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女神がきたりて  作者: 阿能比等
第三章
24/40

day22 風邪

 本日、体温は三十七度四分。


 まだ取り返しがつく。

 ここでしっかり治しとけば、ただの軽い風邪で済む。


 水分とって、栄養ドリンク飲んで、ビタミンCがめっちゃ入ってるレモンジュース飲んで、寝る。

 こうして横になっていても体が怠い。

 

 まだ二十代半ばだ、寝れば治る。


「なりた、お腹空いてる?」


 丸一日、ひたすら寝てれば明日には治るはず。


「ねぇなりた、お薬飲んだ?」


 寝るのは得意な方だ。

 その気になれば24時間寝られる。


「なりた、りんご食べる?」


 ダラダラ引きずるのは嫌だからなんとしても1日で治すぞ。


「ねぇねぇ、一緒に寝る?」


「うるせーなあ‼」


 人が風邪引いてるって聞いてから看病みたいな事をずーっと……

 今日は一日中寝るって言ってあるのに女神の絡みが止まらねえ。


「あ、起きちゃダメよ、ちゃんと寝てなさい」


「お前帰れよ、移っても知らねぇからな!」


「だって……なりたが心配なんだもの。それに女神は風邪ひいたりしないから大丈夫よ?」


「そんななぁ、風邪くらいで心配しなくていいって。ガキじゃねえんだから」


「今日は私が看病してあげるから任せて!」


「看病ったって……寝るだけだぞ」


「寝て。寝付くまで見ててあげるから」


 枕元に座って俺の顔を見下ろす女神は、何が嬉しいのか微笑んでいる。

 投稿系心霊映像で寝てる人の首を絞める幽霊みたいな事しやがって。


「…………」


「なーりた」


「…………」


「寝られそう?」


「…………」


「ちゃんと食べてる?」


「もう……いい。寝ない」


 ダメだ、悪霊の霊障のせいで寝られない。


「そんなのダメよ! ちゃんと寝ましょう?」


「静かにしてろよ? 今から寝るんだからな?」


 俺しか住んでないこのアパートの一室で、こんな事を言う日が来るとはな。

 まだ枕元にいるけど、とりあえず静かにはなったからいいか。


 …………

 ……なんか女神がごそごそやってるな。

 ……片目を薄く開けると、俺に寄り添うように寝仏みたいな姿勢で寝そべってる。

 気にしないようにしよう。

 女神を一々気にしてたら一生寝られない。

 ……聞いた事もない鼻歌。

 …………体に置かれる手。

 ………………それが離れて、握られる俺の手。

 ……………………布団に入って来ようとする女神。


「やーめーろ‼」


「寝られないの?」


「原因が気遣うんじゃねえよ……」


「もう、いつまで経っても治らないわよ?」


「女神、ちょっと神殿に行って祈ってきて。俺が治るように」


「私が? 自分に祈るの?」


「……誰か……誰でもいいや、祈られてきて」


「なんで?」


「いいから祈られてきてって。あ、テレシアちゃんには言うなよ」


 渋々と異世界へ向かう女神を見送るように異界への扉まで付き添う。

 目的は勿論、女神が異世界へ戻ったら扉を閉めて消す事だ。


 だが……


「あれ……? え⁉」


 女神は扉を押して開いた。

 つまり、扉は異世界側へ…………


「なりた、そう何度も同じ手は通用しないのよ?」


 この体の熱さは熱のせいではない。


 シンプルに、怒りだ。


 女神が異世界に戻ってから少し待機。

 そして、床とかを掃除するコロコロを装備して異世界に腕を突っ込み、扉にしっかりと押し付ける。

 ゆっくりと引っ張ると…………ほーら、ザマァ見ろ。

 コロコロに付いてきた扉を閉めると、扉は消えた。


 女神の癖に小賢しい事しやがって。

 知恵の勝利だバーカ。


 よーし、寝るぞー。


 気合を入れて力を抜いて、再び布団に倒れるのと同時に台所に異界への扉が現れた。


「は⁉」


「なりた、勝手に閉めないで?」


「……え、なんで? 今日の分はもう消したじゃん」


「一日一回なんてルールはないわよ?」


「…………」


 そういえば、この扉に関するルールは一度も聞いた事がない。

 扉を閉めると消えるって事くらいしか知らなかった。


「お薬飲みましょ、よく効くのを持ってきたから」


「……うん……」


 なんなんだ、この敗北感は。


 女神は抱えてきた大ジョッキ程の大きさの壺から、赤と青の縞模様の丸薬を取り出して


「はい、魔薬よ!」


「待て待て待て待て! ま……その薬の名前を大きな声で言うな!」


「一般には出回らない高い魔薬なの!」


「やめろ! 風邪薬って言え風邪薬って!」


「魔薬は初めて? 大丈夫よ、使うと頭も体もスッキリするから!」


「ちょ、本当にお前……ヤバいからやめろ!」


「薬草の葉っぱのみを使った高級な魔薬よ。風邪でも怪我でもしっかり治ってビシッとキマるわよ!」


「キマるとか言うなよ!」


「大丈夫よ、魔薬なんて誰でも1回くらいは使った事あるでしょ?」


「女神、頼む! 風邪薬って言ってくれ」


「風邪薬! それでね、この魔薬は純度が高めで」


「そういう意味じゃねえ。もういいからくれ! 使うから!」


 一刻も早くこの話題から離れさせないと、俺の積み上げてきた近隣住民からの信頼がヤバい。

 一粒がデカいし変な色してるし……なんか妙に甘いな。

 水と一緒に飲んでるのに喉にグリグリくる……

 これ、年寄りとか子供が飲んだら死ぬんじゃないか?


「あら? もう舐め終わったの?」


「え?」


「へ?」


「……先に言っとけよー……飲んじゃったよ……」


 これ大丈夫か?

 まぁ、結局は遅かれ早かれ胃に入るんだから大丈夫だろうけどさ。

 ……なんか……なんか胃の辺りが温かい……。


「さ、薬も飲んだし寝ましょ?」


「だな。じゃ、また明日」


「ええ。欲しいものがあったら言ってね」


 女神は勝手にお茶を淹れ始めた。

 二人分。


「……なぁ」


「ん?」


「なんか冷たいもんとかない?」


「あ、オレイソーダのアイスキャンディがあるわよ? 神殿前の広場で売ってるの」


「……買って」


「酸っぱいの大丈夫?」


「あんまし好きじゃない」


「何種類か買ってくる!」


 何なんだろうな、この……結局女神に押し負けて俺が折れるこの展開は。

 今回のは、善意の選別をしている自分へのちょっとした嫌悪感や罪悪感もあるんだけど。

 寝たいからそっとしておいてくれって素直に言えばよかったかな。


 ……俺が悪いか?

 …………いや……まぁ……もういいや。


 アイスキャンディか、ちょっと楽しみだな。

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