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黄金の王と死霊の城 −1−

死霊の城編です。カクヨムで2月中旬くらいに上げたやつ。まだ終わってない。

 鬱蒼とした森の中。

 いくつもの高木の並ぶその中で、地面から生える雑草を踏む何者かがいる。

 それは、得体のしれない汚れや使い古した事による金属の劣化と錆に塗れ、さらに飛散したものがそのまま付着しているのを一切落としていないかのような、一言で言えば汚らしい鎧を纏って、数体で群れていた。

 それだけでも異様の一言に尽きるが、異様なのは、纏っているものそのものである。

 何故なら、それは骸骨の様相をしていたからだ。

 彼らは身体と鎧をかたかた、がちゃがちゃと音を立たせながら、砂漠を彷徨うような足取りで、森の道を進んでいた──────所に、一条の銀の一閃が駆け抜けた。

 銀の光は鎧の骸骨の一団の一人の、文字どおり頭蓋骨を破壊すると、飛んできた方へと戻っていく。

「あ〜。一匹かー。ちょっと狙いズレちゃったかなー。」

 大方、今起こったことに相応しくはあまりない、間延びした声がした。

「はーっはっはっは!! ならば、私に任せ給え! なんたって、私は王だからな! 王たる力を見せてやろうではないか!!」

 と、続けて今度はやたら煩いほどの声量を持つ声が聞こえてくる。

 その声が聞こえたと同時に、赤紫色の光が鎧の骸骨の一団を包み込み───その光が獣の牙の形に変化し、鎧の骸骨たちに噛みつき、鎧ごと細い身体を砕き、さらに砕いて地面に落ちたものにも牙を向けて、細かく噛み砕いていく。

「うむ! ここまですれば大丈夫だろう! ………イーハイ!」

「──────『星光(クエイサー)』!!」

 どこからか放たれた青白い光の光線が、砕かれた鎧の骸骨の残骸を貫くと、そこには何もなくなっていた。 

「はーーーーっはっはっはっはァーーーーッ!! この吸血鬼の王ジャミル様から逃げようなどと思わないことだなァーーッ!!」

 突然、静かな森に豪快で場違いな高笑いが響いた。

 空中に現れた高笑いの元凶は、腰の下ほどまでに届く長い灰色の髪と、その髪を掻き分けるようにして背に生えている蝙蝠型の羽、真っ赤に染まる瞳と、豪快に開かれた唇から覗く上歯の一部が鋭いのが特徴的な、男の姿をしていた。

 それを地上から観ている人物がいた。

 中性的な顔立ちで、栗色の長い髪に、赤茶の瞳の、少し品のある男性である。

 彼は自分の後ろを歩いてきた人物に気がつくと、緩慢な動作で空中で笑いをやめない人ならざる姿のものを指さして、口を開いた。

「ねー、イーハイさん〜。アレってどさくさに紛れて張っ倒すとかって、ダメかなぁー?」

「…………えーと……後がややこしくなりそうだからちょっと勘弁して欲しいかな……?」

「そっかー」

 彼らはルビー大陸の北側にある大国『王都リューン』の冒険者ギルドの一つ、宿屋『こもれび』に登録している冒険者チームである『仮初探偵事務所』を名乗る者たちである。

 そのリーダーであるイーハイ=トーヴは、空中に飛んでいる仲間の一人の今だに続く高笑いに苦笑いを浮かべながら、溜め息を吐いた。

 その隣では、にこにこと笑みを絶やさないがちょくちょく辛辣……もしくは物騒な言葉を放っている仲間の一人、ルヨ=オークルが同じく空を見上げて、高笑いを上げる『吸血鬼の王』とやらに半分諦めの視線を送っていた。

