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女神がきたりて  作者: 阿能比等
第二章
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day 20 ツンデレ

「あなたなんて勇者にしてあげないから‼」


 コンビニ、行っちゃおっかなー。もう23時だけど明日はバイト休みだし。

 あ、ちょっと遠いけど24時間開いてるスーパーって手もあるな。深夜の人が少ないスーパーってなんかいいんだよな。


「でも……一緒に冒険してあげてもいいけど?」


 でもなぁ……このままスマホ弄りながら寝落ちしたい気もするんだよなぁ。


「別にあなたと冒険したって楽しくないんだから!」


 明日はバイト休みだし、今日はこのまま寝て明日はどっかそこら辺を歩き回るか。


「でも…………一緒に来てほしいな?」


「お前尿検査受けてこいよ」


 バイトから帰ったら既に家にいた女神はずっとこんな感じ。ツンデレをやってるつもりなのだろうが、どう見てもただの薬物中毒者か精神異常者である。


 俺、ツンデレ好きじゃないしな。


「お出かけ?」


「目的は無いけどな」


「もう夜中よ?」


「夜中だからだよ」


「……帰ってくる?」


「勿論帰ってくるよ。家出じゃねえんだから」


「……魔物に気をつけてね?」


「自由にゃんこくらいしか出ねえよ」


「…………」


「行く? スーパー」


「行く!」

 

 ……まるで散歩用のリードを目にしたゴールデンレトリバー。

 お菓子くらい買ってやるか。世話になった事もあるし。


 こうして始まる二人の深夜徘徊。


 財布だけをポケットに突っ込み、街灯を渡り歩くかのようにのんびりと月下の散歩。元々が静かな町だけど、真夜中になると余計に静かで異世界みたい。


「あんまり近付かないでよねっ!」


 静かじゃなくなったわ。


「どんな反応を期待してんの?」


「…………」


「無計画か」


「こうすれば、男はみんな追いかけたくなるって……」


「追う、の意味が違うだろ。それに、そういうのってもっと思わせ振りな態度ありきなんじゃないの?」


「なりたの好きな女性のタイプってどんな人?」


「異世界に誘わないタイプ」


「ふぉぅ……」


「なんだお前……」



 真夜中に煌々と輝く24時間スーパー。残業終わりであろう、疲れ切ったサラリーマンとすれ違いながら店内へ。

 お疲れ様。


「市場みたい!」


「ああ、縮小して屋内に入れた市場って感じになんのかな」

 

 普段は使わないカートなんか持ってきて、人の少ない店内をフラフラと漂う時間を持て余した人と女神。

 明日に向けて陳列されたであろう新商品、いつもは目につかないちょっと変わった缶詰、申し分程度に並ぶ総菜や弁当、いつもと変わらないお菓子……


 そしてカートに入れられるのは……結局は買い慣れたお菓子やジュースだった。


「思ったほど買わないよな、こういう時って」


「色々買っちゃおうって思ってたのにね」


 何か、を買いに行くっていう宛もない旅みたいな目的だからな。もっとこう……一番大きい袋が一杯になる程買ってみたいけど、いざ店に入るとそれ程欲しい物ってないんだよな。


「そっちの世界に夜中でもやってる店とかあるの?」


「ギルドと夜市があるわ。あとは……魔界はいつでも夜だから」


「ギルド? クエスト受ける場所?」


「ええ」


「魔物の討伐?」


「極稀に魔物の討伐もあるけど、一番多いのは山道を行く場所への護衛とか、どこにどんな魔物がいたのかの情報提供とか」


「……地味だな」


「あ、猫!」


「え? どこ? 猫? 何色?」


「ほら、あの柱の下!」


 電柱の下に、夜の闇を切り出したような真っ黒の猫が座っていた。

 俺達に気付くと、闇の中の目がゆっくりと細くなっていく。のんびりと立ち上がり、しっぽを立てて歩き出した。


「……ついて行ってみるか」


「猫に?」


「ほら、冒険冒険」


 のしのしと歩く黒猫に引き連れられる人と女神。ちゃんとついて来ているか確認するかのように、時折こちらに振り返るのがちょっと面白いな。黒猫も、まさか俺らが気紛れでついて来てるとは思ってないだろうな。


 真夜中の暇な一匹と一人と一柱は右に左に進路を変えて、近所の公園に辿り着くのだった。


 軽いステップでベンチに乗った黒猫はドテッと横になり目を細めてこちらを見ている。女神が撫でてやるとすぐにゴロゴロと喉を鳴らしながらお腹を出し始めた。


「わっ! 柔らかい!」


「モフらせる為に縄張りに招待したんだな、こいつ」


「あ、尻尾の先だけ白いのね」


 二人に撫でくり回されて右に左にくねくねと寝転がる黒猫は、時折俺や女神の手に顔を擦りつけながら喉を鳴らしている。

 ……こいつ誰か……いや、この公園に訪れる人たちにご飯貰ってるな。なんて健康的な体してやがるんだ。

 …………さっき買った物は……ダメだな、猫に食わせられそうな物はない。


 存分にモフられて満足したという風な黒猫は上品に座り直して毛づくろいを始めた。

 

 そんな黒猫に手を伸ばすと…………


「いってぇー」


割と強めの猫パンチを食らった。

 女神が触ろうとしてもチョイチョイと猫ジャブで牽制してくる。


「やっぱり猫って気紛れね、なりたみたい」


 ……ゴールデンレトリバーに言われたくねえ。


「さて、と、冒険も切り上げて帰るか。おっ、おお……」


 立ち上がった俺のスネに黒猫が体を擦りつけて通り過ぎ、そのまま女神のスネにも体を擦りつけている。


「……なりたみたい」

 

「どこがだよ……。こりゃあとんだツンデレだな」


 月に見守られながら辿る帰路。

 その後ろには小さな仲間が同行していた。

 結局アパートまでついてきた黒猫は階段の上まで来た所で座り、部屋に入る俺達を見送っていた。


「心配して見送ってくれたのかしら?」


「猫って人間を子供扱いするらしいからな、あながちあり得なくもないかもな」


「ふん! 別に私は心配なんてしてないから!」


「その返事のしようのない、微妙なツンデレもどきやめろって」


「なりた、こういうの嫌い?」


「嫌いだなぁ。学生の時に素でそういう感じの子がいたけど、避けてたもん」


 好きだから愛してるから、って理由はなんでも許される免罪符にはならないよな。

 そういうツンデレとか皮肉や茶化しは相互の愛情があって初めて許せると思う。それも言われた側の理解と信頼ありきで。


 勿論、女神にツンデレやられても特に不快じゃないけど、女神にそういうのはやらないでほしいな。

 らしくないっていうか……なんか嫌なんだよな。

 明確に言葉にはできないけど。

 

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