表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女神がきたりて  作者: 阿能比等
第二章
19/38

day18 帰宅

「ただい……あれ、いねぇや」


 珍しく誰もいない。

 まぁ、俺は一人暮らしだからな。これが普通なんだ。……けど最近、一人でいると妙に持て余すな。


 あー。

 …………あー、どうしよ。……飯食うか。


 台所の棚や冷蔵庫をごそごそやってると、いきなり玄関の扉が開いた。

 我が物顔で入ってきたのは片手に蓋が被せてあるアルミ鍋を持った女神。


「あら、帰ってたの?」


「ちょうど今さっき」


「あ、これ大家さんがあなたにって」


「お? なんだ?」


 蓋を開けると中にはひき肉の入ったカボチャの煮付けがこんもりと。

 この前も筑前煮を貰ったんだよな。なんか申し訳ないな。


「スープ?」


「煮物だな。よくくれるんだよ」


 ……ん?


「いい香り!」


「……おいお前! おま……今どっから! お前、これ、お前……」


「へ? 大家さん?」


「お前なに勝手に外に出てんだ! なに大家と仲良くなってんだお前!」


「え?」


 ついに、この女神の存在が近所どころか大家さんにバレた。

 あまりにも自然に帰ってきたから暫く気付けなかった……


「……大家さんなんて言ってた……?」


「お鍋はそのまま返してくれていいから〜、って言ってたわ」


「いや流石に洗って返すけど、そうじゃなくて……お前の事なんて言ってた?」


「何も言ってないわよ?」


「いや……いやいや、それはないだろ。自分のアパートからいきなりお前みたいなのが出てきてるんだぞ?」


「大丈夫! 神の権能で私の事は違和感なく受け入れられるのよ。ほら、この世界の神もよくお祭りにいるでしょ?」


「見た事ないけど……」


 その時だった。また玄関の扉が開いた。

 入ってきたのはテレシアちゃんだった。


「あ、お邪魔します」


「お前は違うよな!?」


「ひっ!?」


「神じゃないもんな!?」


「え? え?」


 女神はキョトン顔のままテレシアちゃんの隣に立ち、俺がさもおかしな事を言っているような雰囲気を出しながら言った。


「大丈夫よ? テレシアちゃんの場合は異界の者として世界が整合性を合わせるから」


 何故、世界はこいつらに対してこんなにも都合がいいのか。

 あれか、俺も向こうの世界に行ったらこんな感じで自然に受け入れられるのか?

 まぁ、行かないけど。


「なりたさん、お隣さんがこの書物をなりたさんに、と」


「ああ、回覧板ね。悪いけどさ、隣の部屋に渡してきてくれる?」


「はい!」


 なんか……とりあえず問題はなかったんだろうけど……。

 なんだろうな……何かが釈然としねえな。

 

 今、目の前でカボチャの煮付けを皿に移してる


「あ、そっちのプラスチックの皿にして。それレンジ使えないから」


 女神は俺の知らぬ間に大家さんと仲良くなってたのか……三日くらい前に会ったよな、大家さん。

 女神の事なんか、なにも言わなかったじゃねえか。


「あ、なりたが最近元気そうで安心したって大家さんが言ってたわよ? 何かいい事あった?」


「いや、何も。そんなに元気そうか? 自覚ねぇんだけど」


「私が初めてあなたに会った時よりずーっと元気よ? あ、これ美味しい!」


「そうか?」


「ええ、退屈そうで寂しそうで、なんだかつまらなさそうだったわ」


 そりゃあな、退屈な田舎の神社でテンション上がってる子供の方が稀だろうよ。

 

「あの時は場所がさ……」


「え? 場所?」

 

「……場所じゃねぇや、あの……場……合……ほら、なんとなくテンション上がらない場合があるだろ? そういう時だったんだよ」


「寝てたでしょ? この部屋で」


「え? ……あ、ああ……うん、寝てたな。お前を摘まみ出した日だよな」


「きっと、なりたも変わってきてるのね。最近のなりた、優しくなった気がするもの」


 それはきっと勘違いだろうな。

 確かに力技で摘まみ出したりとかはしなくなったけど、十年以上の時間をかけて熟成されたこの性格がそう簡単に変わる訳がないだろ。


 それとも、知らず知らずの内に女神たちに対して丸くなってんのかな。


「変?」


「へ? 何が?」


「俺が優しいと変?」


「そんな事ないわよ? 大好きな人が優しかったらなりたも嬉しいでしょ?」


「そりゃそうだけど、なんか裏があるような感じがしたりしない?」


「裏?」


「優しさって良くも悪くも理由ありきだろ?」


「私の優しさの理由は?」


「そんなの俺に聞くなよー」


 俺自身の優しさの理由もわからないのに他人のことなんて分かる訳ないだろ。

 それに、別に悪い理由じゃないんだったら何だっていいだろ。

 誰かが困る訳でもあるまいに。


「あ、そうだ! 何かお礼しましょう!」


「お礼……そんな大した料理なんかできないしなぁ」


「うーん……お花とかどう?」


「アパートの住人が? 大家に? いきなり花を? 気持ち悪がられるぞ」


「大丈夫よ、お花を貰って喜ばない女性なんていないわ」


「そんなもんか? ……お前、今日は暇?」


「ええ、勿論」


「行こ」


「え?」


「一緒に。花の選び方とか分からないから」

 