「ところでさぁ〜、イーハイさん。もう周りにアンデッドの気配はないのかな?」

「うーん」

 イーハイはルヨの問いかけに答えるために、持っていた剣を───正しくは、一応聖剣の類いである───を緩く掲げて、精神を集中する。

「………この辺りにはもう居ないかな。あらかた片付いたと思う」

「そっかぁ。じゃあ、これくらいで引き揚げてもよさそうだね〜。」

「今のところは、ね。」

「じゃあ帰ろうかー。僕はお城に戻ったら別の仕事があるし。おーい、王様ー。このあたりはもういいみたいだから帰るみたいだよー」

「はーっはっはっ……、え、あ、終わり? そうなのか?」

「いや、そういうのはジャミルのほうが感知早いんじゃ……」

「全く意識してなかったから分からんかった!!」

「うーん……土に還る?」

「端的に辛辣か貴様ッッ!? あと私は吸血鬼の王!! どっちかっていうと土に還ったほうを操る側!! だってなんてったって私吸血鬼ぞ!? 吸血鬼の王ぞ!?」

「あのー、ルヨ、ジャミル、そろそろ良いかな……」

「あはは、ごめんごめん〜。早く引き上げようかー。ルッツさん達の方の報告も聞かないとだしねー」

「うむ!! 私としたことが王なのに取り乱していた!! 王なのに!!」

「王って関係あるのかな〜」

「ある!! 大いにある!! たぶん!!」

「…………えーと、ダメだこりゃ」

 イーハイは朗らかに笑うルヨと、いまだ騒ぎ続けるジャミルを交互に見ながら、仕方なしに先に歩き出すことにしたのだった。






《 黄金の王と死霊の城 》






 現在、ルビー大陸南東、『ダムス・ノストラス城』周辺を覆う大森林のほんの一角に彼らはいた。

 『ダムス・ノストラス』とは、ルビー大陸でも屈指の防御力を誇る要塞として現在も運用されている堅牢な城であり、また、城の内部に町を持つという特殊な構造をしている。

 そして、この要塞は基本的に、魔族の通り道となっている『ある場所』に対する最初の防壁として作られており、ルビー大陸においては魔族対抗の重要拠点の一つとして扱われていた。

 そういう背景があるからか、この『ダムス・ノストラス』にいる兵は他のどこよりも厳しい訓練や、実戦経験を兼ね備えており、その軍事力は王都リューンにも引けを取らないか、それ以上だと言われている──────のだが。

「それにしても、聞いていたとおり、異常なアンデッドの数だよね〜。毎日毎日、って団長さんは言ってたけど、本当に毎日って感じだし。」

 ルヨは自分の腰につけたミニバッグの中身を確認しながら、そのように言った。

「オレ達が滞在し始めて三日とも、それもほとんど同じ数のアンデッドが現れてるしね。団長殿の話だと、それが数ヶ月。いくら戦い慣れていると言っても、気が滅入る頃だよ」

「うむ、なにしろアンデッドだからな! 無尽蔵に増える兵と変わらん。毎日同程度同じ数の兵を敵に送るくらい朝飯前だ。それどころかその倍は現れてもおかしくはないぞ!」

「ちょっと〜、王様さぁ。怖いこと言わないでよ。吸血鬼の王様に言われるとホントにシャレになんないってぇ。ってか、王様が言わなくてもホントにできる話だから困るんだけどさぁ。」

「だーかーらー、対抗策として、わー! たー! しー! が!! 付いてきたのではないか! 褒めてもいいのだぞ? 褒めてもいいのだぞ!? 貴様たち!」

「いや、イーハイさん神聖魔法使えるしぶっちゃけそこまで役に立たなくない?」

「その通りだが泣くぞ貴様!!」

「あー、ほら、オレはアンデッド詳しいわけじゃないし、そこらへんはジャミルのほうがずっと詳しいだろ? 分からないで対処して、後が大変とか勘弁してほしいから、そういうとこで、ね?」

「え……やだ……貴様って、天使……?」

「………オレもなんかちょっと張っ倒したくなってきたかも」

「何故ェッ!?」

「それにしてもさぁ、そう思うと謎だよね〜。だって、王様の言う通り、例えば無尽蔵に兵が出せるならどうしてそうしないんだろうねぇ。数で押し切るくらいいくらでもできそうなのに」

「む? ああ、確かに無尽蔵に喚びだせはするが、それは誇張に近い表現でもある。もし本当に間隔を保たずに出来るなら、この世の殆どがアンデッド兵による代理戦争だらけだろう」

