑を見るに何を言うのかは察しが付く。

 これを装備して魔王を倒せ、と。

 本当、いつまで引っ張るんだろうな……この設定……。魔王も含めてもう誰も隠す気ないしな。


 休日の朝に甲冑を眺めながら、昨日飲み残したコーヒーを啜っていると異界への扉が開き、勇ましく立っていた甲冑はドアに跳ね飛ばされてバラバラに床に散らばった。


「あーあー……散らかすなよな……」


 意外にも散らかした張本人は女神ではなく、レカさんだった。


「あ、あ、ご、ごめん……」


「お、珍しい。これレカさんが持ってきたの?」

 

「う、うん、ちょっと置き場所が無くて……めめ女神様にそ、相談したら、なりたの家に置いていいって……」


「俺の家な? 決定権は俺にあるからな?」


 レカさんは拾い集めたバラバラの甲冑を慣れた手付きで組み直した。


「ここれ、しばらくここに置いてもいい?」


「断ったら……困る?」


「……う、うん……」


「でもさぁ、それ高級品だろ? うちの玄関、ドアノブの近くをどつくと鍵開くぞ? 大丈夫か?」


「こ、これ、手作りだから、そんなに価値はない」


「は? ……え? これ手作り?」


「う、うん……神伐物語のエノシュ・ラエドの装備……」


「それは……よくわかんねえけど、こんなの作れるの?」


「これ、ね、あの、し身長も原作準拠で、ほら……こ、ここ、一回斬って直したの……コクー戦後の再現……」


 原作を一切知らないからさっぱりわからないけど、どこの世界でもオタクの職人魂は凄まじいな。

 いや、でもこれは……個人で甲冑作るレベルのはオタクを通り越してる。


「レカさんがいいなら別に置いといていいけど、保障できないぞ。俺の家、異世界イベントばっかりだから」


「……身長……どれくらい?」


「身長……172cmだったかな。最後に測ったの学生の時だから変わってるかもだけど」


「き、着てみない?」


「やだ」


「……ちょっと待ってて!」


 急いで異世界に戻るレカさんは三十分程して帰ってきた。

 が、その姿は驚くほど変わっていた。


 長い白髪はハーフアップにまとめられ、普段は前髪で隠されている左目も露わになっている。

 腰には剣が下がっており、服も薄紅色の上着に黒いゆとりのあるズボンに変わっていた。


「それ、さっき言ってたコクー?」


「これはクーラ、最終決戦前バージョン」


「はあ」


「なりた、脱いで」


「着ないって」


「一回だけ! 1000メニアあげるから!」


「……簡単に着れるのか、これ」


 異世界のお金、ちょっと気になった。

 好きなんだよなぁ、外国のお金とか古銭とか。昔は結構集めてた。


 とりあえずレカさんの指示のもと、甲冑を装備していくが……重い。

 こんなに重いのか……

 偽物でこれだろ? これ、本物だったら歩けないんじゃないか?

 しかも、体中の関節の可動域が半分くらいになった。


「わぁ……等身大フィギュアみたい……」


「重てえ……これどうすんの⁉ 何すればいいの⁉ 早くして!」


 この甲冑の中からはほとんど何も見えない。

 視界がペットボトルの飲み口を覗いたくらいの小ささしかない。

 その狭い視界の端でレカさんが何かをしているのが見える。

 なんか……俺の腰に何かを装着してるのか?


「そのまま剣に手を置いて。あ、そうじゃなくて、柄の頭に手を被せるような……そうそう。足をもう少し開いて。で、片足だけカメラの方向に向けて。片足だけ! 反対側の腕は下げたままほんの少し肘を曲げて、曲げすぎ! ちょっと肩を引いて。あ、もう少し下を向いて」


「レカさん、無理。ちょっとさ、フィギュアにポーズとらせるみたいにレカさんが動かしてくんない?」


 漫画か何かのコスプレをして、レカさん操られ、ポーズをとらされて写真撮影。休日も昼に差し掛かろうという時間に二十五歳と二十九歳がやる事か。


 何度かポーズを変えてやっとこの奇妙な撮影会は終わった。

 まさかコスプレする日が来るとは思わなかったな。

 とりあえず、早くこの甲冑を脱ぎたい。重いし窮屈だし、ちょっと息苦しいし。

 

「あ、ま、待って、私が脱がすから。留め具が壊れやすいの」


「先に首から上だけなんとかしてよ、これ結構息苦しいから」


 やっと取り戻した快適な呼吸と開けた視界。

 その視界に映ったのは俺の装備を解除するレカさんと


「なりた、似合ってるわよ!」


 俺たちを眺めながらくつろぐ女神だった。


「……いつから見てた?」


「早くして! って辺りから」


「……なんか言えよ」


「邪魔したら悪いと思って。甲冑も悪くないわね、動きやすい旅人の服を用意してたんだけど」


「その用意は無駄になるからな」


「それにするの?」 


「これレカさんのだよ」


「え? じゃあそれってもしかして近代美術会の?」


 甲冑を再び台所に組み立て直したレカさんが自慢げに原作の話を織り交ぜながら甲冑の説明をしている。

 漫画とかの話してるときは楽しそうだし自信に満ち溢れてるよな、レカさん。

 まぁ、こんな立派な甲冑を作っちゃうくらいだもんな、本当に好きなんだろうな。

 

 ……俺が何かに熱中してた事は……


 あ、昔は近所を探検するのが好きだったな。小学校低学年の頃だったか、通学路のみならず塀の間や道ともいえないフェンスの隙間とかを通って家を目指していた。

 独自の地図を作った事もあったな。

 ……親に叱られてやめたけど。


 神から人間を解放しようとする男と、それを止めようとする反乱軍のリーダー的な主人公の冒険譚を語り尽くしたレカさんは甲冑を俺の部屋に預けて満足そうに帰っていった。


「なぁ、お前は趣味とかあんの? なんかずっと熱中してる事とか」


「なりた!」


「そうかい」


「ずーっと熱中してるもの」


「……そうだな」


「……ダメ?」


「ダメじゃねえけど……なんか違くないか、それ」


「そう?」


 俺に熱中か……

 それって言ってみれば何かを期待してるって事だろ? まぁ俺が異世界に行く事なんだろうけど。

 俺に期待されてもな。今の女神との関係性が答えだとしか言いようがない。

 

 何かもうちょっと応えられる期待にしてくんねえかな……



 …………あ1000メニア貰ってねえ!

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