「私、今帰ってき」


「かぼちゃ、食ったもんな? 外に出ても大丈夫なんだよな? 花、提案したのはお前だもんな? ほら、行こう」


 花か。ドン引きされたりしないだろうな。

 元々、花なんか贈るような感じの人間じゃないし、そういう関係でもない気がするんだけどな。


 女神を引き連れて近所にある花屋へ入店すると、想像以上の見た事もない花達に出迎えられた。

 スーパーに行く道中にずっとあったけど、入るのは初めてだな。何より、花を買うのが初めてだ。


 緊張するな……


 女神は楽しそうだけど。


「で、どんな花がいいの?」


「そうね……どこにでも飾れるシンプルな花がいいと思うの」


 シンプルか……

 どれもシンプルに見えるな。


「…………難しいな」


「あ、これは? お菓子みたいで可愛い!」


 女神が指差したのは、小さな菊の花だった。


「それだけは絶対にやめよう」


 年寄りに墓参り用の菊の花とか挑発でしかない。

 確かに見た目はパステルカラーで可愛いけど。

 

 不憫だよな、人の作った役割のせいで。

 人の血に悲しめど菊の血に悲しまず……か?

 ちょっと違うな、慣れない剽窃なんてするもんじゃないな。

 

「あ、そうだ、赤い花探そうよ。大家さん、赤が好きみたいでいつも赤い物持ってるからさ」


「赤……赤……あ、バラ!」


「バラかぁ……」


 ちょっと勇気いるな……。

 大家さんと言えども女性にバラを贈るのか。

 でもなぁ、確かに他に良さげな赤い花って無さげなんだよな。

 それとも赤に拘るのをやめるか?


「この花、私の世界にもあるのよ」


「え? バラが?」


「ほら、前に言ったでしょう? 一つの世界から分岐してるから同じ物も私の世界にあるの」


「へえ、なんか面白いな。……バラ貰ったら嬉しい?」


「勿論!」


 他に候補は見つからず、真っ赤なバラを何本か包んでもらった。

 会計中に店員が「いいですね!」とか「最近は彼女に花を贈る人が減った」とか勘違いして言ってたけど、そんな風に見えてたのか。

 真っ赤なバラを大事そうに抱える女神も、端から見たら大切な人に花を貰った幸せな女性に見えてるのかな。


 何か一本くらい女神にも買ってやればよかったかな。


 アパートの一階の角部屋、大家さんの部屋の前に着くと女神は俺にバラを差し出した。


「それ、女神が渡してよ。男の俺がいきなりバラの花を贈るって、こっちの世界だと色々アレだからさ」


 呼び鈴を押すと、右目に眼帯を着け、長いパーマのかかった茶髪を無造作に真ん中分けにした七十二歳の老婆が庭の方から現れた。

 真っ赤な口紅が塗られた口でニヤリと笑っている。


「なぁんだい、見ない顏だと思ったらそういう事かい。なりたも隅に置けないねぇ!」


「いや、そんな関係じゃないです。すんません、最近色々貰っちゃってるんでお礼をって思って」


 女神が差し出すバラを見て、大家さんは何故か少し悲しげな顏をした。


「あたしにかい……ダメだねぇ、なりた」


「え?」


「花は嬉しいけどねぇ、それも真っ赤な花なんて。でも、あたしより先に渡す相手がいるだろうに」


「あ……まぁ……」


 半ば無理矢理にバラを渡した女神は笑顔で大家さんに言った。


「おばあちゃん、気にしないで? このお花は私からでもあるの。色はなりたが決めたのよ?」


「そうかい? なんだか悪いねぇ。なりたの話、いつでもあたしに相談しなよ? もし抵抗するようならあたしが押し込んでやるから」


「うん、その時はよろしくね?」


「なんだ俺の話って」


「なりたが突然この家から消えて無くなるかもしれないから先に話しておいたの!」


「ちょっと待てなんだお前ら……」


 もうほとんど誘拐計画じゃねえかよ。

 こっから先は大家さんも敵か……

 

 俺を見て意味深に笑う大家さんは


「なぁぁりたぁ!あんまり女の子を待たせるもんじゃないよ!」


 とか言ってるし。


 待たせてるつもりはないんだけどなぁ。

 待たせるよりももっと悪い、答えないっていう卑怯な選択をしてるのは何となく自覚してる。

 これでも精一杯考えてるんだぞ?

 答えは最初から決まってるようなもんだけど、何も考えてない訳じゃないからな?



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