「あ〜、確かにそうかも。そしたら僕みたいな医者……いや、軍医的なやつのほうかぁ。そういうのいらなくなりそ〜。」

「うむ、まさに一国に一死霊術師と言うやつだな!」

「掃除機みたいだねぇ」

「…………絶妙に違うような合ってるような、なんとも言えない例えだなー……」

「えぇ〜、そうかなぁ。じゃあ、イーハイさんだったら何て言うのさぁ?」

「………………床暖房魔導器?」

「それならどっちかっていうと冷房じゃない? 夏の風物詩なほうで活躍しそうじゃん」

「うーん」

「そんなことよりも二人とも、そろそろ着きそうだぞ。何度見ても分かりにくいがな!」

「あ〜。ホントだ」

 イーハイとルヨがジャミルの声に顔を上げると、いくつもの高木の枝の間から覗く、レンガ造りの壁と鉄製の門が見えた。

 森に囲まれ、姿をほとんど隠しているが、その見た目にそぐわない程の巨大要塞『ダムス・ノストラス』の入り口の一つである。

 イーハイは歩きながら、自分の懐から宝玉のついた腕輪を取り出すと、それを自分の腕に嵌める。

 彼らが門の前に辿り着いたとき、イーハイはその腕を高く掲げてみせた。

 すると、腕輪の宝玉が淡く輝き始め、門の方から「がこん」という音が響いた。

 彼らの目の前で、重厚な鉄の門がゆっくりと金属音と、レンガに僅かに擦れる音を立てて上へと上がっていく。

 彼らが開いた門の向こう側へと通ると、もう一度大きな音がして、門が閉じ始める。

 それを見届けて、彼らが前を向くと、まず初めに聞こえてきたのは、市場の商人達が、道行く通行人に声を掛けたり、主婦達が雑談をし合って笑っている声だったり、子供のはしゃぐ声であった。

 要塞の中であり、空こそ見えない壁や天井に囲まれた空間に、他と何ら変わりない活気のある街の姿がそこにある。

 イーハイは、要塞であることよりもこれこそが『ダムス・ノストラス』の特徴なんじゃなかろうか、と思うほどに、彼らの生活が多少物理的に薄暗い街であるだけで安定した街だ、と考えていた。

「よう、戻ったか」

「ああ、ニックス。……そっちは先に戻ってたんだね」

 帰還した彼らの前に、赤髪赤目が特徴の、灰色のコートを着込んだ男───ニックス=ローウェルが現れた。

 彼はイーハイ、ルヨ、ジャミルにそれぞれ視線をやると、一つ頷く。

「西側方面は数が少なかったみてぇでな。見回りがてら、一応罠とか警報機の類だけ設置するだけして戻ってきた。参謀殿の考えな」

「そっか。お疲れ様。………ルッツの考えって、やっぱり東側に戦力を固めようって話かな?」

「ああ。最終的にここの連中が最初から考えていたことの実行で構わなそう、ってのがあいつの結論らしい。ま、そのへんも含めて後で本人から聞くことになってる」

「分かった。ありがとう」

「……あ〜。ところでニックスさんさぁ。そっちの、西側の兵の方々の被害状況とか知ってる〜?」

「ん? ああ、こっちは俺が手当出来る奴はしておいた。重篤な怪我をした奴もいねぇし、前に怪我した奴の継続治療だけでいいんじゃねぇかな」

「なら良かったー、ちょっと人数的に仕事増えるのは勘弁だったからさぁ」

「って、あくまで敵の少なかった西側の話だぜ? そっちの東側の兵士はそうはいかねぇぞ」

「うっ、た、確かに……」

「………………俺も手伝ってやるから。」

「マジ!? ニックスさんってば有能すぎー! 盗賊やめて医者にシフトしようよぉ、免許持ってるんだしさー」

「性に合わねぇよ、あとてめえと仕事したくねぇ」

「えぇー?」

「ったく、バカなこと言ってねぇで、とっとと医務室行くぞ。お前の仕事はこっからだからな」

「うう〜、ニックスさんが手伝ってくれるからいいけど僕ってば請け負いすぎ〜」

「自分で言うなら断りゃ良かっただろ……」

「えー、やだよ。僕の仕事はこれでも医者だからねぇ。そこはそこ、それはそれ、ってやーつ」

「……………まぁ、気持ちは分からんでもねーけど」

「おっ、マジ? 分かっちゃう〜? 分かっちゃうのか〜??」

「いい加減シバくぞてめえ!? ………あー……イーハイ、ルッツなら団長殿の所で話してる。詳しい報告はそっちで聞いてくれ……」

「えーと………色々ツッコミたいけどとりあえず分かったよ。」

「じゃあ、また後でな。」

「まったね〜。リーダー、王様〜。」

 ニックスとルヨはそれぞれ片手を上げると、そのまま街の方へと歩いていく。

 イーハイがそれを見ていると、ふわりと近くにジャミルが寄ってきた。

「……ところで、イーハイ」

「ん?」

「いや。私の気の所為ならばいいのだがな。念の為だ。団長に会いに行く前に伝えておきたいというか……意見として交換して置きたいことがある」

「………何か感じたとか?」

「まさに、その通りだ。この三日間の間に、随分と地脈を流れる魔力に変動があるようだ。微々たるもので、ヒトにはそれ程悪影響が出るものでは無いが……」

「君が感じるってことは、やっぱりそういう……死者の類が感じる魔力?」

「ああ。そうだろうな。後は無機物にも少し、影響が出るだろう。………まぁ、地脈の乱れくらいなら時期的なものも含めて多少、どこにでもある。あわせて、三日で私が一人で感じたことでしかない。あくまで違和感、とだけ言っておく。」

