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女神がきたりて  作者: 阿能比等
第三章
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day23 お菓子作り

 卵、グラニュー糖、牛乳、バニラエッセンス。


 俺は今、プリンを作ろうとしている。

 料理はできない訳じゃないけど、いまいち作り方はわからない。だから動画で見たレシピを参考に作る事にした。

 たしか……卵をかき混ぜて材料入れるだけでよかったんだよな、簡単そうだったからこれにしたんだし。

 大丈夫だよな?

 …………うん。


 とりあえず1個作ってみるか。


 卵は……一個でいいのか? あれはたしか四つ分で卵二つだったよな。とりあえずかき混ぜて砂糖入れて……後で調整……


 慣れないお菓子作りに手間取っていると、俺の背後で下から迫り上がるように異界への扉が現れた。


「危ねえなぁ、人のいない場所に出せよー」


 そんなぼやきに応えたのは女神ではなく


「あ、すみません!」


 テレシアちゃんだった。


「あれ? どうしたの?」


「女神様のお使いです。こちら、女神様からのお土産です」


「お、なんだろ……」


 テレシアちゃんが持ってきてくれた、薄べったい箱。そこにはポップな字で人魔小麦パイと書かれている。

 箱にプリントされてる写真から見るに、小さいパイのお菓子だな。

 えーっと……


 

『人間と魔人が技術を提供し合って品種改良した、人魔ウィート2号の小麦粉を100%使用した香ばしいパイを小さくしました! チョコ、ミルククリーム、魔蘇茶クリームの三種入り! 新しい魔界の名産をご賞味あれ!』



「……美味しそうだな。テレシアちゃん、この後は暇?」


「はい、お土産を届けに来ただけなので」


「じゃあ食べてって。異世界の物を大家さんとかに食べさせる訳にはいかないからさ」


 個包装にされた手のひらサイズの五角形のパイだ。

 これ……あ、これがチョコか。


「あ、私は魔蘇茶味を頂いてもいいですか?」


「ほれ。魔蘇茶ってなんなの? なんか……紫色してるけど」


「魔界でのみ採れるお茶なんです。高級な物だと一杯で5000メニア程する物もあるんですよ?」


「5000⁉ 一杯5000⁉」


「私は庶民向けの安いのをよく飲みます。牛乳にも合うんですよ?」


 ああ、抹茶みたいな感じか。

 どこの世界、どの時代でもお茶って高いんだな。


「これどこのお土産?」


「魔界と人界の境にある旅人の駅オアシスっていう、色々なお店が集まった場所です。今とっても人気なんですよ!」


 もう、あれだな。魔王とか勇者とかの設定は諦めたんだな。

 魔界と人界の境に道の駅みたいなのがあるんだ。……ちょっと行ってみてえな。好きなんだよな、そういうの。


 なんて事を考えていると、台所を覗き込んだテレシアちゃんが作りかけ……と言ってもかき混ぜただけの卵や牛乳などの材料を見て興味を示した。

 

「あ、プリンですか?」


「お、材料だけでわかる?」


「はい、姉の喉の調子が悪い時とかによく作ってたので」


「マジか。これ、卵は混ぜちゃっていいんだよね?」


「えっと……卵白と分けました?」


「いや、全部いっちゃった。黄身だけ?」


「硬めか柔らかいかの違いなんです。全部だと硬めのお店のプリンみたいになるんですよ」


「お、いいね」


 流石と言うかなんというか、テレシアちゃんは手際よく俺にレクチャーしてくれる。


 牛乳を入れようとして


「あ! ちゃんと計らないと!」


 牛乳と生クリームを鍋に入れてコンロの火を点けると


「あああ! 強いです! 強いです!」


 卵に砂糖とバニラエッセンスを入れて混ぜると


「あ、いい感じですね!」


 プリンの原液が完成して四角い型に流し込もうとして


「あっ……茶こしかザルはありますか?」


 と、どう考えてもテレシアちゃんがいなかったら失敗していた事が証明されるのだった。

 おまけに、プリンにかけるカラメルソースの事を思いっ切り忘れていた。

 情けない事に絶対に上手くいく気がしなかったし、テレシアちゃんもそれを察してかカラメルソースは作ってくれた。


 プリンを冷蔵庫に移して冷えるのを待ってる間に、異界の扉から女神が顔を出した。


「いい匂いがする!」


 やってる事がデッカいゴールデンレトリバーのソレなんだよな……


「あと三十分くらい秘密」


 女神は「楽しみ!」なんて言ってるがこの匂いじゃあなぁ。多分バレてるだろう。

 普段は飲まない紅茶をのんびりと淹れながら、旅人の駅オアシスの話や魔蘇茶の話でダラダラと盛り上がっていると、三十分などすぐに消えて無くなるのだった。


 冷蔵庫から出したプリンはしっかりと固まっていた。

 ひっくり返しても皿に出てこない程に。


「プリン出ねぇ。あ、プリンって言っちゃった……ダメだ、出ねえ」


 飛んできたテレシアちゃんが型に沿って軽く包丁を入れると、いとも簡単にプリンは皿の上に落ちた。

 カラメルソースをかけると、それはもう立派な出来栄えのプリンだ。

 当たり前だよな……だって……



「わぁ! 美味しそうなプリン! なりたの手作り?」


 と、女神は喜ぶが


「……悪ぃ……ほとんどテレシアちゃん製」


 そんなことないですよ! と気を遣うテレシアちゃんがプリンより優しい……


 プリンを四つに分けて皆で頂きますの挨拶。

 普段は気にもしない癖にこういう時は妙に反応が気になる。


「ふふ……」


「え?」


 女神の噴き出すような笑いに、俺も一口食べてみると――


「……甘いなぁ……」


 テレシアちゃんも女神も笑ってしまうくらい甘い。

 これは……食べられない程じゃないけどかなり甘い……


「でも、美味しいわね!」 

 

 特に気を遣ってる風でもない女神の感想をよそに、俺はある事を思い出した。


「……あっ……俺、最初に卵混ぜた時に砂糖入れたわ。その後にもう一回入れたから……倍の砂糖が……」


 腹を抱えて笑う二人だが、プリンはちゃんと食べてくれる。

 なんだか自分でも可笑しくなってきたな。


 ……笑ってる場合じゃねえや、お礼のつもりで作ったのに結局失敗してしまった……


 二人の帰り際、四つに分けたプリンの内の一つをテレシアちゃんにお姉さんへのお土産として渡した。

 去っていく二人を見送る時、女神の目が少し潤んでいるように見えた。


 ……泣く程の事か?

 …………悪い涙じゃない、よな……?


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