「………まぁ、アンデッドが増えている異常だと思えばそういう魔力の流れができてもおかしくないし……ってことだね」

「どちらにせよ、アンデッドが湧くような魔力の流れなんぞ、どうやったらそんな物ができるのかまでは分からんがな。ただ、その流れがもしもヒトが気がつくようなほど膨れ上がるなら……」

「実質、時間制限があるような話ってことかな?」

「ああ。私もその認識だ。」

「団長殿に報告するのは、話が確定してからにしよう。ルッツには相談する。それでいい?」

「うむ。それで構わない。私とて、無用な混乱を撒くようなことは本意ではないのでね」

「あ………でも、団長殿も、ある程度は掴んでたりするのかな。ここに赴任してから長いらしいし」

「確かあの者は、今年で赴任から三十年程だったはずだ。歴代の団長が魔法に明るかったかと言われると、そうでもなかったはずだがな。だが、専門家はいた。その知識の継承がされているか次第だな」

 言いながら、イーハイは目的地に向かって歩き出す。その後ろを、翼を魔法で消したジャミルが歩いて付いていく。

「その専門家っていつ頃いた人なの?」

「うーむ、私も流石にこの地方をしっかりと訪れるの自体が二百年ぶりだからな……だが、少なくとも八十年前にはそういう者がいた、という話は聞いたな。」

「じゃあもしかしたら、何処かにその人の記録とかがあるかもしれないね」

「うむ、調べてみる価値はある。それについても、ルッツに相談するのはありだな」

「………。………依頼を受けたときにジャミルに声をかけて良かったよ。ありがとうね」

「な、なななななな何だ突然胸キュンイベントを起こすなんて非常識だぞ貴様!?」

「ごめんちょっとそれは何言ってるか分かんない」

「どぼじで!? どぼじで自覚がないのだ貴様ばーーー!?」

「うわなんで急に号泣してるの!? あと鼻水押しつけないで!?」

 イーハイは号泣しながら自分の腕を引っ張る吸血鬼を宥めながら、覚束ない足取りにさせられつつ、街の中を進んでいった。

 ……多少、好奇の目に晒されていることについては諦めていた。







 ◇◇◇◇◇






「………おや。おかえりなさいませ。………どうされたのですかそれは」

 イーハイが扉を空けた向こうには、見慣れた、きっちり整えられて括られた鮮やかな金髪に褐色肌が特徴的な男の姿があった。

 扉を開ける音にゆっくりと振り返ったその男───ルッツ=トゥループは、イーハイの姿を見ると、一度は微笑みを浮かべていたが、彼の腕に縋り付くようにして引っ付いているジャミルの姿を見て、首を傾げた。

「ずび……ぐす……イーハイが悪いんだぁ……タラシなんだぁ………罪男なんだぁ………」

「…………今度は何をしたんです、イーハイ?」

「誤解だよ……」

「とりあえず、団長殿の前なのです。しっかりしてくださいませんか? というより、イーハイもそれをそのまま入らないでください」

「今、私の事を『それ』とか言わなかったか!?」

「ややこしくなるので一度黙らせましょうか。」

「スミマセン カンベンシテクダサイ ワタシガ オロカナ オウ デシタ」

「よろしい」

「……………………あのー、そろそろ良いかね」

「ええ、申し訳ありません。ハイン団長殿。」

 声をかけられて、ルッツが振り向いて視線を向けた先には、使い古されているが磨かれて手入れのされている鎧を身にまとった老年に入ろうかというくらいの男が立っていた。

 『ノストラス騎士団』の団長であり、『ダムス・ノストラス』の取締役も務める男───ハインリッヒ=ノストラスである。

 イーハイはハインリッヒと目が合うと、佇まいを───ジャミルをやんわり引き剥がしながら───直して、一礼した。

「いきなり騒がしくしてしまい申し訳ありませんでした。ただいま戻らせていただきましたので、ご報告にあがりました」

「イーハイ殿。連日の東側の森林内の警備及びアンデッドの掃討に力添えを頂き、感謝する。して、今日の東側の状態はどうでありましたかな」

「私どもが先日遭遇した数とあまり変わりはなかったように思います。ただ、別働隊の方々と数を合わせたら変動があるかもしれませんので、その確認も必要かと思われます」

「それでしたら、丁度イーハイ達がこちらにいらっしゃる少し前に、東側の別働隊からの報告がありました。私の方で確認させていただいても宜しいですか?」

「では、ルッツ殿に任せよう。イーハイ殿、報告書は彼に」

「分かりました。………ルッツ、頼んだ」

「ええ。少し待ってください。」

 ルッツは、イーハイから報告書を渡されると、すぐに既に持っていた書類の束の内容と合わせて確認を始める。

 暫し、紙の擦れる音や捲られる音が響く中で、イーハイ達はルッツが書類を見終わるまで黙って視線を向けていた。

 数分が過ぎた頃、僅かにルッツの頭が上がった。

「…………………何とも言えませんね」

 ルッツは、紫色の瞳が覗く目を細めて、そう呟く。

「アンデッドの群れが見つかった件数は、私達が介入した三日間でも、やはり一少ないか、二多いか。それともその逆か。それくらいの誤差しかありません」

「………そうか。では……」

「作為であろうな」

 ハインリッヒの言葉を遮るように、ジャミルの一言が飛んだ。

 イーハイ、ルッツ、ハインリッヒの視線が彼に向く。

「作為、とは?」

「我々の、魔族らしいやり方だ、という話だ。」

 ハインリッヒの問いかけに、ジャミルは溜め息交じりに答える。

「なるほど、何のことはない。言われてみれば『ヤツ』のやり口だと考えられなくもないな」

「ジャミル? なんか知ってるのか?」

「………同じ手口を見たことがある。憶測があっているなら、其奴かもしれんな。………何もなければ、滅ぼされてはいないはずだ」

「………もしも可能性があるなら聞いておきたい、ジャミル殿。教えていただけぬか?」

「『死霊王ローグレス』。肩書もそのまんまな、名前だけつまらんが面倒な王だ。大昔にヒト族と争うだけ争って、消息がなくなっていた。倒されたか逃げたのか、それともヒトをからかって満足をしたのか分からんがな。」

「どうして今さらそんなものが……?」

「さぁ。魔族───いや、闇の眷属と言える我々に、大義名分があるとすれば殆どが『気まぐれ』だ。例えば、冒険者などをしている、私のようにな!」

「そっかー、気まぐれかー。今、君が心変わりする前に浄化しちゃおうかなー」

「ちょっと待て私は今すごく普通のことを言っただけだぞイーハイ私は正義の闇の眷属ぞだから浄化しないでお願いします裏切りませんからお願いします」

「正義の闇の眷属の意味がよく分かんないけど、ならいいよ」

「あれ待って私今ホントに敵になりかけてたの??」

「まぁそれはともかくです」

「ともかくぅ!?」

「埋めますよジャミル」

「オトナシクシマス」

「よろしい。……どちらにせよそのような前例のある魔族がいる時点で、何者かがそれを模倣している可能性もあるでしょう。何せ、彼の言う通り『気まぐれさ』を持つ種族なのは本当なわけですから」

「………『仮初探偵事務所』の方々がそう言うならば、そうなのだろう。伝え聞いた話ではあるが、君たちは特に魔族との戦闘経験が多いと聞く」

「まさか。オレ………私どもの他にも、活躍している冒険者なんてごまんといますよ。魔族専門の冒険者も少なくありませんし。それに、ここは魔族との戦いの最前線になりやすい場所です。あなた方のほうが、よっぽど知識があるのでは?」

「それが、そうでもないのだよ。イーハイ殿。実のところ、本格的な魔族との戦いは、十数年前の、リューンのレナ女王が御即位される前の数度しか、我々の代では無い。実戦経験が多いとはいえ、それは『下級魔族』程度なら、という範囲であって、『上級魔族』クラスのものはその数度だけだ」

「………実際に、リューンの歴史書にも、レナ女王が冒険者としてご活躍をされていた頃に、何十年ぶりかに魔族の大きな動きがあった、とされています。下級魔族クラスも、大陸全土で見れば珍しいものでもありませんが……それでも『ダムス・ノストラス』の大森林内のほうが圧倒的に遭遇率は上がるそうで。そういう意味での実戦経験の多さはある、という話ですね」

「………ルッツ殿の言う通りだ。まぁ、安心してほしいのは、その数度の上級魔族との戦いを生き抜いた者たちはまだ前線にいる。故に戦えてはいる、………のだがな。」

「………イーハイ、先に医務の方へ回っていたニックスからの報告で、西側と東側から帰還した怪我人がかなり増えているそうで。損傷具合によって時間差で高熱を出し始めているような兵士も少なくありません。」

「細菌感染?」

「ええ。軍事の要ですから医者も看護師も、施設も数がありますが、………受け入れに限界が見え始めたということです」

「逆に言うと、それだけ被害が出てる、と……」

「結論としてはその通りです。ですが、その結論までの過程が問題すぎます。疲れ知らず、目減り知らずの兵が毎日同じ数だけ送られてくる、これが何を示すのかと言えば一方的な消耗戦です。こちらが動かせない兵を増やせば良いのですから、こちら側を必ずしも殺す必要がありません。怪我人でも一方的に増やし続ければ戦う能力を失わせられるのですから、こんなに簡単な話はありません」

「強いて言えば、この世界は魔法の世界だから、感染症に対しては魔法で防護膜を張れることは幸い、ってくらいだね……。でもそれも、医療側の人手不足があったら意味がない……」

「それに関しては、『こもれび』からカスパルさんもお呼びしましょうか。主に獣人専門ではありますが、診れないわけでは無いですし、人手の確保のほうが重要です。………それから、ハイン団長殿、近場のクルセウスの方からの連絡はまだ頂いていませんよね」

「ああ。まだご返答は頂いていない」

「………だ、そうです。イーハイ。……ハイン団長殿、この状況です。私共への依頼内容の変更を提案させていただきますが。」

「………………そうだな。貴殿らには警備と掃討の依頼を出していたが、ルッツ殿の言う通り、内容を変えるべきだろう。………しかし、………」

 ハインリッヒの言葉を聞きながら、ルッツはイーハイに視線を送った。

 それを受けて、イーハイは一つ頷き、一歩前に出て口を開く。

「………ハイン団長殿。私共から内容のご提案してもよろしいですか?」

「………何だろうか?」

「依頼内容を『アンデッド発生の原因の解明、できるなら解決』………で、どうでしょう。依頼料は初期提示分のままで構いません」

「……………本気かね?」

「あくまでも現状は依頼ですし。失敗は私たちが死ぬか、何も掴めず、という時の二択しかない訳で、依頼料についても成功報酬です。もしもこのまま警護のみを続けるのなら、現場の永久継続は不可能と判断してこの場から撤退するしかない。それが冒険者です。本質は根無し草ですから」

「──────なるほど。……相分かった。それならば、依頼の内容の変更を行いたい。内容は貴殿が申した通りの『アンデット発生の原因の解明、できるなら解決』。それでお願いしたい」

「分かりました。……ありがとうございます。後ほど最初の依頼書をお持ちします。そこに依頼変更の承諾印、それから別紙で再依頼の申請をお願いします」

「承知した。引き続き、よろしく頼む。『仮初探偵事務所』の方々。」

 イーハイはハインリッヒの言葉に頷いてみせた。

「ジャミル。この後少し残って頂けますか。貴方が掴んでいることもあるでしょう?」

「む。参謀殿には言う前にお見通しか。良かろう! 王たる、わ! た! し! が! 役に立ってみせようぞ!」

「………役に立つ、ってセリフが絶妙に王って単語と合わないね?」

「イーハイ〜?? 今日私に全体的に当たりが強くないか!? 冷たくない!? 冷たすぎないか!? あっでもちょっとそれはキャラ的にも美味しいところを感じるのでそのまま……」

「ハイン団長殿、近場に丁度いい土壌のある土地はありませんか? まずコレから埋めようと思いますので」

「………今、貴殿はそちらの方と作戦を立てるようなことを言ってなかったか……?」

「気が変わりました♪」

「やだ……魔族より魔族がいる……コワイ……」

「あー、と………一度、オレ……じゃなくて、私は退出させていただきますね……?」

「なんかそのー……非常に不安になってきたが……分かった。貴殿もゆっくり休んでくれたまえ。」

「ありがとうございます。………あれ、そういえば……ルッツ、設楽さんは?」

「ああ、設楽さんなら先に宿舎の方でお休みになってますよ。お顔を出して差し上げては?」

「……なんかあった?」

「見れば分かるかと思いますよ」

「え……うん。分かった。それじゃあ、先に。」

「ええ、また後で。」

 イーハイはハインリッヒに向かって一礼すると、部屋を出ていった。




(続く)


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